表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1425/1520

1369 ハルマゲドン(25)

 何か起死回生きしかいせいさくはないかと問うドーラに、サンテを伝声管でんせいかんわりに使っている白魔ドゥルブは、あると答えた。

「ほう。あるなら聞かせてくりゃれ」

 ドーラにうながされ、白い平面の顔の切れ目のような口が、饒舌じょうぜつに説明した。



 実のところ、われらの集合意識本体の機能は、現在二十七パーセントまでしか回復していない。

 おまえにわかりやすえば、三割弱さんわりじゃくだ。

 何とか三割の壁を越えようと努力はしているが、捗々はかばかしくはない。

 まあ、それも当然で、本来なら五百年間は休眠状態になっているはずだからな。


 おお、そうだよ。

 おまえの孫がしくじったわけではない。

 われらとて、何度も同じてつまぬよう、今回は事前に準備したのさ。

 われらが宇宙船スターシップは、超光速駆動機ワープエンジン大破たいはして動けないのだが、観測用の無人探査機プローブいくつかは、修理可能な状態だった。


 え?

 わからない?

 そうか。

 うーむ、ならば、大型の伝書コウモリノスフェルのようなものと思ってくれ。

 それに、われらの集合意識の断片フラグメント搭載とうさいし、この惑星の衛星軌道に乗せた。

 まあ、ひらたく言えば、上空をグルグルと巡回させていたのだよ。

 その後、時機タイミングをみて順次軟着陸ソフトランディングさせたが、大半は失敗し、燃えきてしまった。

 修理はしたものの、部品は純正品ジェヌインではなかったからな。


 はあ?

 話が回りくどい?

 ああ、すまん。

 ともかく、地上に無事に辿たどいたあと、集合意識本体の再稼働リスタートにまでけたのは、わずか二機であった。

 その二機が多数派マジョリティ虚無主義ニヒリズムと、われら少数派マイノリティ覇権主義ヘゲモニズムであったのは、運命の皮肉というものだな。


 何だって?

 ああ、わかったよ。

 もう少し端折はしょって話すよ。

 そうして再稼働を始めたのと並行して、船内の工作機械でつくった掘削機くっさくきで北方の地面に穴をけ、いざという場合の避難所シェルターの建設を始めた。

 ところが、これはすぐに頓挫とんざした。

 何故なら、あの付近は、地上は氷の世界なのに、地面の下にはたぎ岩漿マグマがある。

 つまり、ドロドロの溶岩のまりになっているのだ。

 もっとも、最近になってその利用法を思いつき、北極の海水を地下へ流し込み、北方の地面を下からあたためるのに使っているよ。


 何のためかって?

 人工実存アーティフィシャルエグジスタンス、つまりゾイアにこおらされた非位相病素ストレンジウイルス感染者、おまえたちの腐死者ンザビかすためさ。

 これは上手うまく行くと思っていたのだが、ゾイアの身体からだに乗ったおまえの孫娘まごむすめ飛来ひらいして、また凍結させてしまった。

 これ以上地下に熱水を導入すれば地面が崩落ほうらくし、せっかくのンザビももれてしまうから、徐々じょじょに融けるのを待つしかないのだが、そうするあいだに、またおまえの孫娘が凍らせに来るだろう。

 これではりがない。


 わかってる、わかってる。

 ここからが本題だ。

 敵の弱みをくのが軍略の基本だが、おまえの孫娘も、腹違はらちがいの庶兄しょけいひきいる軍勢も、なかなか手強てごわく、弱点が見えぬ。

 ところが、おまえにはもう一人、孫がいるではないか。

 そうだ。

 畑仕事には熱心だが、あらそごとこのまない気弱きよわな弟が。

 われらも以前は油断して、この軟弱なんじゃくな弟に中和されてしまったのだが、今は時空干渉機タイムスペースコントローラーすなわち聖剣も使えず、勝気な姉とも切り離されている。

 攻めるなら、ここしかないだろう。

 弟が危機的状況におちいれば、勝気な姉もたすけに行かざるをない。

 われらはそのすきにンザビを解凍かいとうし、河底かわぞこ忌々いまいましい甲殻類クラスタを全滅させ、ンザビの大群たいぐん中原ちゅうげんに送り込んでやるのさ。

 どうだ、面白かろう?



 切れ目のような口の口角こうかくを耳元まで上げて笑う白い顔を見ながら、ドーラも目をギラつかせた。

成程なるほどのう。わたしもウルスラやニノフの動きにばかり気を取られ、ウルスのことは忘れておったわい。よかろう。その案に乗った。じゃが、わたしが動けば、向こうに気づかれるやもしれぬ。おぬしらにまかせてもよいかの?」

 白い平面の顔のまま、サンテはうなずいた。

「いいとも。ただし、場合によっては、軟弱な弟を殺すことになるかもしれぬが、それでもよいか?」

 さすがにドーラも一瞬顔をしかめたが、何かを吹っ切るように強い口調くちょうで答えた。

「構わぬ。好きにするがいい」



 その頃、何も知らぬウルスは、スカンポがわ下流域の新辺境伯領しんへんきょうはくりょうで充実した日々を送っていた。

「姉さんには悪いけど、これはこれで大切な仕事だもんね」

 自分に言いわけするようにひとちながら、図面のようなものを熱心に見ている。

 そこへヒョロリとせた中年の男が近づいて来た。

 灰色の長い髪と同じ灰色の無精髭ぶしょうひげをだらしなく伸ばした男で、瞳の色も薄い灰色であった。

陛下へいか、そろそろ灌漑かんがい用の水路の方へご案内いたしましょうか?」

 ウルスのコバルトブルーの目がパッとかがやいた。

「うわあ、たのしみだなあ。ユーダさんが案内してくれるの?」

「はい。施設を見学してくださる皆さまをご案内するのも、監督官たるわたしのつとめですから。馬をご用意しておりますので、どうぞこちらへ」

 近くにつないであった二頭の馬に乗ると、二人は河と並行に南下した。

 馬を並足なみあしで進めながら、ユーダという男がウルスに説明している。

「スカンポ河から直接水が引ければ簡単なのですが、ザリガニガンクの食べ残したンザビの残滓ざんしが混入するおそれがあるため、浄水場で何日もかけて不純物を沈殿ちんでんさせ、上澄うわずみだけを水路に流すようにしています」

「あ、じゃあ、先に浄水場を見せてよ」

 ユーダは首を振った。

「残念ですが、それはできません。ンザビの残滓もそうですが、時々おかしなものが流れて来ますので」

「おかしなもの?」

「ええ。小さな金属片のようなものですが、クネクネとうごめいていたのです」

「へえ。何だろう? ちょっと見てみたいな」

「申し訳ありませんが、すでに処分いたしました」

「捨てたの?」

「いいえ、違います」

 何がおかしいのか、ユーダは急に笑い出した。

「わたしがみ込みました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ