表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1386/1520

1332 遥かなる帰路(61)

 翌朝、今度こそシャントンを送り届けたゾイアが戻って来ると、一行四人はダフィニア島まで一気に跳躍リープした。

 上空で二つの防護殻シールドはじけると、周囲は闇に包まれていた。

「わっ。真夜中じゃねえか。これじゃ身体からだの調子がおかしくなっちまうぜ」

 ゾイアの腕に抱かれたままジェルマが不平をこぼすと、ウルスラにぶさっているギータも「まったくじゃのう」とうなずいた。

「ゴーストどのにお願いして、少し仮眠を取らせてもらった方がいいかもしれんな。ゾイア、どうじゃ、連絡は取れたかの?」

 その返事はゾイアののどから聞こえた。

「……着陸許可クリアランスを得ました。もなく発着場デポが海上にあらわれます」

 ジェルマが「また意味わかんねえことを」と文句を言ったが、闇夜でもわかるほど下の海面が泡立って来た。

 やがて巨大円筒の上部が水上に出て来て、天井部分が花弁はなびらのようにひらき、柔らかな光に照らされた内部が見えた。

「行くわよ!」

 ウルスラが先行して降下し、ゾイアも続いた。

 小さな城ならスッポリ入るぐらいの何もない円筒は、全体がくすんだ紅色べにいろ超合金オリカルクムでできている。

 下の方は暗すぎて見えないほど深いところまで続いているようだ。

 そのかんに、ゴゴゴゴッという大きな音がして天井が閉まった。

 直後、円筒全体が下に向かって動き始めた。

 ウルスラとゾイアは天井にぶつからないよう、それに合わせてりて行く。

 ゆかが見えて来ると、動き出した時と同様、巨大な円筒は唐突とうとつに停止した。

 床と天井の間隔かんかくは、人間の身長の五倍ぐらいしか離れていない。

 ゾイアから床にろしてもらったジェルマは、胸を張って叫んだ。

「さあ、おいら戻って来たぜ!」

 その声にこたえるように、横の壁にスーッとたてに黒い線が走り、それが左右にひろがって、人が通れるくらいの隙間すきいた。

 と、間髪かんぱつれずゴーストが出て来た。

 短い金属の手足を忙しく動かしながら、口に当たる小さな鉄格子てつごうしから、珍しくはずむような声を出した。

「お帰り、ジェルマ!」

 ゴーストの透明な頭巾ずきんのような頭部にけて見える色とりどりの硝子ガラスだまが激しく明滅めいめつしている。

 ウルスラの背中から下りたギータが、「わしらもおるぞ」と苦笑した。

 ゴーストも笑いながら「すまんすまん」とあやまった。

こと首尾しゅびは、一応黄金城から聞いた。が、まあ、一先ひとまず、落ち着いてから話そう。時間の差で疲れただろう。何なら、少し寝るかね?」

 が、ウルスラは首を振った。

「先にお話ししましょう。寝るのはそのあとでいいわ」

 何か言おうとするジェルマのそでを、ギータが押さえた。

「まあ、もう少しの辛抱しんぼうじゃ」

 ゴーストも気遣きづかって「例の部屋で飲み物でも出そうか?」と声を掛けた。

 ジェルマは、「おいらそんなに我儘わがままじゃねえぞ」とほほふくらませたが、ウルスラが「ああ、それは有難ありがたいわね」と喜んだため、それ以上文句を言うのをめた。

 先に立って昇降機リフトの方へ行こうとしたゴーストが、「おお、そういえば」と振り返った。

「ゾイアはその姿の方が似合にあうぞ」

 二十代後半ぐらいの見かけになっているゾイアは、なんと返事をしたらいいのかわからぬようで、含羞はにかむように微笑ほほえんでいるだけだった。



 リフトが下に着くと、ゴーストが先に出て、ジェルマ、ウルスラ、ギータ、ゾイアと続いてりた。

 沈没前のダフィニア島を再現した立体虚像ホログラムの町並みは、今は夜景であった。

 外の時間経過に合わせているのだろう。

 石造いしづくりの家の前まで来ると、ゴーストは短い腕を蛇腹じゃばらのように伸ばし、はさみのような二本の指しかない手でとびらの取っ手を引いた。

 扉が開くのに連動し、薄暗かった室内がパーッと明るくなった。

 ゆかも壁も天井てんじょうも白っぽい半透明の素材でできており、室内をらすあかりは、その素材自体から発せられている。

 広さは普通の家族が使う居間いまぐらいだが、中には家具も何もない。

 真っ白な空箱あきばこのような状態である。

 ゴーストは、奥の白い壁に向かって叫んだ。

「許可番号8823! テーブルを一台、各自の体格に合わせた椅子を要求する!」

 床が盛り上がってテーブルと椅子ができた。

 四人が椅子に座ると、身長に合わせて高さが微調整された。

 さらにゴーストは四人分の飲み物を壁に命じた。

「許可番号8823! 子供用の果物くだものしぼったジュースを二杯、薬草茶ハーブティーを一杯、珈琲コーヒーを一杯、要求する!」

 飲み物が出て来ると、ゴーストは、ウルスラとジェルマにジュースを、ギータにハーブティーを、ゾイアにコーヒーをきょうした。

 が、互いに相談し、ウルスラとギータは飲み物を交換した。

 ジェルマは「ちぇっ、大人ぶりやがって」と小声でつぶやいたが、ゾイアの真っ黒な飲み物と交換するのはさすがにあきらめた。

 そのゾイアはコーヒーを一口飲んで「ああ」と吐息といきらした。

なつかしいです」

 それが以前ダフィニア島を訪問した時のことなのか、それとも前世ぜんせの記憶のようなものなのか、本人にもわからぬようで、瞑想めいそうするように半眼はんがんで味わっている。



 皆が一通り喉をうるおしたところで、ウルスラからウルスに交代し、ゴーストに東廻ひがしまわり航路の再開について説明した。

「……ということで、今後は全面的に開放してください」

 ゴーストは、しばらく透明な頭部の中の硝子玉を明滅させてから、ゆっくりとこたえた。

「決めるのはおまえたちだ。そのようにしよう。ただし、わしの方から一つ提案がある」

「何でしょう?」

「黄金城の言う理屈はわかるし、わしにその決定をくつがえすような権限はない。だが、今後の航海の安全を見守るためにも、海上にダフィニア島の一部だけを常時出して置こうと思う。そうだな。ダフィーニョ島とでもするか」

 ジェルマは「え、何のためだよ?」と聞いたが、ウルスは笑って「ありがとうございます」とれいを言った。

「ぼくのハッタリを裏付けるためですね?」

 ゴーストも笑った。

「そういうことだ。いつでも閉鎖できるぞ、と思わせることが重要だからな。それに、このあたりは海が荒れることが多いから、海難かいなん事故の救助もしようと思う。わしだって、まだまだ働けるからな」

 ジェルマが「あっ」と声を上げた。

「だったら、おいらも手伝うよ」

 しかし、ゴーストは少ししずんだ声で告げた。

「ありがとうよ、ジェルマ。だが、一度親許おやもとへお帰り。きっとお父上は、首を長くして待っておられよう。たとえいがみ合っていたとて、家族は家族だ」

 ジェルマが鼻を鳴らして言い返そうとした時、ゾイアが立ち上がって叫んだ。

「ナターシャ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ