表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1328/1520

1276 遥かなる帰路(5)

 その前の日のことである。

 秘書官ラミアンがどうしても見たいという歴史的遺構いこうとは、ガルマニア中央に位置するアルカン牢獄島ろうごくとうであった。

「いやもう、島ごと水に沈んで、跡形あとかたもありやせんぜ」

 その経緯いきさつを知っている魔道屋スルージは当然めたのだが、ラミアンの理屈は違っていた。

「だからこそ遺構なんだよ。かつては政治犯を収容するために要塞ようさいのように厳重にまもられていた島が、今は湖底に沈んでいるなんて、こんな詩情しじょうをそそるものはないよ」

 コバルトブルーの目をきらめかせるラミアンに押し切られ、ウルスラ女王の了解をもらうと、二人で別行動をとったのである。



 アルカン湖には座標アクシスがないため、スルージは、直前の森までラミアンを連れて一気に跳躍リープした。

「さあ、ここからは、もう目と鼻の先でやんす。通常飛行で行きやすか?」

「いや。せっかくだから一人で歩くよ。森の小径こみちを抜けると、青い水面みなもが見える、って方がおもむきがあるじゃない?」

 スルージは自分のモジャモジャの頭をきながら苦笑した。

「あっしのような下世話げせわな人間にゃわかりやせんが、坊ちゃんがそうしたいのなら、どうぞご自由に。ああ、そうだ。危険があるといけやせんから、念のためこれを持って行ってくだせえ」

 ふところから小さなふえのようなものを取り出し、ラミアンに渡した。

「これは何?」

「魔道の笛でさあ。ちょっと吹いてみてくだせえ」

「こう?」

 吹き口に息を吹き込んだが、何の音もしない。

 が、スルージは両耳をふさいで顔をしかめている。

「つうっ。もちっと加減してくだせえ。鼓膜こまくが破れるかと思いやしたぜ」

「え? だって音は……」

 不思議がるラミアンに、笑顔に戻ったスルージが説明した。

「普通の人間にゃあ聞こえやせん。だから魔道笛なんでさ。あっしはこのあたりでのんびり昼寝でもしてやすから、万が一危ないことがあったら、すぐにその笛を鳴らしてくだせえ。その笛のはこの森全体ぐらいに響きますし、魔道を使う人間への覚醒効果もあるんでね。ただし、日が暮れる前には、必ずここへ戻って来てくだせえよ」

「わかった。ありがとう」

 いそいそと歩いて行くラミアンの後ろ姿をみながら、スルージは「まるで子供だねえ」と笑った。

「もう成人は過ぎてるはずなのに、ウルス坊ちゃんと同じだねえ。だから、まあ、気が合うんだろうけど。ふぁあ。いけねえいけねえ。旅の疲れが出て、本気で寝ちまいそうだ。ま、いいか」



 スルージがふと目をけると、周囲は真っ暗であった。

「あっ、いけねえ! 寝過ごしちまった!」

 月がない夜で、比較的夜目よめくスルージにも、ほとん樹々きぎの影ぐらいしか見えない。

でよ、鬼火おにび!」

 めいじながら突き出したスルージの指先に、ポッと炎があらわれた。

 その明かりで周囲を照らしたが、誰もいない。

「近くにゃいねえ。ま、まさか湖でおぼれてるんじゃねえだろうな。見に行かなきゃ」

 あせって急上昇したため、鬼火が地上に残っているのに気づき、「ついて来い、鬼火!」と改めて命じた。

 水平飛行に移るとすぐに、星明りに照らされた湖面が見えて来た。

「うーん、こりゃヤバイねえ。人っ子一人見えねえ。本当に溺れたのかねえ。いや、泳げないって言ってたから、自分から水に入るはずもねえが……、あっ、小舟がある!」

 湖面に浮かぶの葉のように、小さな舟が見えた。

 誰も乗っていないようだ。

 急降下して舟の中を照らすと、スルージがラミアンに渡した笛と一緒に、紙切れがあった。

「な、何だ、これ?」

 空中浮遊ホバリングしたまま手を伸ばし、紙をひろい上げた。

「お、なんか書いてある。『若者はあずかった。返して欲しくば、身代金みのしろきんを用意しろ。追って連絡する。アルカン湖賊団こぞくだん』って、ええっ、どうしよう!」

 責任を感じたスルージは、何か手掛かりが残っていないか、明け方まで周辺を捜索そうさくしたが、湖畔こはんの砂浜に残っていたラミアン本人の足跡あしあと以外、何も見つからなかった。



「……って、ことなんでやんす」

 スルージが半ベソで説明し終えると、騒ぎを聞きつけて馬車の中に来ていたギータが「おかしいのう」とつぶやいた。

「わしの持っておる最新の暗黒街情報でも、アルカン湖賊団などという名は聞いたこともない。おそらく、偽名ぎめいであろうな」

 ウルスラは厳しい表情で首を振った。

「偽名であろうとなかろうと、ラミアンが誰かに誘拐ゆうかいされたことに変わりはないわ。何とかしてたすけないと」

 行きがかりじょう、一緒に話を聞いていたファイム大臣が、「よろしければ」と発言を求めた。

潤沢じゅんたくとは申せませぬが、多少は旅費を持って来ております。お金でむことでしたら、ご協力させていただきますが」

 ウルスラがこたえる前に、ギータが「いや、目的は金ではあるまい」と口をはさんだ。

 スルージが「でも、身代金を用意しろって」と反論すると、ウルスラも「わたしもお金じゃないと思う」とギータに同意した。

「ラミアンは小姓ペイジの服をていたわ。普通、お金目当てで誘拐するなら、もっと身形みなりのいい相手を選ぶはずよ。しかも、手際てぎわが良すぎるわ。スルージが明け方まで調べて、何の証拠も見つからないって、変よ。それに、疲れていたにしても、スルージの眠りが深すぎる気がする」

 ギータがうなずいた。

「魔道じゃな。そういえば、スルージがバスティル監獄かんごくを見張っていた時も、同じようなことがあったのう。あの時はてっきり、シャドフのせいじゃと思うたが。ん? どうした、スルージ?」

 ガックリとうつむいていたスルージが顔を上げると、両方の目が白眼しろめの部分まで真っ黒になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ