あらすじ(1301 遥かなる帰路(30) ~ 1350 ハルマゲドン(6))
万年樹の上にある広場に先に到着したウルスラ・ファーン・スルージの三人は、自警団らしい屈強な男五人と遭遇した。
広場に自生している蕎麦が気になるウルスが自ら交渉役を買って出て、一人で男たちの首領らしい男と話し合った。
しかし、ウルスがうっかりハリスの名を出したところ、以前ゲオグストでハリスの取り締まりを受けたという男たちが色めき立ち、一触即発の状態になってしまう。
今将にウルスに斬り掛かろうとする男の頭上から、ゲオグスト商人組合のビスマッハ老人が大声で止めた。
巨大鳥人形態のゾイアからビスマッハらが降りて来ると、コドウィックというその男は不承不承剣を納め、仲間と共に去って行った。
その後、少年の形態に戻ったゾイアに、ファーンは自分は本当は母ではないと教え、ゲオグスト商人ギルドの人々を連れてガーコ州へ行くから、ここでお別れだと告げた。
やがて広場に集まったゲオグスト商人ギルドの人々に、ウルスは身分を隠して切々と訴えた。
ガルマニア人の親友が母国の現状を憂えていること、移住先としては、ハリスのガーコ州が一番望ましいこと、などを語った。
聴衆にはウルスのこともゲルヌのこともバレバレではあったが、概ね賛成された。
が、一人がコッソリ抜け出し、話の内容をコドウィックらに伝えると、早速悪巧みを考え始めた。
ゲオグスト商人ギルドの人々はウルスの提案を受け入れ、翌日にはガーコ州へ向けて出発することも決まり、その夜は祝宴となった。
スルージとギータは馬の番に行き、ラミアンは人々の質問に答え、ファーンはビスマッハらと明日の打ち合わせをする中、取り残された形のウルスと少年ゾイアは母の話になった。
殺されたウィナ妃の記憶のないゾイアに、ウルスは辛いながらも自ら語って聞かせた。
すると、ゾイアの顔の部分だけがウィナそっくりに変わり、ウルス/ウルスラは感動した。
翌朝、ファーンに率いられてゲオグスト商人ギルドの人々が出発した後、ウルスたちも馬で進み始めたが、すぐに吹き矢で痺れ薬を打たれて落馬した。
一人平然としている少年ゾイアの前に、コドウィックら五人組が現れると、ゾイアは狼に変身して襲い掛かった。
ルプスとなったゾイアはコドウィックを押さえつけた。
手下たちがゾイアを攻撃したが、掠り傷すら負わせることができず、逃げ出してしまった。
その間、倒れているウルスたちの呼吸が乱れ始めたため、ゾイアはコドウィックから解毒剤を奪い取って四人に投与した。
高齢のためかなかなか目を醒まさないギータに、ウルスと替わったウルスラとゾイアが癒しを行い、漸く意識を取り戻させることができた。
ルプスとなったゾイアが吠えたため、馬と騾馬は逃げていた。
馬一頭とミュールは発見されたが、残りの馬は見つからないため、ゾイアが馬に変身してラミアンを乗せて進んだ。
しかし、万年樹より南は『森の街道』が荒れており、捗々しく進めなくなったため、馬とミュールはラミアンに預け、跳躍してガルム大森林南端の岬へ行くことになった。
岬の手前の寒村に到着すると、ギータを見つけたジェルマ少年が駆け寄ってきたが、そのジェルマを見たゾイアに異変が起きた。
初期化するかと思われたゾイアは、ジェルマと同じ五歳児の姿に変わった。
しかも、またしても記憶を失っていた。
それでもジェルマは話を聞いて欲しいと、全員を自分の塒にしている廃屋に案内した。
ジェルマが再び実家を飛び出してこの港の近辺でブラブラしていた時、漂着したマオール船の乗組員が持っていた手紙が、自分宛だったという。
その内容は、新皇帝ヌルサンが末弟のヌルチェンを拘束しており、『東廻り航路』を再開しなければヌルチェンを殺す、というものであった。
ヌルチェンを救けるため、ゾイアにダフィニア島へ連れて行ってもらい、ゴーストに『東廻り航路』を再開してもらうと言うジェルマに、ウルスラが反対した。
しかし、ゾイア自身がダフィニア島へ行きたいと言うため、スルージだけ残して船で行くことにした。
結局、早船に小舟を乗せてもらい、沖合で降ろしてもらって、四人で櫓を漕いで行くことになった。
ジェルマの予想どおり海は荒れ、早船の船長は今日は止めた方がいいと言ったが、ジェルマはそれを押し切って小舟を下ろさせた。
交代で櫓を漕いだが、一人だけ呆然としているゾイアに業を煮やし、ジェルマが悪態を吐くと、ゾイアの身体が自動的に反応し、救難信号を発信した。
それに応じるように超合金の壁が海面に現れ、そこに開いた穴に小舟ごと呑み込まれた。
穴の中は巨大な円筒になっており、その円筒ごと海底に下がって行った。
停止したところで壁面に扉が開き、ゴーストが姿を見せた。
驚くウルスラやギータにも、ゴーストは親しげに話しかけ、ゆっくり座って話そうと、昇降機に案内した。
全員で下に降りると、そこにはダフィニア島の景色が広がっていた。
ゴーストは、ダフィニア島を模した市街地のうち立体虚像ではない一軒に、ウルスラたちを案内した。
相変わらず反目し合うジェルマとウルスラの代わりに、ギータが事情をゴーストに説明した。
その手紙が本物かどうかなどを慎重に考えるべきと話し合っていると、ゾイアが無意識のうちに真相の一端を説明した。
更にゾイアは、自分がヌルチェンを救出すると申し出た。
直接マオール帝国へ行ってヌルチェンを救おうというゾイアの提案に、ジェルマは無理だと言い、ウルスラはそれしかないと主張し、互いに反撥し合った。
提案した本人のゾイアはそれを記憶しておらず、ギータがジェルマとウルスラを宥めた。
ゴーストは、先ず何よりもゾイアの不具合が治るかどうか調べた方が良いと言って、自分の保守点検用の機械のところへ案内した。
格納容器に入ったゾイアを、機構が入念に走査していたが、突如警告を発して全員を室外に避難させると爆発した。
ウルスラは激しく動揺し、ジェルマはゴーストに喰ってかかったが、再び扉が開くと、何事もなかったかのように、元の状態に戻っていた。
ゴーストが説明を求めると、ゾイアの不具合を直そうとしたところ、思わぬ反撃を受け、傷つけないために最初のポッドは自爆し、今見えているのは予備のポッドであるという。
少なくとも短期の記憶障害は改善され、ゾイアは元気そうに出て来た。
このままのゾイアを連れてマオールへ行くのは危険だと主張するウルスラと、それならヌルチェンを見殺しにするのかと反撥するジェルマが睨み合った。
結局、ゴーストの提案でこの部屋のシステムに判断させようということになり、ゾイアに最低限必要な安全措置を施してもらってから、行くこととなった。
その後、行先の座標を指定してもらい、必要な衣装や食糧を準備してもらった上で、ウルスラたち四人は出発した。
中原進出を諦めていないヌルサン帝は、ガルム大森林を横断する街道の進捗が捗々しくないことに業を煮やし、東廻り航路の再開をさせるため、事情を知っているらしい末弟のヌルチェンを拘束していた。
幽閉され、拷問を受けているそのヌルチェンのところへ、何故かリーロメルが現れた。
一方、旧南都ファンクァン近くの無人島に到着したウルスラたちは、救けを求めるシャントンの声を聞いた。
リーロメルは、ゾイアと出会ったことで殺し屋を続ける気が無くなり、マオール帝国へ戻るつもりもなかったが、ガルム大森林を横断する『皇帝回廊』の工事がどうなったかだけ確かめたかったという。
ところが工事は中止されており、その理由が間もなく東廻り航路が再開されるからだと聞きつけ、それを阻止するためにヌルチェンを救出に来たのだと告げた。
しかし、仲間を人質に取られているからと、ヌルチェンは断った。
無人島の近くの海からシャントンらしき声が聞こえたため、ウルスラたちは海上を捜索した。
ギータが本人であることを確認し、溺れかけているところをゾイアが救出したが、意識がないため人工呼吸などを施した。
意識を回復したシャントンは、リー族に追われて海に逃げたと説明した。
リー族が皇帝に中原の刺客を推挙したと聞き、ギータがリーロメルのことだろうと推理した。
ともかくヌルチェンを救け出そうと話し合っていると、そのリーロメルが姿を見せ、本人が脱出を拒んでいるから、直接ヌルサン皇帝と交渉するしかないと助言した。
リーロメルは、自分とゾイアだけで行くと言ったが、ジェルマもウルスラも行くという。
リーロメルは、皇帝に会うための筋書きを説明した。
任務に失敗した自分は、皇帝への手土産が必要と考え、弟子と協力して獣人将軍親子を捕らえた、ということにするという。
弟子の役をウルス、ゾイアの役を本人、ゾイアの隠し子の役をジェルマにやってもらうと告げた。
ウルスラやジェルマはリーロメルを信用できないと言いつつも、それ以外に方法はなく、ギータとシャントンを残して出発することになった。
同じ頃、ヌルサン帝の許に魔女ドーラが現れた。
ヌルサンの前に現れたドーラは、遠隔地から投影された幻影であった。
しかし、その話は外交交渉であり、恩讐を超えて手を結びたいと提案した。
当初は祖母の仇と話すつもりはないと拒絶したヌルサンだったが、長考の末手を結んでもいいと答えた。
但し条件があるという。
ヌルサンの出した条件とは、ウルスラを自分の后にせよ、ということであった。
出生率の低い魔族の血を引くヌルサンには未だ子がなく、できれば両性族直系のウルスラを配偶者に迎えたいのだという。
ドーラは本人の了解も得ず、即座に承諾した。
その翌々日、ヌルサンが唯一心を許した家臣であるリーロメルの行方を考えていると、その本人が帰参を願い出ているという。
最初は怒って斬首を命じたヌルサンも、すぐに気を変え、話を聞くことにした。
ヌルサンの前に手錠を掛けられた姿で現れたリーロメルは、筋書きどおりの説明をしたが、すぐに嘘を見抜かれると、開き直ったように真実を告げた。
いきなりウルスの正体を話したリーロメルに、ジェルマが喰ってかかった。
が、ヌルサンは気にも掛けず、用があるのはウルスではなく、ウルスラの方だと告げた。
予定より早く表面人格を交代したウルスラが外交交渉を持ち掛けようとしてもヌルサンは取り合わず、后になれと言い続けた。
すると、少年の形態に戻ったゾイアがウルスラを護ろうと獣人化しそうになったため、ジェルマが潜時術を掛けた。
部屋が広すぎるからか、ジェルマの潜時術はかからず、獣人化したゾイアがヌルサンに襲い掛かった。
が、リーロメルが割って入り、ゾイアを止めた。
ゾイアは人間の姿に戻ったが、何故かリーロメルと同年配の青年の姿となった。
依然としてウルスラを后にしたいと拘るヌルサンに、リーロメルが大事なことを調べて欲しいとゾイアに依頼した。
ゾイアというより、その身体に備わった機能がヌルサンを調べ、生殖能力がないと断言した。
ウルスラはヌルサンとの外交交渉を続けようとしたが、そこでウルスが交代して話したいと言った。
ウルスの話とは、『外交は損得』というラミアンの考えに基づくもので、東廻り航路を軍事利用しても意味がないことを明かし、平和的な貿易に限定して再開すべき、というものであった。
抑々再開に反対するため危険を冒してここへ来たウルスラが反対するかと思われたが、平和利用に限定するなら、ということで合意した。
ヌルチェンを釈放し、皇太子にした上で、東廻り航路を管轄させるというリーロメルの提案をヌルサンも受け入れた。
一方、無人島で待っているギータとシャントンの二人は、既に食糧が尽き、空腹から来る苛立ちで言い争いになっていた。
その時上空に光る点が二つ現れ、ウルスラたち四人が戻ってきた。
マオール帝国で貰った食べ物で全員が腹ごしらえした後、ウルスラとジェルマが交互に向こうでの経緯を話して聞かせた。
東廻り航路の再開でファンクァンも沿海諸国も活気を取り戻すだろうと、シャントンとジェルマも喜んだ。
一先ずシャントンをファンクァンに送ることとなり、ゾイアが巨大な鳥に変身した。
ゾイアがマオールで会うべき人がいる気がすると告げると、シャントンがそれならボサトゥバ師に違いないと断言し、その座所へ案内した。
未来が見えるボサトゥバは、ゾイアに合う服を用意して待っていたが、何故か、ゾイアが会うべき相手は自分ではないという。
ボサトゥバから外へ出ようと言われ、ゾイアとシャントンが付いて行くと、円盤形態の黄金城が出現した。
青い光の円筒に誘われるようにゾイアが入って行くと、ボサトゥバに促されたシャントンも円盤の中に入った。
用意された椅子に座ると、予備機構の白い影が出現したが、シャントンが怯えるため、白髪白髯の老人の姿になって話した。
老人は、東廻り航路を一度再開したら、二度と閉鎖はできないと告げた。
東廻り航路の再開については、もう一度皆で話し合うというゾイアに、バックアップシステムの老人は他にも伝えることがあるという。
不完全な状態のゾイアに言ってもいいかと聞く老人に、ゾイアの身体の方が大丈夫だと答えた。
老人は、ゾイアと約束したことのうち、中原東南部の汚染水の浄化は済んだが、そのまま水路を造って流すのではなく、海底から地底に穴を掘って排水することにしたと告げた。
また、ザリガニから作ったという薬のサンプルをゾイアに渡した。
ファンクァン近くの無人島で待つウルスたち三人の許へ、黄金城が現れ、ゾイアとシャントンを降ろした。
五人で食事をしながら話し合い、東廻り航路を再開すべきかどうか頭を悩ませるギータらに対して、ウルスは笑ってラミアンの予想どおりだと告げた。
ラミアンは、一度再開すれば再び閉鎖させることは困難だろうと予測しつつも、交渉相手であるマオール帝国には、いつでも閉鎖できるとハッタリをかければいいと言ったという。
今度こそゾイアがシャントンをファンクァンへ送り届けると、四人はダフィニア島の近くまで跳躍した。
時差のため夜中であり、海上も荒れていたが、巨大円筒に入って海底に下りると、ゴーストが歓待してくれた。
東廻り航路を再開するに当たって、ゴーストは、島の一部を常時海上に出し、ウルスのハッタリの裏付けをすると共に、海難救助にも当たりたいという。
それを手伝いたいというジェルマに、ゴーストは家族の許へ帰るよう説得した。
ゴーストの言葉に反応し、「ナターシャ!」と叫んで獣人化し始めたゾイアだったが、設定された非常停止が発動し、自動的に再起動に移行しようとした。
しかし、今回も途中で止まり、ゾイアは、ウルスラと同年齢ぐらいの少女形態のゾフィアとなった。
ウルスラは慌ててゾフィアの姿を見ないように男たちに命じると、ゴーストに少女用の服を用意させ、自ら着せた。
ガルム大森林最南端の港町では、何日も一人で海を見つめるラミアンの姿が住民たちの話題になっていた。
変な噂が広まらぬよう、魔道屋スルージが或る程度の情報を伝え、ラミアンに戻るよう説得した。
ウルスに万一のことがあったら自分の所為だと落ち込むラミアンを、励まそうとしたスルージが見上げた空に、四人が帰って来る姿が見えた。
ゾフィアの美しさにラミアンもスルージも驚いたが、それ以外の三人は時差で疲れており、取り敢えず宿で休むことにした。
ウルスラたちが目醒める頃、ファイム大臣の一行が到着した。
竜騎兵の生き残りの中には病となった者もいるため、宿の手配などがなされ、改めて七人が集まって話し合うことになった。
中原に残った三名のため、ウルスラが東廻り航路の再開が決まったことを教えると、感激したファイムはすぐにドラグンたちに知らせに行った。
そういうファイムの人の好さを心配し、落ち着くまで弟のツイムを派遣しようということになり、スルージが一足先にバロードへリープした。
その後、早く家に帰った方がいいと言われたジェルマが嫌だと拒絶すると、何故かゾフィアが感情的になった。
見た目だけでなく心まで少女のように弱々しくなったゾフィアを心配し、ウルスラは、いざとなったら『識閾下の回廊』を通じて自分が制御するからと言って実際にやってみせたが、そのままゾフィアの人格が消え、ウルスラの本体はウルスに変わった。
ラミアンは、不完全な状態で目醒めていたゾイアの人格が、安心して眠ったのだと分析した。
その後、一旦実家に戻るジェルマと別れ、ゾイアの身体を預かったウルスラは沿海諸国の青年の姿となって、ウルス・ギータ・ラミアンと船に乗り込んだ。
ウルスラたちが乗り込んだ船には、柄の悪そうな乗組員が数名いた。
沿海諸国の若者の姿で甲板を一人で歩いていたウルスラに絡み、金品を要求して来た。
その一人に首を絞められたウルスラは、咄嗟に首を太くして撥ね除けたが、そのことでゾイアであろうと判断したもう一人の男が、同行しているウルスを攫おうと襲い掛かった。
ウルスを庇って細剣を構えたギータは、短剣で襲って来た男が、元傭兵のメッソル伍長と思い出した。
メッソルは更に言い掛かりをつけて来たが、その相棒のモーラを気絶させたウルスラが戻って来たため、武器を捨てて甲板に寝転がった。
そこへ船長のホックが現れてウルスラたちに詫び、メッソルとモーラは港に着き次第馘首にすると約束した。
その夜、一人で船長室にいたホックに、入って来たメッソルがいきなり斬り付けた。
ホックが金属製の計算尺でそれを防いでいると、メッソルの相棒のモーラも入って来た。
しかし、モーラは後ろから蹴り倒され、代わりにバロードの海軍大臣ツイムが入って来た。
メッソルとモーラが連れ出されると、昔の海賊仲間だというホックとツイムに魔道屋スルージも加わって旧交を温めた。
翌朝、ウルスたちと朝食を共にしながら、ツイムがここへ来た経緯を説明した。
統領クジュケの許にスルージが報告に来た際、ツイムも同席しており、その場からリープして来たのだという。
昨夜飲み過ぎたツイムの酔いが醒めるのを待って、ウルス一行はカリオテのスーラ大公を訪問した。
ウルスとウルスラが並んでいることに驚くスーラに、ツイムが事情を説明していると、その姪のリサが飛び出して来て、人目も憚らずウルスに抱きついた。
思い込みの激しい十三歳のリサを皆が宥め、昼食を摂ることになった。
昼食の席上、今後の政治状況が話題となり、ドーラの動向に注視すべきだと点では一致したものの、肉親としての感情的な対立から、ややギクシャクした雰囲気になった。
尤も、リサの一途なウルスへの愛情に場が和み、スーラ大公の人の好さも相俟って、穏やかに昼食を終えた。
ギータとスルージが一日早くサイカへ帰った後、愈々ウルスたちもカリオテを出発することになったが、リサがどうしても一緒に行くと言い張った。
偶々帰国して来たばかりのファイム大臣が娘を宥めたが言うことを聞かず、実母も言い聞かせたがリサは折れない。
そこでウルスラが、いずれキチンと弟との結婚は進めるからと約束し、漸くリサも納得した。
無敵のゾイアの身体があるからと、ウルスラは弟ウルスと秘書官ラミアンの三人だけで船旅を続けた。
スカンポ河の河口から遡上しつつある船から対岸を眺めていると、腐死者化した多数のコウモリが飛んで来るのが見えた。
船上が恐慌状態になる中、ウルスラが預かっているゾイアの身体が反応した。
ゾイアの身体はすぐに逃げることを勧めたが、ウルスラはノスフェルを焼き尽くすよう命じた。
大きな鳥の形態に変身し、その全身を炎に包み、更に口から火炎を放射しながら、ウルスラはノスフェルを攻撃した。
船上の人々も火矢で加勢したが、討ち漏らした一羽がウルスに接近した。
すると、心配で戻って来たラミアンが身を挺し、ウルスに覆い被さった。
ノスフェルに噛まれたラミアンを救うため、ウルスラは体内に保管されていた人工抗原の標本を投与し、事なきを得た。
吸血性の野生のノスフェルが、自発的に血が流れないンザビを噛むことはないはずだと、ラミアンが指摘した。
いずれにせよ、危険はスカンポ河全域に及ぶため、ウルスラは船長に身分を明かし、近くの湊に停泊するよう頼んだ。
ウルスラは、知らせを聞いて駆け付けたアーロン辺境伯に弟ウルスを預け、ラミアンには至急帰国するよう命じ、自らは異母兄ニノフのいるエオスへリープした。
エオスでは、大公ニノフ以外に三人の男がいた。
副官となったボローとペテオ、それに間もなくニノフの異父妹ピリカと結婚する予定のベド族の若き族長ロレンゾである。
状況を検討し、ボローとロレンゾが現場に急行した後、ペテオがウルスラに戦う覚悟があるかと尋ねた。
ペテオの無礼な質問に上司であるニノフが怒ったが、聞かれたウルスラは平静に答えた。
ゾイアの身体を預かっている以上、その覚悟はあると。
その後、弟ウルスの中和が不完全だったなら、自分にも責任があるというウルスラに、ニノフと同体の妹ニーナが、同じ身体でも人格は別々だから、ウルスのしたことに責任を感じる必要はないと慰めた。
一方、バロードでは、クジュケを中心に対策会議が開かれていたが、戻って来たばかりのラミアンが疑問を投げかけた。
抑々吸血性のノスフェルがンザビ化するのは不自然だと、ラミアンは指摘した。
更に、飛翔という行動を考えると、左右の翼が完全でなければならず、また、人間よりずっと身体が小さなノスフェルのンザビ化の速度などを考え合わせると、今回の事件は、意図的にウルス一行を狙った脅しと考えられる。
その犯人は、どう見てもドーラであり、バロードの関心を西側に向け、その間に何か企んでいるのであろう。
そのドーラのところへ部下の東方魔道師が現れ、辺境での策戦が見事に成功し、バロードの関心は西へ向かったと報告した。
が、ドーラは不機嫌であり、ガルマニアでの権力争いのために、仇敵である白魔を利用しなければならないとは、と嘆いた。
すると、執事のサンテを通じてドゥルブが直接連絡を取って来て、ドゥルブの中で政権交代があったこと、また、ドゥルブ本来の敵が三千年の時を経て向かって来ていることを説明し、手を結ぼうと提案した。
エイサで執務中のゲルヌのところへ、赤目族の第一発言者となったゲルニアが訪ねて来た。
元々ゲルヌを遠隔監視するために造られた擬体であるゲルニアだが、それぞれの立場ができ、互いに独立するようになっている。
ゲルニアから魔道神が呼んでいると言われたゲルヌは、当然二人一緒かと思ったが、中に招じ入れられたのはゲルヌ一人であった。
バルルは珍しく燥いでおり、三千年間待ちに待った救援が、漸く来ると伝えた。




