表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1410/1520

1354 ハルマゲドン(10)

 大公宮たいこうきゅうの密室では、話し合いが続いている。

 聖剣を使用する決意を固めたウルスラに、ゲルヌがたずねた。

「聞いてよければだが、聖剣は今、どこに保管してある?」

 ウルスラがうなずいて見せると、クジュケが答えた。

「以前は、ドーラさまに気取けどられぬよう結界袋けっかいぶくろに入れた状態で、わたくしが双王宮そうおうきゅうなまり手文庫てぶんこにしまっておったのですが、使用者がドーラさまとゾイアどのに限定されてよりのちは、ゾイアどのによって『識閾下しきいきか回廊かいろう』にかくされているはずです」

成程なるほど。すると、ゾイアの身体からだあずかっているウルスラは、いつでも聖剣を取り出せるのだな?」

 ウルスラは肩をすくめた。

「そういうことね。でも、残念だけど、『識閾下の回廊』から出した途端とたんにお祖母ばあさまに気づかれるわ。命令者としてはお祖母さまが一段上だから、そこへ飛んで来て聖剣にめいじられれば、それ以降はお祖母さまの命令しか聞かなくなるでしょうね」

 と、ずっと考え込んでいたニノフが提言ていげんした。

「こうしてはどうだろう。お祖母さまが、われわれ子孫には聖剣を使えないように命じたことはくつがえせないとしても、聖剣に自身の複製を作らせ、その複製におれの命令だけを聞くようにすることはできるはずではないか。その複製でおれが白魔ドゥルブを中和するのさ。これなら、お祖母さまにはどうすることもできまい?」

 唇をんで考えていたウルスラが、首を振った。

駄目だめよ。複製とは、すなわち魔剣よ。それだけが原因ではないでしょうけど、五百年前に魔剣でドゥルブを中和したことで倫理観が崩壊し、それがお祖母さまが魔女化した一因いちいんになったと聞いているわ。ニノフにいさまがそんなことになったら大変よ」

 それでもニノフは引き下がらなかった。

「ならば、ドゥルブを中和したあと、魔剣と共におれを抹殺まっさつしてくれ。この世界を救えるのなら、この生命いのちささげてもいはない」

「そんなのいやよ!」

 感情がたかぶって来た兄妹きょうだいを、ゲルヌがなだめた。

「まあ、待て。もっとほかにいい方法があるはずだ。以前、ドゥルブの代理人エージェントからゾイアの身体からだうばい返すため、今はき第一発言者プライムにやってもらったように、一度聖剣をドーラに渡してドゥルブを中和させてから、聖剣自身に時間をさかのぼらせるというのはどうだ?」

 その時にも立ち会っていたクジュケが「ドーラさまは同じ手はわないでしょう」と、吐息といきじりに否定した。

「プライムどのの役目をわたくしがしても良いですが、とても誤魔化ごまかし切れません。いや、ドーラさまのことですから、聖剣を目にした瞬間に、自分以外の者から事前に受けている命令をすべて無効にせよと命じられるでしょう。それでドゥルブを中和してくだすったとしても、二度と聖剣を取り戻すよすがはなくなり、この世界はドーラさまのものになります。いえ、場合によっては中和すらせず、この世界をドゥルブと共同統治されるかもしれません。そうなったら最悪です」

 ニノフが「いや、お祖母さまなら、中和はするだろう」と口をはさんだ。

原種オリジン両性アンドロギノス族であるお祖母さまの余命よめいは、長くてもあと百年ほどだ。無限に近い寿命じゅみょうを持つドゥルブを生かしておけば、その後どうなるかは目に見えている。まあ、たとえ中和してくださっても、五百年後には復活し、その時聖剣を使える者がいなければ、結果的に同じことになるが」

 ゲルヌが父譲ちちゆずりの秀麗しゅうれいな顔を引きめて、父のゲール帝ならば言ったであろうことを告げた。

「と、なれば、方法は一つしかない。聖剣を使用する前に、ドーラを暗殺するのだ」



 そのドーラは、バローニャ州の州都しゅうとネオバロンの自分の城に戻っていた。

 白い長衣トーガからもっと楽な普段着ふだんぎに着替え、執務用の机に座って考えごとをしているようだ。

「お帰りなさいませ、ドーラさま」

 そう言いながらドーラの私室に入って来たのは、執事しつじのサンテである。

 死んだ魚のような目をうつろにひらき、顎鬚あごひげまった顔の口の位置にある金属の格子こうしから声を出している。

 両手で金属のトレイささげ持ち、その上にな血のような葡萄酒ウィヌムたしたさかずきっていた。

 それを見たドーラの片方のまゆがクイッと上がった。

「ほう? 気がくのう。ちょうど一杯いっぱい飲みたいと思うておったのじゃ。持ってよ」

かしこまりました」

 サンテはトレイを片手に持ちえ、いた方の手で杯のの部分を軽くまむと、そっと机の上に置いた。

 ドーラはすぐには飲まず、杯をジッと見ている。

 その杯はドーラが特別につくらせた切子細工きりこざいくほどこした硝子製ガラスせいのもので、ウィヌムの赤い色が良くえていた。

 ドーラは優雅ゆうがに柄の部分を摘まんで杯を持ち上げたが、口には運ばず、上下を逆にするとザアッと机の上に中身をこぼしてしまった。

「これはどういうことじゃ、サンテ?」

 聞かれたサンテは、とぼけているのか、の抜けたような声を出した。

「はあ。何がでございましょう?」

 すると、サンテの死んだ魚のような目にも見えるようにか、ドーラは机の上にぶちまけられたウィヌムの中から、小さな金属片のようなものを摘まんで持ち上げた。

 その金属片は、まるで生きているようにクネクネとうごめいていたのである。

(作者註)

 聖剣がドーラに奪われそうになり、第一発言者プライムが身を挺して防いだ件については、963 代理人(14)をご参照ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ