表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1347/1520

1295 遥かなる帰路(24)

 ゾイアは上昇と共に変身したらしく、ゲーリッヒから与えられた服がヒラヒラと落ちて来た。

 それを受けめたファーンが「やはり、わたしも……」と、自分も飛び立とうとするのを、ギータがめた。

「まあまあ、ここはゾイアにまかせよ。おぬしは行かぬ方がいいと、あやつも言うておったじゃろう。それに、不謹慎ふきんしんなことを言うようじゃが、少年の姿になって以来、ゾイアの肉体は以前にもして変幻自在へんげんじざいになったような気がするぞ。将軍であった頃には、結構けっこう敵にられたり、矢が刺さったりしたと思うが、今はスルリと抜けるわざにつけておる。一見、弱々しく見えたとしても、あやつは今が最強じゃ。心配いらん」

 ファーンは、フッと自嘲じちょうするように笑った。

おさない頃、父から厳しくきたえられているわたしを、母が泣いてかばおうとしてくれた。負けん気が強かったわたしは、らぬお節介せっかいだと母に反発したものだ。今、そのむくいを受けているのだな」

 横で聞いていたウルスラも「心配しないで」とファーンに声を掛けた。

「ゾイアに何かあれば『識閾下しきいきか回廊かいろう』でわかると思うから」

「ありがとうございます」



 勿論もちろん、ゾイア自身は自分が心配されているなどとは思ってもみないようで、上昇しつつなめらかにミルウスの形態に変わると、順調に水平飛行に移って行った。

 眼下がんかには緑の絨毯じゅうたんのような大森林が広がっている。

 その中に、明らかに異質な白い直線が走っているのが見えて来た。

 これが『森の街道かいどう』であろう。

 ゾイアは、その白い直線に沿って、南下して行った。

 ほどもなく、白い直線をふさぐようにっている門のようなものが見えた。

 門といっても、り出した材木をし継ぎ足し作ったらしく、如何いかにも素人しろうとくさい。

 ゾイアはミルウスの姿のままで急降下した。

 と、門のかげから一本の矢がそのミルウス目掛けて飛んで来たのである。

 矢がミルウスのどうに突き刺さり、螺旋らせんえがいて門の手前に落下した。

 地面に落ちたミルウスを注意深く見れば、一滴いってきの血も流れていないことがわかったであろうが、門の蔭から出て来た人物にはそのような余裕はなさそうであった。

 こまかな鉄片てっぺん黒漆くろうるしったものを多数つなぎ合わせたよろいのようなものをているのだが、すで大半たいはんの鉄片はボロボロになって千切ちぎれており、鎧としての役目はたしていない。

 その隙間すきまから素肌すはだのぞいているのだが、せて肌艶はだつやも悪かった。

 顔もゲッソリとほほけており、その目の細さからかろうじてマオール人であることがわかる。

 もう何日も食べていないのであろう、すでよだれらしている。

 矢が刺さったミルウスに走り寄ってつかもうとしたが、その頭がアングイスのように伸びて来て、マオール人の手を突っついた。

『うわっ! な、何だ、これ?』

 おびえて飛び退すさった相手の前で、ゾイアのミルウスから矢が抜け落ち、立ち上がって巨大化すると共に、胸のあたりに人間の顔のようなものが浮かび上がって来た。

 その口がひらくと、少年とは違う重々しい声が響いた。

『われはこのガルム大森林の精霊スピリトスである。ここはわれの通り道であるのに、何故なにゆえこのようなものを作ってふさいだ? 正直に申さねば、取ってらうぞよ』

 その言葉はマオール語であり、空を飛べるのだから道を通る必要はないはずで、相手が冷静に考えれば矛盾むじゅんだらけであったのだが、恐怖に駆られたマオール人は震えながら身の上を話し始めた。



 正直に話すから、どうか喰わないでくれ。

 わしらは竜騎兵ドラグンの生き残りだ。

 もう随分ずいぶん前、東廻ひがしまわり航路で中原ちゅうげんに来た。

 最初は宰相さいしょうチャドスに招聘しょうへいされ、大元帥だいげんすいドーンという者の援軍として出陣した。

 ところが、ヌルギス陛下へいかの義理のめいに当たるタンファンという女子おなごだまされ、大蜥蜴おおとかげと切り離されて、地下道を通ってガルマニア帝国に帰ることとなった。

 一箇月いっかげつ程度で戻れるだろうとの読みは甘く、地下道で迷ってりとなり、当初八千名であったのが、数百名ずつぐらいの軍団にかれ、時期も場所もバラバラに地上へ出たようだ。

 よって、わしらの軍団以外の者たちがどうなったか知らぬが、おおよそは同じ経過を辿たどったことだろう。

 わしらの軍団はプシュケー教団の援助を受けたりもしたが、大半は途中で帰国をあきらめ、それぞれの土地で帰化きかすることを選択した。

 三年後、ようやくガルマニア帝国に到着した時には百名程度にまで減っていたが、内戦の只中ただなかで、タンファンはおろかチャドスもおらず、右往左往うおうさおうするうちに帝国そのものが崩壊ほうかいしてしまった。

 わってできたアーズラム帝国では、ハリスという将軍がマオール人に良くしてくれるとのうわさを聞き、そのもとへ半分以上が行った。

 その後、政変があったそうだが、ハリスは律儀りちぎにマオール人をまもってくれたというので、さらに半分が去った。

 残ったわしらは、もう二十名しかおらぬ。

 ただ、それでもなおここまで来たのは母国マオールへ帰りたい一心からだ。

 この『森の街道』を南へ行けば、東廻り航路へ行く港があるはずだ。

 ああ、無論、今は東廻り航路が通れないことは知っている。

 それでも歩いて港まで行ってみようと決めたが、如何いかんせん、水も食糧しょくりょうきた。

 街道の脇で皆へたり込んでいる時、騎兵に護られた美々びびしい馬車が通るのを見かけた。

 紋章もんしょうを知っている者がカリオテ大公国たいこうこくのものだと言うので、帰りを待って連れて行ってもらおうと思ったのだ。

 が、普通に頼んでも止まってくれぬだろうから、皆で必死にこの門を建てた。

 わし以外は、過労で動けなくなり、近くで寝ている。

 おまえがスピリトスとやらであるのなら、どうかわしらをたすけてくれぬか?



 ゾイアは返事にきゅうした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ