表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1400/1520

1346 ハルマゲドン(2)

 一気にエオス大公国たいこうこく付近のスカンポがわ中流域ちゅうりゅういき上空に跳躍リープしたウルスラは、河面かわもくす軍船に驚いた。

「やるわね。でも、わたしが遭遇そうぐうしたようなコウモリノスフェルの大群が来たら、これでも手薄てうすかもしれないわ。とにかく、ニノフにいさまに会わなきゃ」

 ウルスラは、新装しんそうなった大公宮たいこうきゅうに向かった。

 大公宮のあるエオス近辺は中流域と上流域の境目さかいめに近く、今いる場所からやや北上することになる。

 河沿かわぞいの森の中に、ニノフの性格そのもののようなかざのない大公宮が見えて来た。

 ここは元々廃城はいじょうを野盗『あかつきの軍団』がとりでに改装して根城ねじろにしていたのだが、『暁の軍団』壊滅後かいめつご、ニノフらが辺境難民の受け入れのために拡充かくじゅうしたものである。

 その後、この砦を中心に国家建設へと進み、周辺一帯いったいが古来より暁の女神エオスの地と呼ばれていたことにちなみ、新国家の名をエオスとした。

 もっとも、難民の受け入れ事業を最優先にしたため、国家元首たるニノフはずっと仮屋住かりやずまいであったが、下流域の新辺境伯領しんへんきょうはくりょうの設立をに、ようやく本来の大公宮へ移った。

 ウルスラ自身も大公宮へ行くのはこれがはじめてである。

 が、上空から接近すると、その横に付設された張り出し露台オープンテラスにニノフたちの姿が見えた。

 ウルスラは微苦笑びくしょうしてつぶやいた。

「あら、やっぱりニノフ兄さまは外が好きなのね」

 実父じっぷであるカルス王から捨てられたと信じ込んでいたニノフは、傭兵ようへいとして各地を転戦しながら青春時代を過ごした。

 そのためか野外にることをこのみ、以前の居館きょかんに住んでいた時もオープンテラスで過ごすことが多かったのだが、それを態々わざわざ新しい大公宮へ移設いせつしたらしい。

 ウルスラが徐々じょじょに降下して行くと、さすがに目敏めざとくニノフが気づき、手を振った。

 その前に三人の男が居並いならんでいる。

 一人は元副将、現在は大公補佐官のボローで、いかつい体格と顔の下半分をおおう黒いひげ遠目とおめにもすぐにわかる。

 そのとなりには、ボローよりはやや細身ほそみ伊達髭だてひげの男がおり、同じく補佐官になったペテオであろう。

 最後の一人は、変わった服装の壮年そうねんの男であった。

 一見襤褸ぼろまとっているようだが、い込んでいないあらい布を巻き付けたもので、民族衣装のようだ。

 ゴワゴワした長い茶色の髪をひとまとめにして馬の尻尾のようにらしており、日に焼けた精悍せいかん面構つらがまえをしている。

「ああ、あれがロレンゾさんね」

 ベド族の族長ロレンゾであろうと、ウルスラは判断した。

 見た目は壮年であるが、実年齢はこの四人の中では一番若く、二十代なかばのロックと同世代だと聞いている。

 ニノフの異父妹いふまいであるピリカの婚約者であり、婚礼間近まぢかのはずであった。

「と、いうことは、近々ちかぢかわたしの義理の兄さまになる人ね」

 ウルスラは思わず微笑ほほえんで着地したが、四人の深刻そうな表情を見て、すぐに笑顔を消した。

 ニノフも珍しくかたい表情で、「シャンロウから聞いた情報をもとに話し合っていました。どうか陛下へいかも加わってください」とまねいた。

 ニノフはウルスラの庶兄あにではあるが、臣下の大公になった立場上、普段から言葉づかいを改めている。

 ウルスラは以前どおりでいいと何度も頼んだのだが、ニノフは「両国の将来のために必要なことです」とゆずらなかった。

 自分たちの世代はともかく、二代三代と続くうちにお家騒動のようなことが起きないように、との配慮であろう。

 が、ウルスラは構わず、以前どおりの言い方を変えていない。

「スカンポ河にたくさんの軍船が出ているのを見ました。素早すばやい対応をしてくだすってありがとう、兄さま。でも、ノスフェルの大群には、ヨゼフさんの作った特別火箭かせんだけでは対応できないわ。もっと強力な武器がないと」

「ええ。そのとおりだと思います。ヨゼフには、蛮族軍が使っていた投石器を参考に、火箭を連続して発射できるものを作るようめいじています。ただ、気になるのは、以前ゾイアが」

 そこまで言ったところで、ニノフが美しいまゆを寄せた。

「違っていたら申し訳ないのですが、もしや陛下の今のお身体からだは」

「さすが兄さまね。そうよ、この身体はゾイアなの」

 ウルスラは簡単に経緯いきさつを説明した。

 聞き終わったニノフは、何故なぜか残念そうな顔になった。

「そうですか。では、ゾイア本人に聞くことはできませんね」

 ところが、ウルスラののどから抑揚よくようのない声が答えた。

「……質問したいことが、結晶毒クリスタルポイズンに関することなら、今のところ心配はりません。結晶の森クリストルフ全域は現在も凍結されており、毒はまだ外部に漏洩ろうえいしておりません」

 と、ニノフより先に、ボローが喜びの声を上げた。

「おお、有難ありがたい。それなら、遠慮なくノスフェルを焼きくしてやります。早速さっそくヨゼフどのに作業を急ぐように言って来ます」

 以前大挙たいきょして腐死者ンザビ渡河とかして来た時に最前線にいたボローは、勇躍ゆうやくして別棟べつむねに駆けて行った。

 ロレンゾも、「ならば、おれは陸上の警戒に行って来る」と告げると、女王への挨拶あいさつもそこそこに立ち去った。

 それをすように、ペテオが笑いながら解説した。

「砂漠のたみであるロレンゾにとっちゃ、軍議なんてまどろっこしいんでさ。まあ、ボローにしても同じようなもんでね。ところで、おれも一つ聞きてえんだが、あ、いや、おうかがいしてえんだが、いいですかい?」

 ウルスラは肩をすくめた。

「ごめんなさい。いいとも駄目だめだとも答えようがないわ。喉から出る声は、わたしの意思とは無関係に出て来るから」

 ペテオは苦笑した。

「おれの聞き方が悪くてすみません。失礼を承知で、女王陛下におたずねします」

「あら、こちらこそごめんなさい。どうぞ、聞いてちょうだい」

 ペテオは大きく息を吸うと、思い切ったように問うた。

「いざ、という時、最前線で戦うお覚悟は、ありますか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ