表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1307/1520

1255 魔の婚礼(26)

 引きらるようにオーネの部屋に連れ込まれたジョレは、室内の淫靡いんび内装ないそうを見て、しまったという顔になった。

「これはマズい。あ、いや、その、あらぬ誤解を受けてしまう。どこか別の部屋にした方がいいんじゃないかな?」

 が、オーネはわざと困らせるように、ジョレにしなだれかかった。

「いいじゃないの、誤解されても。いいえ、いっそ誤解じゃないことにしても、いいのよ」

「そ、そんな、つもりは、うっ!」

 あせるジョレを、オーネは嘲笑あざわらいながらドンと突き離したのであった。

「調子に乗るんじゃないよ! あんたなんかを、本気で口説くどわけないだろう。揶揄からかっただけさ。けれどもし、あんたが裏切ろうなんてしたら、今迄いままで聞いたことのないような悲鳴を上げて、あんたにおそわれたって言うわ。それでもいい?」

「そんな! わたしをめたのか!」

 オーネはまゆひそめた。

「人聞きの悪いことを言わないでちょうだい。これから話すことを聞いたら、あんたも喜ぶはずよ。聞く? それとも悲鳴を上げられたい?」

 ジョレは泣きそうな顔で「聞くよ」と答えた。



 じゃあ、話すわ。

 明日の婚礼が、政略結婚なのは知ってるわよね。

 ヤーマンのシミアはあたしと結婚することで、叔父おじマインドルフからの権力継承けんりょくけいしょうを正当化し、あわせて叔父の知名度を利用したいと思ってるわ。

 だから、婚礼さえ成立すれば、あたしを捨てるつもりよ。

 それも、あたしの方が悪いという状況をこしえた上でね。

 最初はシャドフのことを理由にしようと考えてたみたいだけれど、今は、ロッシュの件にかこつけようとしてるわ。

 そう簡単に行くもんか、クソがっ!

 あら、思わずはしたない言葉が出ちゃったわ。

 まあ、それでシャドフと色々話し合ってみたのよ。

 勿論もちろん、ヤーマンを暗殺することも検討したわ。

 でも、これは無理ね。

 もりの番が総掛そうがかりでまもってるし、いざとなったら、ガッチリ防護殻シールドかこって一気にパシントン特別区まで跳躍リープするでしょうね。

 でも、その場合、あたしはすぐにアーズラム帝国の復活を宣言し、三代目の女帝じょていとして権力奪取だっしゅに動くわ。

 これは周知の事実だけれど、叔父をって二代目皇帝となったノッポのアラインは、あたしとの結婚を望んでいたの。

 それなのに、あのシミアに攻められ、ロッシュの裏切りで殺されてしまった。

 だから、元の婚約者のかたきという名目で、ヤーマン追討ついとうを国中に布告ふこくするの。


 え?

 内戦になるって?

 そうよ。

 そうなった方がいいわ。

 ヤーマンは、ほとんどの人が聞いたこともないような少数部族の出身よ。

 絶対に、あたしの方に多くの兵が集まるわ。

 でもね、ヤーマンだって、それぐらいのことはわかってる。

 だから、逃げる前に、必ずあたしの身柄みがらを押さえようとするわ。

 あんたには、それをふせいで欲しいの。


 ええ、そうよ。

 婚礼が次第しだい、一時的に身をかくすわ。

 そのかんに、シャドフがロッシュのじじいをき付けて叛乱はんらんを起こさせる。

 いい考えでしょう?


 ふん、わかってるわよ。

 あたしがつかまったら、終わりよ。

 シャドフにしろ、ロッシュにしろ、そうなったら大義名分たいぎめいぶんくすわ。

 あたしは、絶対に逃げびなきゃならないのよ。

 そのためには、人質がるわ。

 もうわかったでしょう?


 そうよ、ウルスラ女王よ。

 脱出したヤーマンが攻めて来るなら、ウルスラを殺すと言うの。


 え?

 関係ない?

 あるわよ。

 たとえ理由が何であるにせよ、女王を殺されたバロードが、だまっていると思う?

 そう。

 第三次のセガ大戦が勃発ぼっぱつするわ。

 ヤーマンにそこまでの度胸どきょうはないはずよ。

 いえ、本人にあっても、まわりがめるわ。

 わかったわね?

 あたしが生き残れるかどうかは、あんたがウルスラを人質にできるかどうかに掛かってるのよ。

 さあ、話は以上よ。

 あとは明日の本番を待つだけ。

 そうそう、合図を決めとかなきゃね。

 うーん、そうね。

 あっ、そうだわ。

 あたしが顎鬚あごひげしごくような仕種しぐさをしたら、ウルスラに消魔草しょうまそうを飲ませて。

 そのあと山羊カペルの鳴き真似まねをしたら、さらってちょうだい。

 どう、わかった?



 ジョレは何度もめ息をいたが、なかなか返事をしない。

 オーネは顔を近づけ、「悲鳴を上げさせたいのね」と笑ながらい、大きく息を吸った。

 ジョレはあわててガクガクとうなずき、「わ、わかった」と答えた。



 陰謀いんぼう渦巻うずま皇后宮こうごうきゅうから遠く離れた霊癒サナト族の隠れ里では、記憶をくし、少年の姿となったゾイアが、橋の上からボンヤリと水路をながめていた。

「ちょっといいかしら、ゾイア?」

 ハッとして声の方を見ると、赤ん坊を抱いた妊婦が立っていた。

 元皇帝ゲルカッツェの妻レナである。

 赤ん坊は限りなく灰色に近い薄いブルーの瞳をしているから、レイチェルの方だ。

 ゾイアは含羞はにかみながら「ええ、いいですよ。今日の仕事は終わったので」と答えた。

 レナは微笑ほほえんで、抱いているレイチェルを前に出した。

「実は、用があるのはこのなの。聞いてあげてね」

「はあ」

 戸惑とまどうゾイアに、レイチェルはたどたどしいしゃべり方で告げた。

「ウルチュラ、タチュケテ。オネガイ、ジョイア」

「え? ぼくが?」

 驚くゾイアに、レナがすまなそうに説明した。

「ゴメンなさいね。本当は自分が行きたいみたいなんだけど、わたしの出産が間近まぢかだから、わりに行って欲しいんだって。でも、無理よね」

 ゾイアは、何かに突き動かされるように答えた。

「ぼく、行きます!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ