表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1451/1520

1395 ハルマゲドン(51)

 妹ドーラに見捨てられたというアルゴドラスに、警戒しつつもクジュケは「どういう意味ですか?」とたずねた。

 が、アルゴドラスの答えは「くわしい経緯いきさつはわからぬ」というないものであった。

「この小僧こぞうつながる『識閾下しきいきか回廊かいろう』に入り込む際、二人分の幽体アストラルボディでは負荷ふかが掛かり過ぎるだろうと事前に相談し、アルゴドーラだけが行くことにしたのだ。無論、途中経過を知らせるという約束であった。ところが突然、別れを告げるような思念を送りつけて来ると、内側から回廊をふさぎおったのだ。最初から計画していたとは思えぬから、中で何かあったのだろうな」

「何かとは何だ?」

 尋問じんもんするような口調くちょういたのはツイムの方である。

 アルゴドラスはジロリとにらみつけた。

「海賊上がりだとしても、長生きしたくばもう少し礼儀をわきまえよ。二千年前の聖王宮せいおうきゅうなら、即刻そっこく打ち首だぞ」

 ツイムは鼻を鳴らした。

生憎あいにくだな。今は二千年前じゃねえし、あんたも聖王じゃねえ。カルス王の王政復古おうせいふっこ当時は、王の伯父おじとして大元帥だいげんすいドーンを自称じしょうしていたが、その後はすっかり魔女ドーラに主役の座をゆずったみてえだな。現在のガルマニア合州国がっしゅうこくでも、大統領プラエフェクトス補佐官兼州総督エクサルコスの地位にあったのはドーラで、あんたは完全に日蔭者ひかげものに」

「よしなさい!」

 ツイムの悪口あっこうさえぎったのはツイムであった。

 しかし、アルゴドラス本人はあまり気にするふうもなく、平然とこたえた。

「動き回るには、妹の方が便利であったからな。には跳躍リープ浮身ふしんもできぬ。唯一できる魔道は、見かけを若くすることだけだ。まあ、一時的には筋力も壮年そうねんの頃に戻せるのだが、さすがに筋力だけでは空は飛べぬからな。聖剣さえ手許てもとにあれば、こんな不自由はせずにんだものを。結局、最後の最後まで悪友に邪魔じゃまされ続けたよ」

 何か言いたそうなツイムの機先きせんを制し、クジュケが「サンジェルマヌス伯爵はくしゃくですね」と話を引き取った。

「わたくしたちとしては、伯爵に感謝してもしきれません。が、それはそれとして、あなたさまは、これからどうするおつもりなのですか?」

 アルゴドラスは苦笑した。

「正直、自分でもどうしたら良いのかわからぬ。このまま妹が聖剣を手に入れたとして、肉体を持たずにどうするつもりなのか……ああ、そういうことか」

 アルゴドラスの表情の変化を見ていたクジュケもすぐにピンと来たらしく、顔色を変えた。

「わたくしはすぐにエオスの大公宮たいこうきゅうへ戻ります。あとのことは、ツイム大臣におまかせします」

 あわただしくその場からリープしようとするクジュケに、入口近くに立っている魔道屋スルージが「あっしも一緒に行った方がいいですかい?」と聞いた。

 一瞬迷ったが、クジュケは首を振った。

「いえ。ジェルマ少年もまだ目醒めざめていませんし、このおかたの見張り役も必要です。残ってください。向うで何かあれば、ドーラさまが戻って来る可能性もなくはないので」

 その言葉を聞いて、ツイムもやっと「そうか、そりゃ大変だ」と声を上げた。

「ここはおれに任せ、早く行ってくれ!」

 すで防護殻シールドに包まれ始めていたクジュケの口が「お願いし」と動いたが、言葉尻ことばじりの部分はもう見えなかった。

 残されたツイムは、改めてアルゴドラスを見た。

 自然と王者おうじゃ風格ふうかくただよう相手に気圧けおされぬよう、はらに力を込めて告げた。

「本来なら船底の牢に入れるべきところだが、両陛下の祖父であることをかんがみ、賓客ひんきゃく用の船室に入ってもらおう。ただし、スルージを含めた数名の見張りを付ける。いいな?」

 アルゴドラスは肩をすくめて見せた。

「仕方あるまい。そのわり、一流の料理と葡萄酒ウィヌムを提供するのだぞ」

 奥歯をめて込み上げるいかりにえたツイムは、スルージに「案内してやってくれ」と頼んだ。

「船長室の横のでっかい部屋でやんすね?」

「ああ。近くに副長のオコモがいるはずだから、今おれの言ったことを伝えてくれ」

 スルージが返事をする前に、アルゴドラスが「料理と酒の件も忘れずにな」とかぶせるように告げた。

 ツイムは小さく舌打ちしたが、「それも、だ」と追加した。

合点承知がってんしょうち!」

 スルージに先導され、悠揚ゆうよう迫らぬ風情ふぜいで歩み去るアルゴドラスの背中をにらみつけていたツイムも、あきらめたように吐息といきすると、いまだに眠り続けているジェルマのそばに寄った。

 その寝顔は安らかで、寝息も規則正しいが、やはりどこか不自然であった。

「そうか。さっきからまったく寝返りしねえな。全身の筋肉がゆるんでるみてえだ。クジュケが魔香まこうって言ってたからな。昼寝どころか、夜だってこんなにグッスリは眠らねえ。が、いずれ効果は切れるはずだ。ここで待って、父ちゃん母ちゃんが無事だったことを教えてやんなきゃ」

 ツイムは自分の息子であるかのように、やさしい目でジェルマを見ていた。



 が、見た目とは裏腹うらはらに、その時ジェルマは悪夢の中にいたのである。

 周囲は家々が崩壊した瓦礫がれきだらけであり、木材がブスブスとげるようないがらっぽいにおいが立ち込めている。

 どんよりと曇った空から、轟々ごうごうという腹に響くような音が聞こえ、時折、ヒューッと甲高かんだかい別の音がしたかと思うと、耳をつんざくような爆発音がした。

「こ、ここはいってえ、どこなんだ?」

 ジェルマは本能的に、ここが中原ちゅうげんとは異なる世界だと感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ