表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1392/1520

1338 遥かなる帰路(67)

 ウルスに向かって死神めいたせた男が突進して来ていることは、真っ先にギータが気づいた。

「むっ! いかん、がっておれ!」

 ウルスとラミアンにそう告げた時には、護身用に腰に下げていた短めの細剣レイピアを抜き、ポーンとんで二人の前に出ていた。

 死神めいた男は速度をゆるめず、持っている短剣を目の前のギータに突き出した。

 キーンと耳の痛くなるような金属音が響き、ギータのレイピアが短剣にぶつかって大きくしなった。

 が、さすがに短剣をはじき返すほどの力はなく、男の短剣とギリギリとれ合っている。

 と、男の短剣がスッと引かれ、少し間合いを取ってギータをにらみつけた。

「おめえに用はねえんだ、ギータ。怪我けがをする前にそこをどきな」

 油断なくレイピアを構えたまま、ギータも言い返した。

「そうは行かぬ。おぬしが誰か、必死で自分の頭の中の記憶をひっくり返して、やっと思い出したわい。サイカの傭兵ようへい部隊におったメッソル伍長ごちょうじゃな。めてから随分ずいぶんつが、今では稼業かぎょうを強盗に変えたかの?」

 メッソルと呼ばれた男は鼻で笑った。

「残念ながらずっと傭兵のまんまさ。今はこの船の警備兵をやってる。だが、そんなことはどうでもいい。おれが用があるのはおめえじゃねえんだ。後ろでブルブル震えてる王さまさ。そう、バロードの少年王ウルス陛下へいかだ。まあ、ウルス王本人にうらみはねえが、偶々たまたまおれが自由都市ミーノに雇われてた時、バロードの大元帥だいげんすいドーンひきいる蛮族軍にひどい目にわされたんだ。その落とし前をつけさせてもらうぜ」

 ギータが顔をしかめた。

 メッソルは、騒ぎに気づいて集まって来た人々に聞こえるよう、わざと大きな声を出しているのだ。

 逆恨さかうらみもいいところだが、それを言えば、ウルス本人であることがバレてしまう。

 ギータは一応とぼけた。

「ほう? 何か勘違いしておるな。わしの連れは金持ち商人あきんどのボンボンたちで、物見遊山ものみゆさんの旅をしておるだけじゃ。わしはかねやとわれた付きいさね。しかし、仕事として引き受けた以上、全力で二人をまもるぞ」

 メッソルの死神めいた顔が、憎悪をあらわにした。

誤魔化ごまかしたって無駄むだだ。さっきおれたちにからんで来た若造わかぞう間違まちげえなく獣人将軍かその眷属けんぞくだった。フニャフニャと変身しやがったからな」

「別にフニャフニャなどしていない」

 メッソルの背後から声を掛けたのは、勿論もちろんゾイアの身体からだを借りているウルスラであった。

 その両足首は、黒鬚くろひげ巨漢きょかんつかまれたままだ。

 その状態で強引に歩いて来たらしい。

 仲間の不甲斐ふがいなさに鼻を鳴らしたメッソルは、持っていた短剣をポロリと甲板かんぱんに落として両手をげた。

降参こうさんだ。如何いかに鬼伍長とわれたおれでも、獣人将軍さまにはかなわねえ。るなと焼くなと好きにしろ」

 そう言うなり、メッソルはその場にゴロンと横たわった。

 しかし、カリオテ人の若者の姿のままのウルスラは、肩をすくめて見せた。

「何か誤解しているようだな。確かにおれはマオールの特殊な体術たいじゅつに付けちゃいるが、獣人将軍などというのは誤解もはなはだしい。さあ、おれの足首を掴んだまま気絶してるこの髭面ひげづらと一緒に、大人しく本来の仕事に戻りな」

 何と、黒鬚はこの状態で気をうしなっているのであった。

 ウルスラはその指を一本ずつはずし、メッソルに「さあ」とうながした。

 それでも不貞腐ふてくされて寝転がっているメッソルのところへ、でっぷりと太った初老の男が歩み寄った。

「こらっ! 何をしてやがんだ、この穀潰ごくつぶしめ! さっさと持ち場に戻らねえと、給金は払わねえぞ!」

 メッソルが「わかったよ、うるせえな」とノロノロと起き上がるのを見届けると、初老の男はウルスたちの方に振り返って頭を下げた。

「すまねえ。うちの警備兵が迷惑を掛けたようだな。わしは船長のホックだ。おびのしるしに船長室で昼飯を御馳走ごちそうさせてくれ」

 返事をしたのはウルスでもギータでもなく、ましてやウルスラでもなく、ラミアンであった。

「はい! 喜んで!」



 船長室で新鮮なピスキス料理を振る舞った後、ホック船長は改めてウルスたちにびた。

「すまなかったな。あのメッソルと相棒のモーラは札付ふだつきでな。今度の航海が終われば馘首くびにしようと思ってたとこだ。まあ、明日の朝にはカリオテにくから、それまで辛抱しんぼうしてくれ。ところで」

 ホックは姿勢をただした。

「聞いちゃいけないことだろうが、メッソルの言ってたことは、本当なのか? ああ、いや、返事はしなくていい。本当だと知れば、わしも平気で話すことができんからな。ただ一つだけ、知りたいことがあるんだよ。元海賊だったツイムは、元気にしてるか?」

 四人は顔を見合わせたが、比較的差しさわりのない立場にあるギータが代表して答えた。

「ああ、元気なはずじゃ。今ではバロード連合王国の海軍をたばねる地位にある。もし、あやつが海賊だった頃に船長に迷惑を掛けたのなら、わしがわりにあやまるが」

 ホックはあわてて首を振った。

「いやいや逆さ。こう見えて、実はわしも昔は海賊だったのさ。仲間内なかまうちのイザコザで生命いのちが危なかった時、助けてくれたのがツイムだ。いつかそのれいがしたいと思っていたが、あんたたちがツイムに所縁ゆかりのある人たちなら、少しは恩返しになる。航海中は何でも言ってくれよ。できるだけのことはさせてもらうからな」



 ところがその頃、ホックから叱責しっせきされたメッソルは、気絶から目醒めざめた仲間のモーラに告げていたのである。

「デブ船長め、威張いばりくさりやがって。このままでむと思うなよ。おい、モーラ、今度こそドジをむんじゃねえぞ」

 黒鬚のモーラも歯噛はがみしつつ答えた。

「ああ。おれだって男だ。あの獣人将軍モドキみてえなやつに、絶対ぜってえ仕返しかえししてやる!」

(作者註)

 自由都市ミーノが蛮族軍に襲撃された事件については、569 リベラの危機(1)をご参照ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ