あらすじ(1251 魔の婚礼(22) ~ 1300 遥かなる帰路(29))
土地鑑があると嘘を吐いてバロードに仕官したジョレは、今更ながら馬を借りて皇后宮の周辺を見て回った。
馬上でドーラから依頼されたシャドフ暗殺の件を独り言ちていると、そのシャドフ本人が接触して来た。
シャドフから、ドーラに騙されていると言われ、もっと良い条件を提示されると、ジョレはまた気持ちがぐらついた。
シャドフがジョレに提示した条件は、帝国の半分と副皇帝の地位という破格なものであったが、その見返りは、オーネが合図を送ったら、ウルスラ女王を人質に取れというものであった。
ウルスラに飲ませる消魔草まで渡され、怯えながらも引き受けた。
その直後、今度は魔女ドーラが現れて、シャドフが接触して来るはずだから、その時を逃さず斬れと念押しされ、ジョレはそれにも頷いてしまう。
ヤンとハンゼを自分の部屋に呼んだウルスラは、ヤンの父ヤーマンを護るため、改めてその為人を尋ねた。
その頃、ドーラが逃げたため、一人忙しく婚礼の準備を進めているハリスのところへ、タロスが顔を出した。
ハリスはそれとなくタロスに密談したいと示唆し、別室へ移動した。
その直後、婚礼会場の設営を担当するはずのドーラもハリスもいないと、オーネは女官たちに当たっていたが、呆然と立っているジョレを見つけると、いっそヤーマンを斬ってくれと囁いた。
オーネの言葉に動揺したジョレは、つい大声になったが、オーネに脅され、別室に連れて行かれた。
一方、先に別室へ行ったハリスとタロスは、お互いに肚を割って話した。
ハリスは、ヤーマンは寧ろ謀叛を期待しているようだが、それはヤーマンが思う以上に危険だという。
オーネの部屋に連れ込まれたジョレは、室内の淫靡な内装を見て後悔した。
オーネは言うことを聞かないと、大声で悲鳴を上げると脅した。
その上で、今回の婚礼の裏事情を説明し、本当ならヤーマンを殺したいがそれは無理だから、ロッシュに叛乱を起こさせるのだという。
しかし、当然ヤーマンもそれがわかっているから、オーネの身柄を押さえようとするであろう。
よって、オーネが安全に逃げるためには、ウルスラを人質にしなければならないのだと告げ、その合図をジョレに教えた。
一方、隠れ里では、ウルスラの異母妹レイチェルが、少年ゾイアにウルスラを助けて欲しいと頼んでいた。
婚礼当日となり、各国・各自由都市から続々と来賓が到着した。
女官たちは招待客の噂話に興じていたが、先方から断った『神聖ガルマニア帝国』やギルマン族長国連邦と違い、抑々呼ばれなかったプシュケー教団について、禁教令が出されるのではないかとの声が上がった。
偶々これを聞いていたヤーマン本人は、冗談めかしながらも女官の噂話を禁じた。
カリオテ大公の代理として出席する海軍大臣ファイムは、真っ先にウルスラの部屋に挨拶に来た。
自然とファイムの娘リサの話になり、その名が霊癒族のリサンドールに因んだものと明かされた。
千人の警護兵を連れて来る余裕がなく、大公の代わりに自分が来たと説明するファイムに、タロスが弁解していると、冗談めかして仲裁しようかとギータが入って来た。
ギータも商人の都サイカの支配者ライナの代理だという。
そのギータの後ろから、少年ゾイアが姿を見せた。
同じ頃、バスティル監獄を張り込んでいる魔道屋スルージのところへ、マオール帝国の特命全権大使であるリーロメルが現れた。
リーロメルはバロード生まれの魔道師で、ゲール帝がエイサを焼き討ちした際、辛くも生き延びて、マオールへ逃げたという。
マオールで奴隷の境遇にあった時、当時のヌルサン皇子に救われ、その刺客となった。
刺客として有能であったため異例の出世を遂げ、今回の役目に就いたのだという。
リーロメルは、特命全権大使は表向きのことで、実は自分の本来の仕事は間諜であると告白した。
身の危険を感じるスルージに、リーロメルは昔話を聞かせた。
エイサの魔道学校に通っていた頃、自分を苛めていた相手を正当防衛で殺したことがあり、その際にスルージの養父である老師ケロニウスに生命を救われたのだという。
その恩義があるからスルージは殺さないと宣言し、その代わりに魔眼で眠らせた。
スルージを眠らせたリーロメルは、バスティル監獄を挟んで反対側の樹上に移動し、そこで待機していたらしい魔道屋シャドフに見張りを全員片付けたと報告した。
シャドフは、リーロメルが殺した人数を確認し、スルージが入っていないことに不満を漏らしたが、それ以上は追及せずに別れた。
その後、シャドフはバスティル監獄に侵入し、囚われていたロッシュを連れて跳躍した。
脱獄後ロッシュは、かつての部下を味方に引き入れようと説得したが、謀叛そのものは成功しても、来賓たちを殺せば世界中を敵にすることになるからと、断られた。
その部下はすぐにシャドフが始末したが、前途は多難であった。
その頃、婚礼の準備に忙しいドーラのところへ、バスティル監獄からの定時連絡が途絶えたとの知らせが入ったが、身動きも儘ならず、ロッシュの部下たちの監視を継続するよう命じるのが精一杯であった。
懸念を示す部下たちを、秘策があると説得し、ロッシュは何とか一万の軍勢を搔き集めた。
その本人から秘策について念押しされたシャドフは、いい加減な話で納得させたが、その実、全ての罪をロッシュに着せる算段であった。
その頃、愈々ヤーマンとオーネの婚礼が始まったが、司会のコロクスが結婚の是非を問うと、「異議あり」との声が上がった。
異議を唱えたのはヤーマンの娘ヤンであり、婚礼の席とは思えぬ不機嫌な態度で顔を背けているオーネを詰った。
婚礼が不成立になれば何もかも失うことに気づいたオーネは、態度を改め、実は今朝から吐き気がするのだと取り繕った。
コロクスが気を利かせ、吐き気止めの薬を飲ませると、オーネは取って付けたような明るい顔になり、無事に花嫁の役目を果たした。
結婚の誓いが終わると、祝宴となった。
ドーラとハリスの両補佐官が新郎新婦に料理を運び、来賓にも酒や食べ物が供された。
少し酔ったドーラが絡んで来たが、ウルスラはピシャリと撥ね除けた。
そこへジョレが戻って来たが、オーネの合図でウルスラの飲み物に、こっそり消魔草の汁を垂らした。
元々無防備なヒューイの城を、華美に改装しただけの皇后宮に向かって、ロッシュ軍一万が猛進して来ていた。
最初に魔道師カールが気づき、衛兵に警告を発したが逃げられ、更に魔道屋シャドフに痺れ薬を塗った刀子で攻撃された。
ヤーマンは逃げる手筈を整え、ドーラは真っ先に逃げ、会場内も騒めき出した。
その時、オーネの山羊の鳴き真似を合図に、ジョレがウルスラを人質に取った。
ウルスラを人質に取ったジョレの背後にシャドフも現れ、オーネにこちらに来るよう呼びかけたが、ヤーマンとその配下がオーネの身柄を押さえた。
互いに睨み合いとなり、相手が人質を解放しなければ、人質を殺すと言い合った。
巻き込まれた形のバロード側が双方に呼び掛けたが埒が明かず、ロッシュ軍が迫って来ていた。
その時、少年ゾイアが獣人化し、ジョレに襲い掛かった。
ゾイアに手を噛まれたジョレは短剣を落とし、その隙にウルスラは逃げた。
すると、今度はシャドフがヤンを人質に取って、オーネの解放を要求した。
しかし、シャドフの握っていた刀子は魔道師カールの物品引き寄せで奪われ、更にジョレの落とした短剣をファイム大臣が投じ、シャドフは絶命した。
一連の騒動で、自分だけ逃げようとしていたヤーマンも目が醒め、配下に賓客たちを逃がすよう指示した。
狼の姿となって城外へ飛び出した少年ゾイアは、真っ直ぐにロッシュを襲って一噛みで斃すと、巨大化し、その尻尾でロッシュの遺骸を掴み、それを見せつけるように走った。
一万のロッシュ軍も意気消沈したところへ、ヤーマンが大統領として投降を呼びかけると、次々に武器を捨てて降伏した。
結局、来賓は全員皇后宮で一泊し、投降した一万の兵も討伐軍三万の監視下で野営した。
翌朝、一日分の記憶を失くしたスルージが戻ったが、どうせシャドフのせいだろうと、深くは詮索されなかった。
怪我の治療のためカールはジョレと隠れ里へ行くこととなり、ウルスラたちの帰路を心配したが、ファイム大臣らと共にカリオテへ寄ってから帰るという。
一方、ヤーマンは官邸にハリスとドーラを呼び、今回の騒動の処分を告げた。
ロッシュに加担した近衛兵たちは、死罪または強制収容所送り、オーネは特別に罪を赦し、その代わり、コロクスの妻にするという。
ヤーマンは改めてドーラとハリスも処分すると宣言し、コロクスを呼んで書面を読み上げさせた。
ドーラの所領のうち旧ヒューイ領は全て没収、これにパシーバ州の旧ジョレ領を併せ、新たにコロネ州とするなど、ドーラにとって厳しい処置であった。
激昂するドーラに、ヤーマンは、ならば一戦交えるかと挑発したしたが、ドーラは乗らず、処分を受け入れた。
ドーラとハリスが去った後、ヤーマンはコロクスに今回の処分を自画自賛した。
が、オーネについては充分用心するよう、コロクスにくぎを刺した。
一方、自分の城に戻ったドーラは、執事のサンテを相手に不満をブチ撒けたが、今は自重すべき時であると自戒し、次の好機を静かに待つと宣言した。
ファイム大臣一行と共に帰国することにしたウルス/ウルスラたちは、ガルマニアを横断し、ガルム大森林を南北に貫く『森の街道』を通って最南端の岬から船に乗ることにした。
しかし、何でも見たがり、何でも知りたがるウルスのために、行程は遅々として進まなかった。
その一行を、密かにマオール帝国のリーロメルが尾けていた。
正規の経路で東に向かったファイム大臣一行と違い、再び記憶を失くした少年ゾイアは、一糸纏わぬ姿で森を彷徨っていた。
偶々その近辺を警邏中であったバスティル騎士団のミハエルがゾイアを保護し、兄のガブリエルに託した。
手厚く持て成され、ゾイアの記憶も少しずつ戻りつつあったところへ、女騎士姿のファーンが訪ねて来た。
最初は警戒したファーンも、ガブリエルから事情を聞き、その少年がゾイアであると断言した。
そのままファイム大臣一行のところへゾイアを連れて行こうとするファーンに、ガブリエルは、ミハエルが帰るまで待つよう頼んだ。
ミハエルが戻ると、ファーンはここへ来た本来の目的を話した。
愈々ガルマニア合州国に禁教令が布かれることとなり、このコロネ州に住むプシュケー教団教徒にも国外退去が命じられるのだという。
いきり立つミハエルをファーンが宥め、仲裁役となる国を捜すつもりだと話していると、ゾイアがバロード連合王国の名を挙げた。
ガブリエルもミハエルもバロードに仲裁してもらうことに賛成したが、過去に経緯のあるファーンは躊躇った。
しかし、ガブリエルに説得され、誠心誠意で頼むことを決意し、ゾイアと共にウルスラに会いに行くことにした。
その頃ウルスラの許へ、慌てた様子のスルージが戻り、ラミアンが誘拐されたと報告した。
その前日、どうしてもアルカン湖が見たいというラミアンのため、スルージが付き添って行った。
湖とその周辺はリープができないため、直前でラミアンを下ろすと、スルージは居眠りをした。
目が醒めると深夜で、湖に浮かぶ小舟に誘拐犯の置手紙があったという。
話を聞いたギータが、相手が魔道を使ったのではないかと訝ると、スルージの目が真っ黒に変わった。
スルージを乗っ取った相手は、自らリーロメルであると名乗り、ラミアンを人質に取っていることを認めた。
その目的は、ガルマニアの内乱を拡大させて国力を弱めることに失敗したため、その埋め合わせの手柄が欲しかったからだという。
更に、現在マオールの皇帝であるヌルサンが魔眼が使えなくなっている原因を調査した結果、タクラマール砂漠のラオーランで何らかの事件があり、それにゾイアとギータが関わっていたことが分かったらしい。
リーロメルに問われたギータは正直に認め、人質なら自分がなると申し出たが断られた。
リーロメルはゾイアの身柄引き渡しを要求し、明日の日没までに連れて来なければ、ラミアンを殺すと脅した。
スルージの身体を乗っ取ったままリーロメルが帰ると、ウルスラは『識閾下の回廊』からゾイアに呼び掛けてみた。
ファーンとゾイアは馬で移動していたが、突如ゾイアの瞳の色が変わり、表面人格がウルスラに替わった。
ウルスラとファーンは互いの状況を説明し、ファーンがゾイアを連れてアルカン湖へ行き、リーロメルを斃すことにした。
ウルスラが自分の身体に戻ると、ギータもアルカン湖に行くと宣言した。
夜明け前にアルカン湖の近くに着いたファーンとゾイアが仮眠していると、ギータがやって来た。
夜明けと共にギータがゾイアを連れてアルカン湖に着くと、桟橋の先に縛られて猿轡を噛まされたスルージがおり、小舟にはリーロメルにイビルアイで操られているラミアンがいた。
近づこうとするゾイアを、リーロメルの本体が魔縄を掛けて捕らえた。
その時、ファーンがリーロメルに攻撃を仕掛けた。
暗殺術の師匠であるタンファンことファーンを、リーロメルは弱くなったと嘲笑った。
リーロメルは、イビルアイの支配下にあるラミアンを湖水に飛び込ませ、それを助けようとするギータには、今度はスルージをイビルアイで操って攻撃を仕掛けた。
更にファーンにも魔縄を掛け、リーロメルが勝利を確信した時、ファーンはゾイアに自分を援けるように言った。
ゾイアは巨大化して魔縄を切り、獣人化したが、リーロメルはその正面に廻ってイビルアイで睨んだ。
顔だけは少年のままであるゾイアをイビルアイで支配しようとしたリーロメルだったが、それが効かないとわかると、ヌルサンの例を思い出して固く目を閉じた。
しかし、ゾイアの機能がリーロメルの肉体を分析し、ラミアンと兄弟であると推定すると思わず目を開け、ゾイアのイビルアイに支配された。
ゾイアの身体は更にリーロメルを調べて反社会性人格と判断、簡易的に治療して解放した。
リーロメルは生まれ変わったような気持ちだと述懐し、マオール帝国へは戻らずに放浪すると告げて去った。
その後、ファーンはギータの勧めもあって、一行に合流した。
旧皇帝領であったガルム州は、昔日の繁栄の面影もなく寂れている。
その州総督である元皇帝ゲーリッヒの許に、カリオテのファイム大臣一行が通過するとの報告があった。
何故か気になったゲーリッヒが調べさせると、ギータらしき小人族が同行しているとわかり、足止めして臨検することとなった。
臨検は何とゲーリッヒ本人が行った。
外交上の権利を主張するファイム大臣やウルスラに対し、ゲーリッヒは自分の領地では自分が法律だと言い返し、馬車の中を強引に検めた。
中にいる人間を見ても、少年の姿であるゾイアだけは本人と思わず、せせら笑った。
その結果、ギータ・スルージ・ファーンの三人を拘束すると宣言したが、ファーンを自分の母親と思い込んでいるゾイアが襲い掛かった。
空中でゾイアの身体をゲーリッヒの剣が薙いだが、スルリと通り抜けた。
それでゾイアが本人とわかり、ゲーリッヒはゾイアも拘束すると告げたが、唯一拘束を宣言されなかったラミアンが、落ち着いた声で反論した。
ラミアンは、ガルム州の置かれている状況を冷静に分析し、ここでカリオテ大公国とバロード連合王国を敵に回すことは愚の骨頂であり、寧ろ誼を結ぶことが互いの利益になると説明した。
ゲーリッヒは、ラミアンの話でここで揉めるより友好関係を築いた方がいいとの理屈はわかったものの、面子を潰されたことに拘っているようであった。
ギータがそれを詫び、スンナリ通してくれと頼むと、意外にもウルスが反対した。
ガルム族の生活に興味があるというウルスに、ゲーリッヒも機嫌を直し、自ら案内役を買って出た。
結果、ウルス・ラミアン・ファーン・ゾイアの四人で行くこととなった。
森の近くで馬を止め、ゲーリッヒは狩りの見本を見せると言った。
しかし、ウルスが熊の爪痕を発見し、近くにいるかもしれないと注意を促していると、猛然と一頭が突進して来た。
逃げるよう指示を出すゲーリッヒや、猛毒で斃すというファーンを制し、ウルスは、唯一使える冷気の技でウーススを凍らせた。
ゲーリッヒがその場で解体していると、遠くから狼の遠吠えが聞こえて来た。
ルプスは二十頭ほどの群れで数が多すぎるため、ウーススの肉は残し、皮の一部だけ持って逃げることになった。
殿を務めるファーンの馬に十頭ほどが追いついて来たため、ゾイアは巨大なルプスに変身して追い払った。
ファーンも一頭を仕留め、ウルスたちに追いつくと、ウーススの皮を川で洗っていた。
ゲーリッヒはウルスの手際の良さを褒め、滞在中は弟子にしてやると言った。
ファーンが仕留めたルプスをウルスが捌き、その肉を焼いて食べることにした。
そこへスルージも来て一緒に肉を食べたところで、ゲーリッヒは馬車で待っているファイム大臣とギータも含め、全員を家に招待すると告げた。
すっかり一行と打ち解けたゲーリッヒだが、ウルスの同体の姉ウルスラだけは嫌っており、滞在中は出て来ないよう釘を刺した。
ところが、家に戻ると妻のミラが難産で苦しんでおり、どうやら逆子らしいという。
ウルスラは、約束を破ることになるが、癒しをさせて欲しいと申し出、少女の形態となったゾイア共々産室に入った。
無事に赤ん坊が生まれ、ミラ本人からも産婆からも、ウルスラたちのヒーリングによって奇蹟的な安産であったと聞かされ、ゲーリッヒの頑なな態度も和らいだ。
遅れてやって来たギータが、先程カールから知らせがあってゲルカッツェの妻レナも今朝無事に出産したという。
奇しくも同じ日に生まれた従兄弟の将来が安らかなものとなるよう、ウルスラは祈らずにはいられなかった。
族長直系の男子誕生に、ガルム族はお祭り騒ぎとなった。
ゲーリッヒも上機嫌でウルスに本音で話し、義兄弟になろうとさえ言った。
ウルスも喜び、いずれ国家間でも友誼を結ぶ約束をした。
祭りのような賑わいから一人離れ、悩んでいる少年ゾイアに、ギータが、ありのままの自分で良いのだと慰めた。
その後、ウルスたちはゲオグストに三泊したが、愈々明日は出発という夜、ゲーリッヒはウルスだけを呼んだ。
ゲーリッヒの話とは、自分の二人の弟、中でも末弟ゲルヌのことであった。
ゲーリッヒはゲルヌの先行きを心配し、ウルスに気に掛けてやってくれと頼み、ウルスも喜んで引き受けた。
翌朝、ゲーリッヒに提供された馬に乗り、ウルスたちはガルム大森林を目指して出発した。
ファイム大臣の乗った馬車が遅れる中、大森林に昂奮したウルスが突出し、遂に馬を下りて森に歩み寄った。
すると、樹上から降りて来た猩々と鉢合わせし、それを目撃したラミアンの大声に驚いたポンゴが、ウルスを抱き上げて逃げてしまった。
ポンゴに捕まったウルスは意外に平静で、ラミアンに呼ばれて救けに来たファーンとゾイアに心配ないと告げると、自らポンゴに話しかけ、その気持ちが通じたのか、無事に解放された。
ファイム大臣らと合流し、あまり離れずに一塊となって進もうと話し合っていると、先行していたスルージが慌てて戻って来た。
街道を塞ぐように大きな門が立っているという。
様子を見に行くというファーンをゾイアが止め、自分が行くと言った。
ゾイアは鳶の姿となって『森の街道』の上空を南下し、門らしきものを発見した。
が、矢を射掛けられたため、態と当たって落ち、射手が来るのを待った。
マオール人らしい射手の前で、ゾイアは森の精霊に変身した。
驚いたマオール人は正直に身の上を話したが、かつて宰相チャドスの要請で中原に来た竜騎兵の生き残りであると名乗った。
ドラグンの生き残りから救けて欲しいと言われたゾイアは、返事に窮した。
その時、『識閾下の回廊』を通じてウルスラが助言し、説得して門を撤去することができた。
事情を聞いたファーンはすぐにでも謝りに行きたいと言ったが、ギータらが、今は何よりも水と食料を提供してやることが大事だと止め、ファイム大臣に対応を任せた。
偵察から戻って来たスルージから、怪しげな五十名ほどの集団がいると聞き、ドラグンの生き残りはカリオテ大公国一行に託し、ウルスたちは旅人を装って接触することにした。
万年樹の辺りで、ガルマニア人らしい若者二人に支えられた老人が姿を見せ、自分たちは難民であると告げた。
老人はビスマッハと名乗り、元は帝都ゲオグストで絹織物などを扱う商人であったという。
古くから定住していたガルマニア人で、ガルム族の侵攻、ゲールの帝国建国、ゲルカッツェ・ゲーリッヒの暗黒時代、更にはマインドルフのゲオグスト廃都によって全てを失った。
それでも望郷の念は捨てられず、元ゲオグスト商人組合の仲間たちと共にここで暮らしているのだという。
ウルスやギータが、ゲオグストに戻れるようゲーリッヒに頼んでやろうかと提案すると、ビスマッハはキッパリと断った。
ビスマッハ老人はゲーリッヒを信用できないと断じた。
ギータがそれを執り成そうとすると、ウルスからウルスラに交替し、代案を出した。
移住先をガーコ州の州都ハリーにしてはどうかというウルスラの提案に、ビスマッハ老人自身は納得したが、できれば直接仲間たちに説明して欲しいと頼んだ。
話し合いは万年樹の上ですることとなり、自分で飛行できるウルスラ、ファーン、スルージの三人は先行し、ビスマッハ老人、ギータ、ラミアンの三人は巨大鳥人形態となったゾイアの背中に乗って行くことになった。
信じられぬほど巨大な幹の横を上昇し、樹冠部分の広場に到着したウルスラたちは、まだビスマッハ老人からの連絡を聞いていない警備の男たちと遭遇してしまった。




