表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1366/1520

1312 遥かなる帰路(41)

「ようこそダフィニア島へ!」

 ゴーストの半透明の頭部に見えている色とりどりの硝子ガラスだまが、笑っているかのように明滅めいめつした。

「まあ、手前側てまえっかわの住居数軒すうけん以外は立体虚像ホログラムだがな。つまり、沈没前のダフィニア島を再現したまぼろしだ。取りえず、実体リアルの家に案内しよう」

 ゾイアが昇降機リフトと呼んだ四角い部屋からゴーストが先に出て、ジェルマ、ウルスラ、ギータ、ゾイアと続いてりた。

 石造いしづくりの家の前まで来ると、ゴーストは短い腕を蛇腹じゃばらのように伸ばし、はさみのような二本の指しかない手でとびらの取っ手を引いた。

 扉が開くのに連動して、薄暗かった室内がパーッと明るくなって行く。

 中の様子をのぞき込んだウルスラは、驚きの声を上げた。

「まあ、すごいわ!」

 古めかしい外観がいかんことなり、ゆかも壁も天井てんじょうも見たことのない白っぽい半透明の素材でできていた。

 しかも、室内をらすあかりは、その素材自体から発せられているようだ。

 広さは普通の家族が使う居間いまぐらいだが、中には家具も何もない。

 真っ白な空箱あきばこのような状態である。

 ジェルマが自慢げに「な、すげえだろ」と言うのを無視し、ウルスラはゴーストにたずねた。

「椅子やテーブルはないんですか?」

「わしはこんな身体からだ飲食いんしょくを必要としないからな。だが、おまえたちのぶんはすぐに用意するよ」

 ゴーストは、奥の壁に向かって叫んだ。

「許可番号8823! テーブルを一台、椅子を人数分、おっと、各自の体格に合わせたものを要求する!」

 と、床の一部が四角く盛り上がってテーブル状になり、その周囲の床に椅子のような形が四つできた。

「さあ、座ってくれ」

 ゴーストにうながされて四人が椅子に掛けると、それぞれ身長に合わせて椅子の高さが微調整された。

 これにはギータが喜んだ。

「ほう、便利なものじゃな。わしはいつも椅子の高さが合わずに苦労しておるのだが、これなら良いのう」

 さらにゴーストは四人分の飲み物を壁に命じた。

 聞いたことのないフォンというような音がして壁に四角い穴がき、トレイった飲み物があらわれた。

 ゴーストはトレイごと取り出すと、みずからテーブルまで運んだ。

「一応、子供用の果物くだものしぼったジュースを人数分用意した。必要なら薬草茶ハーブティーでも、酒でも何でも出せるぞ。おお、そうだ。ゾイアは珈琲コーヒーの方が良かったかな?」

 聞かれたゾイアは首をかしげていたが、思い出せないらしく、小さな声で「これでいいです」と答えた。

 ゴーストもそれ以上はすすめず、四人がそれぞれの飲み物を一口ずつ飲んだところで、「さて、話というのを聞かせてもらおうか」とうながした。

 ジェルマが勢い込んで話そうとするのを、ウルスラが「わたしが説明するわ」と制したため、にらみ合いとなった。

 ギータが「二人とも落ち着くんじゃ」とあいだに入り、「ここはわしにまかせよ」と告げると、事実のみを淡々たんたんと述べた。

「……と、いうことじゃ。まあ、その手紙自体が本物か、本物としても内容が事実か、事実としても相手が約束を守るのか、一切わからぬ」

 ジェルマは「手紙は本物に決ってるよ!」と反発したが、無意味な反論だとは自分でもわかっているようで、ほほふくらませたままだまった。

 それを待っていたように、ウルスラが口をひらいた。

「たとえ手紙が本物で、書かれていることも事実で、ヌルサン皇帝が約束どおりヌルチェン皇子おうじを解放するとしても、東廻ひがしまわり航路の再開は危険すぎるわ。実際、ひそかにガルム大森林を横断する軍用道路をつくろうとしているくらいだもの」

 ジェルマが顔を真っ赤にして「ヌルチェンを見殺しにしろってのか!」と叫んだが、今度はゴーストがめた。

「よさんか、ジェルマ。友情にあついのはおまえの一番良いところだが、同時に最大の欠点でもある。ずは、冷静に事態を分析するべきだ。小人ボップ族の言うとおり、手紙が本物か、書かれていることが事実か、相手に約束を守る気があるのか、そういったこと全てが明らかとなり、その上で判断をくださねばならん」

「そんな悠長ゆうちょうなこと言ってるに、ヌルチェンが殺されたらどうすんだよ!」

 ゴーストの硝子玉がチカチカとまたたいた。

「いや、その心配はなかろう。わしの記憶が正しければ、ガルム大森林を横断する道を造る困難さは想像を絶するものだ。そのため、できれば手っ取り早く海路を再開したいと考えたのだろう。そこでワコ族に目をつけ、その首領かしららえたのだ。その切りふだを簡単には殺すまい」

 ギータもうなずいた。

「じゃろうな。まあ、ヌルチェン自身は少々のことでは口を割らんじゃろうが、誰かが秘密の一端いったんらしたのかもしれん。ヌルチェンが書いた救援を求める手紙を発見し、そこに一文書き込んでワコ族に運ばせたのじゃな。が、わからんのは、宛先あてさきがジェルマであったことじゃのう」

「そりゃ、おいらが親友だからさ」

 そう言ったジェルマ本人も自信なげであった。

 と、ずっと黙って聞いていたゾイアがポツリと言った。

「それは、ぼくやギータは追いかけないようにヌルサンにめいじたからだよ」

 皆がギョッとしてゾイアを見ると、困惑の表情で「ぼく、何か言いましたか?」と聞き返した。

 が、ギータはポンと手を打ち、「成程なるほど!」とうなずいた。

「ゾイアがヌルサンに魔眼イビルアイを掛けられ、それを切り返した時、ゾイア、わし、シャントン、マルコの四人を追うなと命令した。じゃから脅迫状は、ゾイアやわしにではなく、ジェルマに送り付けたのじゃな」

「なんだよ、それ」

 ジェルマは再び膨れたが、またウルスラが割り込んで来た。

「と、すれば、手紙は本物、書かれていることも事実、約束を守る可能性も高い、ということね。それでもわたしは、東廻り航路の再開には反対するわ」

「じゃあ、どうすんだよ!」

 ジェルマの反論には、ウルスラではなく、ゾイアが答えた。

「ヌルチェンという人をたすけ出すしかありません」

(作者註)

 ゾイアとヌルサンとの関わりについては、902 刑場皇子(1)~917 刑場皇子(16)をご参照ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ