1348 ハルマゲドン(4)
バロード連合王国の双王宮では、現在国内にいる首脳陣が集まって対策会議が行われていた。
スカンポ河の河口付近でコウモリの大群に襲われ、自身も危うく腐死者になりかけたラミアンが、何かが引っ掛かるという。
司会役のクジュケは普段厳しいことを言うものの、ラミアンの才気は買っているため、縋るように尋ねた。
「それは何です? ちゃんと説明なさい」
ラミアンは上司や先輩の視線を一斉に浴び、ちょっと照れたような顔で話し始めた。
ええと、船上で最初に思ったのは、本来吸血性の飛翔動物であるノスフェルが、態々地上を徘徊するンザビに近づくだろうか、ということでした。
当然のことながら、死んでるンザビに血は流れてませんしね。
そのことは、その場で両陛下にも申し上げ、だからこそ白魔の介入を疑った訳です。
けれど、よくよく考えてみれば、おかしなことは他にもたくさんあるんです。
ぼくらを襲ったノスフェルは凡そ数百羽いたんですが、いずれも飛ぶのがやっとという状態でした。
これも当然のことで、飛行というのは左右の翼を精妙に制御しなくてはならず、半分腐ってボロボロの羽根では上手く飛べるはずがありませんからね。
因みに、人がンザビに噛まれると僅かの時間でンザビ化してしまい、実際、ぼくも危なかったんですが、身体の小さなノスフェルならホンの一瞬のことでしょう。
つまり、あの数百羽のノスフェルは、直近の時間にほぼ同時に、それもあの現場から然程遠くない場所でンザビ化した、ということになります。
さて、ここで考えなければならないのは、これをドゥルブの仕業だとしたら、その現場が何故辺境の最南端なのか、ということです。
はい?
ああ、回りくどくてすみません、ロックさん。
でも、順序立てて考えた方がいいと思うので。
いいですか、続けて?
ありがとうございます。
ええと、皆さんよくご存知のように、ドゥルブの本体は北の最果て、永久に凍りついた北の大海の宙船の中にあると考えられています。
ウルス陛下によって中和され、その後、一部活動再開したと云われていますが、たとえそうであったとしても、動きとしては微々たるものでしょう。
そうでなければ、とっくにぼくらは滅ぼされているはずですから。
一方、本体の状況とは関わりなく、バラ撒かれた瘴気によってンザビは徐々に南下し、最終的に辺境全域が汚染されました。
その間、二度ほどンザビが渡河して来ましたが、いずれの場合も飛翔動物は加わっておらず、その理由は先程申し上げたとおりです。
今もしドゥルブが本格的に動き出したとして、その影響が現れるのは当然北からのはずです。
しかし、未だにノスフェルや鳥の大群が渡河して来たという報告は、ぼくらの例を除いてありませんよね。
おかしなことはまだあります。
ぼくらを襲ったノスフェルは、将にぼくらが乗った船がスカンポ河の河口に差し掛かった時に飛来し、満足に飛べないような状態なのに、他の船や建物には目もくれず、真っ直ぐにぼくらの船に向かって来ました。
まるで、そうするよう命じられたかのように。
ああ、そうですね、クジュケ閣下。
勿論それがドゥルブの指令である可能性は否定できません。
しかし、それならそれで、諦めが良すぎます。
もし、あの船にぼくらが、というより、ゾイアどのが乗っていると知って攻撃したのなら、ノスフェル程度では大した戦果は上げられないのは誰でもわかることです。
そう考えれば、目的は明らかです。
はい、脅し、ですね、タロス閣下。
では何のために脅すのか。
ぼくらに警戒させるためでしょうか?
そんな馬鹿なことはあり得ませんよね。
ドゥルブにとっては、ですが。
はい、そうですね、シャンロウさん。
犯人はドゥルブではないと思います。
では、ぼくらが西に向かって厳戒態勢をとることによって、得をするのは誰でしょう?
それは当然ぼくらの東に勢力を持ち、野心に溢れ、バロードに強い関心のある人物ですよね。
ええ、皆さんが仰ったとおり、ドーラさまに間違いありません。
ドーラさまが現在ガルマニアで微妙な立場にあることは確かです。
だからこそ、遠くマオール帝国まで出向いて援軍を取り付けようと、ウルスラ陛下をヌルサン皇帝の后に差し出すとまで言われたのです。
それが頓挫した以上、更なる干渉を防ぐためにバロードの関心を西へ向け、同時に、あわよくばゾイアどのに聖剣を使わせ、それを横取りすることによって、起死回生を図ろうとしているのですね。
ぼく自身、話しているうちに確信が持てました。
皆さん、ご清聴ありがとうございました。
得々とした笑顔で一礼したラミアンに拍手を送る者などおらず、一座は水を打ったように静まり返った。
やがて太い溜め息を吐いたクジュケが、苦渋の表情で告げた。
「恐らく、ラミアンの分析どおりでしょう。その場合、懸念すべきことが幾つかあります。まず、現在ゾイアどののお身体がウルスラ陛下に預けられていること。そのことを、ドーラさまがご存知かどうかわからぬこと。また、西へ目を向けさせる以上、ドーラさまが東で何か企まれているであろうこと。そして、何より心配なのは、このことが切っ掛けとなって、本当にドゥルブの本体が目醒めてしまわぬか、ということです」




