1269 宴の後(1)
(作者註)
サブタイトルは、うたげのあと、のつもりです。
結局、来賓の大部分は皇后宮でもう一泊することとなり、また、投降した一万の兵士たちも、討伐軍の監視下で夜営することになった。
ウルスラは帰って来ないゾイアを心配したが、ギータにこう言って慰められた。
「あやつはまだ迷い道の中におる。無理に連れ戻そうとせず、好きなだけ迷わせておやり」
また同じく戻っていなかった魔道屋スルージは、翌朝、ひよっこりと戻って来た。
「あっしはどうしたんでしょう?」
バスティル監獄を見張っていたことは覚えていたが、その後の記憶が全くないという。
恐らくシャドフが何かしたのだろうということで、誰も深くは詮索しなかった。
一方、まだ片腕に痺れが残っているカールは、怪我をしたジョレと共に霊癒族の隠れ里へ行って、共に治療を受けることになった。
その出発前、カールがウルスラの部屋を訪れた。
帰路は同行できないことを詫びるカールに、ウルスラは逆に謝った。
「いつも危ない目に遭わせてゴメンなさい。それから、くれぐれもジョレのことをエマさまにお願いしてね。ちゃんと骨がくっ付くといいのだけれど」
カールは感に耐えないという顔をした。
「わたくしが言うことではありませんが、ご自分を殺そうとした相手に、何故そこまでのご配慮をなさるのですか?」
ウルスラは、フッと笑った。
「わたしが隠れ里でジョレを受け入れることを決めた時、エマさまに、色んな人を上手に使いこなすのが為政者の務めだからと、偉そうに言ってしまったの。結果的に、エマさまが危惧されたとおりになってしまったけれど、だからと言ってここでジョレを見捨てたら、嘘を吐いたことになる。それが嫌なだけよ。わたしもまだ子供ね」
照れたようにそう言うウルスラに、カールは笑顔で首を振った。
「いいえ、そうではないでしょう。人の上に立つお方は、須らく斯くあるべきだと思いますよ。では、ジョレさまのことは、責任を持ってエマさまにお伝えいたします。それで、陛下は直接跳躍でご帰国ですか? それとも、警護兵千騎と共にのんびり馬車で?」
ウルスラは苦笑した。
「それが、また寄り道することになったの。あ、ウルスと替わるわね」
ウルスラの顔が上下し、瞳の色が明るいコバルトブルーに変わった。
「婚礼の間は遠慮してたんだけど、久しぶりにファイムさんに会ったら、どうしてもカリオテに行きたくなっちゃったんだ。リサちゃんにも会いたいし」
再び顔が上下し、瞳の色が戻った。
「そういうことなの。ファイム大臣も是非にと仰ってくださるし、せっかくだから視察を兼ねて行くつもり。警護兵はタロスに連れて帰ってもらうけど、ラミアンはわたしたちと一緒に行くって言ってるわ」
カールが少し不安そうな顔をした。
「多少は警護の者をお連れになった方がよろしいのでは?」
「一応、今回役に立てなかった償いにと、スルージが同行を申し出てくれてるの。それから、もう一人……」
「わしも一緒じゃ」
そう言ってポーンと跳んで来たのは、勿論小人族のギータである。
「沿海諸国の現状を知りたいでの。今後の商売のこともあるから、ライナも駄目とは言わんじゃろう」
カールはホッとしたように笑った。
「ならば安心です。皆さま、どうか道中お気をつけて」
来賓が全て帰国し、投降兵も全員各地区に振り分けられた後、大統領ヤーマンは、パシントン特別区の官邸に、ドーラとハリスの両補佐官を呼んだ。
婚礼の時ほどではないが、とても似合っているとは言い難い派手な服を着ており、意外にも機嫌は悪くなさそうであった。
「まあ、なんだかんだあったが、ともかく生命拾いしたでよ。いっそお祝いしてえくらいだぎゃ。が、それはそれとして、きちんとケリをつけにゃあでは、だちかんで」
「ケリ、とは?」
聞いたのはハリスで、ドーラは表情を消して沈黙している。
真っ先に逃げてしまい、多少はバツが悪いのであろう。
ヤーマンもそちらは見ずに、ハリスの方を向いて答えた。
「信賞必罰っちゅうのが、上に立つ者の務めだで。まず、もうおっ死んだが、叛乱軍の首謀者ロッシュは当然死罪じゃ。地位も名誉も財産も領地も全て没収する。また、これに加担した元近衛兵たちも死罪または強制収容所送り」
ハリスが片手を挙げ、「お待ち、ください」と遮った。
「直ちに、武装解除して、投降すれば、一切の、罪は問わぬと、お約束、されたはず」
ヤーマンはギョロリと目を剥いた。
「阿呆! そうでも言わにゃあでは、わしらは全員ブチ殺されとる。かと言うて、謀叛に加わった者まで無罪放免では、示しがつかにゃあでよ。まあ、死罪は幹部だけにして、残り二千数百人は収容所送りで勘弁するつもりじゃ。これは、温情だがや」
「元近衛兵の、全員を、処分なさるのは、行き過ぎ、というもの。関りが、ある者だけに、なさっては?」
ヤーマンは鼻を鳴らした。
「その選別に時間を掛けるような暇はにゃあ。どうせ、多かれ少なかれ、ロッシュに恩義がある連中じゃで、この際、一纏めに処分した方が安心だぎゃ。ゴチャゴチャ文句を言うなら、おみゃあも収容所へ行くかや?」
さすがにハリスも黙った。
依然としてドーラも何も言わない。
ヤーマンは片頬で笑うと、話を続けた。
「黒幕であった魔道屋シャドフちゅう男は憎んでも余りあるところじゃが、元々風来坊で、死んでしまえばそれ以上罰することもできにゃあ。また、本来ならロッシュと同罪のオーネについては、まあ、女子ちゅうこともあり、仮にもわしの嫁になったちゅうことも考あて、死罪までにはせんと、離婚した上で終身幽閉と決めちょった。が、どうせ離縁するなら、自分が嫁にしたい、ちゅう者がおったで、そうすることにしたぎゃ。おみゃあらもよう知っちょる、コロクスじゃで」
ある意味死罪より残酷なその措置を、ヤーマンはニヤニヤ笑いながら告げた。
更にその笑顔のまま、改めてドーラの方を見た。
「次は、おみゃあの番だぎゃ」




