表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1310/1520

1258 魔の婚礼(29)

 少年ゾイアがウルスラの部屋をおとずれた頃、昨日からバスティル監獄かんごく近くで張り込んでいる魔道屋スルージのところへも、想定外の訪問客が来た。

虚空眼こくうがんとやらが得意と聞きましたが、隠形おんぎょう然程さほどでもありませんね」

 その時スルージは、監獄全体が見渡せるの上にたのだが、あやうく落ちそうになった。

「だ、誰でえ!」

 声のした方を振り返った時には攻撃ができるよう隠形をき、その手に刀子とうすにぎっていた。

 が、今度は真後まうしろから声が聞こえた。

「残念ながら、わたくしに殺意があれば、あなたはもう死んでいますよ、魔道屋スルージさん。おっと、無駄むだな抵抗をすれば、せっかく拾った生命いのちくしますよ」

 スルージは振り向かなかった。

 相手の言うとおり、完全に死命を制されていることがわかり、持っていた刀子をポロリと下に落とすと両手をげた。

「そんなにしい生命でもねえが、抵抗はしねえ。あんたが何者かも聞かねえ。が、一つだけ教えてくれ。あんたの目的は何だ?」

 相手の含み笑いが聞こえた。

「それを言えば、わたくしが誰かもわかるでしょう。でも、構いませんよ。身元をかくすつもりなど、最初からありませんから。どうぞ、こちらをお向きなさい。ただし、ゆっくりとね」

 スルージは警戒しながらも結局好奇心には勝てず、ゆっくり振り向いた。

「へえ」

 思わずそんな声が出た。

 見たことのない金髪碧眼きんぱつへきがんの男であるが、マオール風に髪を頭頂部でむすんで馬の尻尾しっぽのようにらし、服装も身体からだにピッタリしたマオールの民族衣装をている。

 スルージの高さに合わせて浮身ふしんしているが、空中でピタリと動かない。

 頭の良さがにじみ出るような怜悧れいりな顔に、皮肉なみを浮かべている。

「一応名乗っておきましょうか。わたくしはマオール帝国特命全権大使とくめいぜんけんたいしのリーロメルと申します」

「え、でも」

「そうです。わたくしはマオール人ではありません。本来の名前はロメルです。生まれはバロードのはずれにある寒村と聞いていますが、うんと幼い頃に養子に出されたのでほとんおぼえていません。もらわれた先は魔道師のみやこエイサで、養父ようふは魔道師でした」

「それじゃまるで……」

 リーロメルの笑みが深くなった。

「ええ。あなたと同じ境遇きょうぐうです。しかし、あなたの養父ケロニウスはあなたを表に出さないよう、田舎いなかの農夫にあずけたり、エイサでは学校へ行かせなかったりしていたため、あなたの存在を知ったのはつい最近のことです。逆にわたくしは正式な教育を受け、将来を嘱望しょくぼうされていましたよ」

「それが何故なぜマオールに?」

 おだやかだったリーロメルの顔が一変いっぺんした。

「決まっているでしょう! あのゲールの焼きちのせいですよ!」

 スルージ自身はそのずっと前にエイサを離れていたが、あの事件以降、生き残ったわずかな魔道師たちは、りに中原ちゅうげんの各地へ逃げたという。

「そりゃ大変てえへんだったろうな」

 思わず同情の言葉が出たスルージを、リーロメルはにらみつけた。

「あなたに何がわかるというのですか。エイサの魔道師に報復ほうふくされぬよう、ゲールは徹底的に残党狩ざんとうがりをさせました。多くの仲間が死に、わたくしはひそかに東廻ひがしまわり航路の奴隷船どれいせんもぐり込み、マオール帝国へ渡りました。奴隷として辛酸しんさんめましたが、魔道が使えることがバレて、あやうく首をねられるところを救ってくださったのが、当時のヌルサン皇子おうじです」

 またなぐさめの言葉を掛けようとひらきかけた口を、スルージはかたじた。

 それに気づいたリーロメルは嘲笑あざわらった。

「おお、お悧巧りこうさんですね。安っぽい同情などぴらです。それに、本当に大変だったのは、ヌルサン皇子のもとで働くようになってからです。あなたもご存じのように、マオールには東方魔道師がいます。それなのに、わたくしが必要とされたのは、何故だと思います? 刺客しかくのためですよ。東方魔道師は裏切らないよう、鍔広つばひろ帽子ぼうしかぶらないと魔道が使えないよう条件付けられますが、それでは目立つからです」

「だけど、女は……」

「そうですね。東方魔道師の女は目印として髪に金の輪っかを付けますが、それがなくても魔道は使えます。よって、暗殺はおもに女の仕事でした。あの、タンファンのようにね」

 話を聞くうちにリーロメルに対する恐怖が薄れ、スルージは普段のかれらしさを取り戻した。

成程なるほどでやんすねえ。いつも女が刺客じゃ相手も用心する。それで男のあんたに白羽しらはの矢が立ったんだね」

 リーロメルは鼻を鳴らした。

「自分でも驚きましたが、わたくしは殺し屋として有能でした。皇子の政敵を次々たおし、それにともなって地位も上がりました。皇子が皇帝に即位されると刺客の仕事は減りましたが、異国人としてははじめて皇帝補佐官ににんじられました。そして今回、この大役たいやくを命じられたのです。まあ、依然いぜんとして東廻り航路が使えぬため、という理由も大きいでしょうが」

「ふむ。あんたの事情は、まあわかりやした。ですが、その大使さまのあんたが、なんでまた間諜かんちょう真似事まねごとをしてるんです?」

 リーロメルは馬鹿ばかにしたように笑った。

「真似ではありません。大使はかくみので、わたくしの本来の仕事は間諜だからですよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ