表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1434/1520

1378 ハルマゲドン(34)

 その少し前。

 エオスの大公宮たいこうきゅうの大会議室に、関係者十名が集まっていた。

 四角いテーブル六台が大きな長方形を作るように並べられ、中央には一回り小さな長方形の空間ができている。

 この建物のあるじニノフと女王ウルスラを正面に、左側には、ゲルヌ皇子おうじ統領コンスルクジュケ、情報軍将軍ロックの三名、右側には、大公補佐官ボロー、大公軍将軍ペテオ、東岸とうがん地区警備軍将軍ロレンゾの三名、そして手前側に、項垂うなだれた新辺境伯しんへんきょうはくアーロンと子供用の高椅子ハイチェアに座った情報屋ギータの二名である。

 冒頭ぼうとうに改めてニノフが経緯けいいを説明し、その後、ゲルヌから報告があった。

「つい先ほど、カールから伝書コウモリノスフェルが来た。手懸てがかりを見つけたので急行する、とのことであった」

 皆ホッとしたように表情をゆるめる中、ロックが鼻を鳴らした。

「なんでえ、おいらせっかく張り切ってたのにさ。あの地味じみな顔のおっさんに、手柄てがらひとめされんのかあ」

 となりにいるクジュケが、「これっ、口をつつしみなさい」とたしなめた。

 と、伊達髭だてひげひねりながら、ペテオが口をはさんだ。

「でもよ。カールさん一人にまかせっきりで、いいのかな?」

 それには、カールの主人であるゲルヌが答えた。

「心配にはおよばぬ。カールの隠形おんぎょう中原ちゅうげん随一ずいいちだ。かつてあの魔女ドーラにすら、気づかれなかったのだからな」

 その名前を聞いて、ウルスラが「お祖母ばあさまのことだけど」と表情をくもらせた。

「わたしが聖剣を渡す約束の日は、明日よ。今日中にウルスが無事に保護されなければ、わたしは、明日の朝一番にガルマニアへ行くつもりなの。勿論もちろん、すぐに聖剣を渡しはしない。できるだけ説得し、時間を引きばしてみるわ」

 こらえ切れなくなったのか、アーロンが嗚咽おえつと共に「申し訳ございません」とびながら椅子からり、ゆかに両手をいた。

「どのような処分でも甘んじてお受けいたします。死ねとおっしゃるなら、今この場で」

 ハイチェアからポンと飛び降りたギータが、アーロンの背中を小さな手でさすりながらなだめた。

「誰もおぬしをめはせん。そのような謝罪は、かえってウルスラを困らせるだけじゃぞ」

 ウルスラも「ギータの言うとおりよ。アーロンさんのせいじゃないわ。今回の件は、むしろウルスの」となぐさめようとした、その時。

 ビクンとウルスラの身体からだ痙攣けいれんし、椅子を倒すほどの勢いで立ち上がった。

 何事かと皆が注目する中、ウルスラの顔が泣きそうに引きゆがみ、悲鳴のような声で絶叫した。

うそだ嘘だ嘘だ嘘だああああああーっ!」

 ポロポロと涙がこぼれ落ちるその目が、みるみる青くまって行く。

 完全にコバルトブルーの瞳に変わったところで、自身も同じ両性アンドロギノス族であるニノフが、真っ先に気づいた。

「ウルス、なのか?」

 泣きながらも「え?」と不思議そうに周囲を見回し、そこにゲルヌの顔を見つけると、さらに大声で泣きじゃくった。

「ああ、ゲルヌ、ごめんね、カールさんが、カールさんが……」

 ゲルヌの額に赤い第三の目が光った。

「落ち着け、ウルス! ちゃんと状況を話せ!」

「う、うん」

 流れ落ちる涙をぬぐおうともせず、ウルスは途切とぎれ途切れに拉致らちされて以来の出来事できごとを説明した。

 不明瞭ふめいりょうなところは何度かゲルヌが聞き返したが、さすがにカールが剣で刺されたくだりで絶句した。

 しばしの沈黙の後、ギータがポーンとウルスのそばんで来て、静かにたずねた。

つらいであろうが、大切なことなのでえて聞く。ウルスラは今、どうしておる?」

 涙は止まったものの、まだ悄然しょうぜんとした顔でウルスが答えた。

「ああ、そうなんだ。ぼくもいきなりのことでビックリしたんだけど、心のどこか奥の方でゾイアが眠っているのは感じるんだけど、姉さんの気配は全然ないんだ」

 ギータの皺深しわぶかい顔が、苦悶くもんするようにゆがんだ。

「いかん! ウルスラが危険じゃ!」



 床に手を着いてあやまるアーロンを慰めようとしたウルスラは、不意ふいに強い眩暈めまいを感じた。

「……責任だわ。ああっ、ど、どうしたのかしら?」

 眩暈がおさまり、最初に目に飛び込んで来たのは信じがたい光景だった。

 魔道師の服装をした男が目の前に立っており、その背中から血塗ちまみれの剣先が突き出しているのだ。

 血はあとから後から流れ落ちて、魔道師の足元に血溜ちだまりができている。

「ええっ! どうしたの、これは……」

 衝撃のあまりウルスラは現実感を喪失そうしつし、夢を見ているかのように茫然ぼうぜんとしていた。

 周囲を見回すと、明りりの高窓たかまどしかない密室で、剣が刺さった魔道師以外に壁際かべぎわにもう一人、長い灰色の髪の男が倒れていたが、その顔は白い平面であった。

 その平面に切れ目のような口があり、そこから「ほう」という声が聞こえた。

「これはこれは、ようこそ女王さま。これほどの距離をへだてているにもかかわらず、しかもわれらの張った電磁障壁バリアをものともせず、一瞬にして人格交代が行われるとは。ああ、そうか。これぞ多数派マジョリティの報告にあった異次元通路、所謂いわゆる識閾下しきいきか回廊かいろう』か。ふむ。すると時空干渉機タイムスペースコントローラー、つまり聖剣もそこにあるのだな。おお、こうしてはおれぬ。この男の身体からだはもう動かぬから、直接女王を支配するしかあるまい」

 切れ目のような口が何かを咀嚼そしゃくするように動き、小さな金属片がニュッと出て来た。

 その金属片はクネクネとうごめいており、切れ目のような口が一旦いったんすぼまると、ウルスラ目掛けてプッと吹き出された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ