あらすじ(1201 風が吹けば(24) ~ 1250 魔の婚礼(21))
謎の漂着者の憑依から解放された魔道屋シャドフは、エイサの森で狼と出くわす。
シャドフは短剣を投じたが、ルプスは頭部を分割してやり過ごし、何事もなかったかのように去って行った。
一方、ドーラ軍三万を迎え撃つべく、マーサ姫を大将とするエイサ軍三万が出撃した。
その一翼を担うジョレ将軍は、自分が大将でないことに不満を漏らしていたが、隠形したドーラが近づき、いっそエイサの支配者にならないかと唆す。
ジョレの調略からドーラが戻ると、執事のサンテがすぐに気づいた。
死後に改造されたため機械化の割合が高いサンテは、色彩が判別できない代わりに熱が見えるらしい。
ジョレの動揺を知らないマーサ姫は、横に展開し難い地形を考慮して真正面から敵とぶつかる策戦を採ったが、ドーラは一万だけを率いて北口に廻り込もうとしていた。
ゲルヌはどうやって市民を護るべきかギータと相談していたが、そこへゲルニアから報告が入り、勝利の確率がどんどん下がっているという。
ジョレの裏切りを予想しながらも、それが噂にでもなれば一気に総崩れになるためどうすることもできず、ゲルヌは、最悪の場合には降伏もあり得るとギータに告げた。
同じ頃、一人突出して敵に囲まれてしまったマーサ姫を、ルプスとなったゾイアが救ったが、そのまま消えてしまった。
一方、勝利を確信して小休止を取ったドーラの許に、敵に援軍が向かって来ているとの知らせがあった。
その少し前。
隠密裏に進軍したマオロン軍団三千はともかく、ドーラ軍三万の動きはすぐに噂となり、プシュケー教団の教主ヨルムの耳にも入った。
ヨルムは教団の信徒に避難を呼び掛けただけで、援軍を出す気はないようであった。
が、妹弟子のファーンは激昂して援軍を出すべきと主張した。
そこへ、皇帝家直属魔道師のカールも現れて援軍を頼んだため、遂にヨルムも援軍を出すことにしたのであった。
戦意がないため遅れがちのジョレの許へ、ドーラの使いとして東方魔道師が隠形して来た。
直ちに反転して、市民軍を攻めて欲しいという。
そんなあからさまなことはできないと渋るジョレに、東方魔道師は、敵の別動隊が市内に向かっているから市民を護るために戻るのだと言えば良いと教えた。
それは事実でもあり、ツァラト将軍からも、マーサ姫からも同じ指示が来たため、ジョレは堂々と反転して市内に向かった。
ゲルヌのところにも、ドーラ軍の別動隊が北口に廻り込んでいるとの情報と、ジョレ軍が反転して戻って来ているとの情報がほぼ同時に伝わって来た。
ジョレの真意を量りかね、直接会って確かめると言うゲルヌを、ギータとゲルニアが止めているところへ、カールが現れてプシュケー教団に援軍を依頼し、ファーンが七千の軍を率いて来ていることを告げた。
更にカールが、ジョレは既に幻術に掛かっていると伝えると、ゲルヌはジョレを拘束するよう命じ、自らはジョレ軍の掌握に向かった。
エイサ上空を旋回していたスルージは、ライ麦畑に佇む裸の少年を発見した。
十歳の姿となったゾイアであった。
殆ど記憶を失くしており、感情が昂るとまたルプスに戻ってしまうため、スルージは宥め賺してどこかへ連れて行った。
一方、市内に戻って来たジョレを、ゲルニアとカールが確保して連れ去ると、その軍勢をゲルヌが指揮して北口に向かわせた。
プシュケー教団の援軍を率いているのがタンファンと知って、ドーラは直接挑発するため軍を離れた。
お互いを非難し合ったものの、一騎打ちできる状況ではなく、悪態を吐き合って別れた直後、ドーラのところへジョレが拘束されて軍勢をゲルヌに奪い返されたとの報告が入る。
ドーラは東口に残した二万にも北口に移動するよう指示を出したが、却って総崩れに近い状態になってしまった。
ジョレ軍一万の指揮権がゲルヌ皇子に替わったことにより、ドーラ軍の別動隊一万は窮地に立たされた。
東口の味方二万が移動して来るまで保たないと判断したドーラは、同体の兄ドーンに変身し、前方に血路を開くことにした。
馬上で大剣を風車のように振り回し、敵中を駆け抜けたが、因縁のあるファーンと一騎打ちとなった。
ファーンが魔道で辛くも攻撃を躱すと、ドーンは嘲笑って逃げて行った。
ドーンが逃げたことにより、ドーラ軍は総崩れに近い状態となり、エイサ遠征は大失敗に終わった。
エイサ側の軍勢が市内に引き揚げた直後、集まった幹部たちにゲルニアが結界と『重さの壁』が復活したことを知らせて来た。
和やかな雰囲気の中、ジョレを隠れ里に連れて行ったカールが、そこでゾイアを目撃したと告げる。
記憶を失い、少年の姿となったゾイアは隠れ里の白い部屋で目醒めた。
傍らには責任者のエマがおり、ニノフとピリカの祖母だと告げると、ゾイアは頭痛を訴えた。
エマは癒しを施し、水を飲ませるために席を外したが、その間にハンゼ少年が入って来た。
ハンゼはゾイアに、友人のヤンを救けて欲しいと頼む。
そこへエマが戻り、ハンゼを叱った。
エマに勧められ、少年ゾイアは大食堂へ行った。
そこでハンゼを見つけ、記憶がないため自分が誰かわからないと話していると、通りかかった妊婦が「獣人将軍ゾイア」だと教える。
その妊婦の傍には、二歳ぐらいの子供が浮いており、その姿を見た途端、ゾイアは気を失った。
ゾイアが気絶から醒めると、再び白い部屋にいた。
心配そうに見守るエマの後から、リサンドールがやって来て適切な指示を出した。
ゾイアが落ち着いたところで、リサが話を聞かせた。
責任感の強い本来のゾイアが表面に出ようと焦る結果、頭痛がしたり気絶したりするので、今は少年の姿であることを愉しむようにと諭し、ゾイアは安定を取り戻した。
エイサから戻ったドーラは、同僚のハリスと共に大統領ヤーマンに呼び出された。
二人を見るなり、ヤーマンはハリスを叱り、ドーラを労った。
ところが、実際の処置は言葉とは裏腹に、ドーラの所領を構成する旧ゴンザレス領と旧ヒューイ領のうち、ヒューイ領の半分を没収するという苛酷なものであった。
ドーラが泣きを入れ、ヒューイ領の四分の一である皇后領とその近辺で決着した。
すると、ハリスは皇后領を手放したことは、逆に良かったのだとドーラを慰めた。
目論見どおり皇后領を自分のものにできたヤーマンだったが、決して油断しないよう配下のコロクスに厳重な警備を命じた。
その最大の不安要素である皇后オーネは、久しぶりに帰って来た愛人の魔道屋シャドフに甘えていた。
シャドフはエイサに行ったことの最大の収穫は、獣人将軍ゾイアが行方不明になっていることを知ったことであるという。
そのため、婚礼の来賓として来るウルス王/ウルスラ女王が無防備な状態になるだろうと笑った。
バロードの王都バロンの双王宮では、魔道屋スルージがゾイアの現状を説明していた。
回復の見込みが立たないことから、統領クジュケはウルス王/ウルスラ女王のガルマニア合州国での婚礼出席を取り止めるべきだと主張した。
しかし、ウルスラは、理想とする世界の実現のためにも出席すると譲らない。
すると、魔道師カールが現れ、ゲルヌの意向でウルスラたちを護衛したいと申し出た。
具体的な段取りの話となり、陸軍大臣タロスが近衛兵千名で護りながら、空の馬車で行くという。
タロスの案としては、ウルスラ本人は直接跳躍で現地に行けるとしても、婚礼会場で消魔草を飲まされたりした場合、その千名で脱出するという。
一方、迎える側のオーネの許には、新しく皇后領を管轄する行政長官として、元近衛師団長のロッシュがやって来た。
堅物のロッシュに、オーネは言葉巧みに近づいた。
オーネはロッシュを別室に連れて行くと、自分はマインドルフの実の姪ではないと告白する。
その秘密を知った魔道屋シャドフに脅され、いやいや愛人にされたという。
更に、マインドルフを暗殺させるためにアラインを誘惑したことも、今回のヤーマンとの婚礼も、全部シャドフから強要され、やらされているのだと訴えた。
ならばシャドフを始末しようかと提案したロッシュに、オーネは、先に自分が皇后になって実権を握り、その直後にヤーマンを殺してくれれば全てが上手く行くのだと唆した。
ロッシュとの密談を立ち聞きしていたシャドフは、オーネに皮肉を言ったが、オーネは甘えて誤魔化した。
一方、そのオーネの婚礼に出席するウルス王/ウルスラ女王は、空の馬車を先行させ、後からリープする手筈であるが、その間、身を隠す必要がある。
そこでウルスラは、この際別経路を採ってギルマンの蛮族と話し合いたいのだとクジュケに告げた。
また、その前に、ウルスの意向で、中原東南部の視察をしたいという。
別経路からガルマニア合州国へ向かうウルス/ウルスラは、最初に中原東南部のガイの里を訪れた。
出迎えたハンゼに、霊癒族の隠れ里でのゾイアの様子を聞き、二人はやや安心したものの、ハンゼからできればガルマニアでの婚礼は欠席した方がいいと忠告される。
しかし、ウルスは逆に、何か危険があればハンゼの友人のヤンも連れ帰ると約束した。
ガイの里に向かって歩きながら、ハンゼはウルスに母バドリヌのことを話した。
ガーコの里よりも更にアルアリ大湿原に近いため、ガイの里の土壌は毒素が多く、皮膚の病も深刻で、ガーコ族のような昼間の仕事ができず、闇の仕事をせざるを得なかったという。
バドリヌは、何とか移住先を見つけようと、最初はカルボン卿に近づき、次に魔女ドーラの配下となった時にカルス王と出会った。
そのカルス王の復讐のため、バドリヌは自ら黒魔道に手を染め、生命を落としてしまった。
ハンゼ本人も、聞いていたウルスも涙したが、新しい希望があると、ハンゼは、水が浄化されて魚が棲めるようになった池を見せた。
ガイの里の復興に協力して欲しいというハンゼに、ウルスが即答しようとすると、ウルスラが止めた。
その理由として、距離の遠さ、過去の経緯、バロードが合議制であることの三つを上げた。
ハンゼはムッとしたものの、人の上に立つ者の難しさはわかると理解を示し、それでも、実際の自分たちの生活を知ってもらいたいから泊まって行くように勧めた。
それは主食である毒蛙を食べてみよ、ということでもあったが、ウルスはその意外な美味しさに驚いた。
次の日の朝、朝食を済ませ、一気にギルマンにリープしようとするウルスラに、ハンゼは、隠れ里のゾイアと会ったらどうかと勧めた。
躊躇うウルスラに、隠形したままずっと付き添っているカールが、自分が案内すると申し出た。
隠れ里には座標がない上、周辺のアクシスも乱れているため、通常は近づけないのだという。
カールの先導で隠れ里に行くことになったが、エマはゾイアとの面会は許可しないと言って来た。
それはある程度覚悟していたウルスラは、カールと共に隠れ里の結界内に入った。
ウルスラは、隠れ里と周辺の礫砂漠との違いに驚いた。
特殊な結界よるものらしく、湿度と温度が最適に保たれており、眼下に広がる大草原の中に、美しい建物があった。
カールに施療院であると教えられ、玄関の前に降りると、エマたちが待っていた。
エマと一緒にいたのは、レナとゲルカッツェの夫妻と、その娘レイチェルであった。
ウルスラの異母妹であるレイチェルは、真っ先にウルスラのところへ飛んで来た。
別れ際、レナはウルスラに、自分の再従妹であるローラに会うのかと尋ねた。
気が重い役目を思い出したウルスラが絶句すると、レナは笑顔で協力を約束して去って行った。
そのウルスラの気分を変えようと、エマは別室に案内すると、特別な薬草茶を飲ませ、ウルスラが落ち着いたところで自分たちサナト族の歴史を話して聞かせた。
その上でエマは、絶滅の危機にあるサナト族だけではこのサナトリウムの維持ができないため、一般人の職員に癒しを教えて欲しいとウルスラに頼んだ。
ウルスラの話が一段落したところでウルスに交代し、矢継ぎ早にエマに質問を浴びせた。
その結果ウルスは、この隠れ里が閉ざされた世界で、水槽に小魚と水草を入れたような微妙な均衡を保っているのだと推察した。
その後、中庭に居るはずの少年ゾイアを、遠くからそっと見守るという約束で、エマはウルスラを案内した。
ちょうど菜園で水遣りをしているゾイアとリサンドールが話していたが、ウルスラは約束を破っていきなりゾイアに話しかけた。
が、ゾイアはウルスラを見て、ナターシャと呼んだのである。
少年ゾイアが自分を別人と勘違いしていると思い、ウルスラは自分はバロードの女王であり、ゾイアは参謀総長であると告げ、本来の姿に戻って欲しいと懇願した。
が、ゾイアはそれ以上反応せず、リサンドールもこれ以上の刺激は逆効果になるからと、二人を引き離した。
立場上、エマはウルスラを窘めたが、ウルスラは最初にゾイアと出会った時のことを思い出していた。
その後、エマはウルスラをレナのところへ案内した。
レナは、これまでの経緯を何もかも正直に打ち明け、しかし、今は幸せであると述懐し、ウルスラも蟠りが解けたようであった。
ウルスラはサナトリウムの一室で目醒めた。
昨夜レナと話した後、レイチェルと遊ぶうちに夕食の時間となり、大食堂で食事中に旅の疲れが出て眠くなり、この部屋に案内されたのである。
小川のせせらぎに誘われるように窓から中庭を覗くと、少年ゾイアが橋から飛び込むのが見えた。
ウルスラは慌てて飛んで行ったが、ゾイアは魚を獲っていただけであった。
ウルスに交代して魚のことをもっと詳しく聞こうとしていると、エマが駆け寄って来てウルスを叱った。
が、ゾイアが事情を説明するとエマも納得し、ウルスラに用事があって来たのだと告げた。
施設内でウルスからウルスラへの変身を目撃した男がいた。
憑依されたり暗示をかけられたりして、裏切りを繰り返したジョレ将軍である。
カールとゲルニアに拘束されてエイサからこの地に連れて来られたものの、さすがにもうゲルヌも赦さず、間もなく追放処分になるはずであった。
その頃ウルスラは、魔道が使える一般人職員にヒーリングの講習をしていたが、多少の危険は伴うと説明していると、幻肢痛に悩むザネンコフ将軍が実験台に名乗り出た。
すると、その後ろからジョレが現れ、自分も実験台にしていいから、その代わりバロードに仕官させて欲しいと頼み込んだ。
ジョレの身勝手な申し出に、責任者のエマは怒ったが、ウルスラはウルスと相談の上、一度は機会を与えるべきだと応えた。
地理不案内なガルマニアに行くことになっているため、現地での案内と警備の役目を無事に果たせば仕官を認めると告げると、ジョレは喜び勇んで出て行った。
その後、実験台はザネンコフ一人で実施されたが、翌朝、ウルスラを見送りに来た際、驚くべきことにそのザネンコフがヒーリングできるようになっていた。
愈々ウルスラが出発という時、少年ゾイアが待って欲しいと呼び止めた。
別れの挨拶に来たらしいゾイアだったが、やはり別人を思い出しているらしい様子に、ウルスラがやや強めに自分のことを念押しし、ゾイアが倒れそうになったため、付き添っていたリサンドールがカールを呼んで自室に戻らせた。
ゾイアが自分と勘違いしている相手に嫉妬して言い過ぎたかもしれないと反省するウルスラに、リサンドールは人の上に立つ人間として、ちゃんと自己分析ができていると褒めた。
援助の継続を約束してウルスラは隠れ里を去り、愈々ギルマンに向かった。
先触れしたカールから、ローラが族長全員を同席させるつもりだと聞き、ウルスラは逆に興味を持った。
出迎えたアンヌとイダラ族のシンザに案内され、ウルスラとカールは切通を抜けてギルマンに入った。
切通を塞ぐ門には、自動的に扉を閉める機械があり、ウルスラと交代したウルスが感激した。
更に、土地が非常に良い状態に保たれており、ウルスは興味津々であった。
蛮族の代表者であるローラがやって来ると、再びウルスラに戻った。
涙ながらに、蛮族がバロードに侵攻した際の乱暴狼藉を詫びるローラにたいして、ウルスラは意外にも、同体のローランドの意見を尋ねた。
するとローランドは、それを命じたのはウルスラの父、カルス王だと言い放った。
ローランドの言い方に多少ムッとしながらも、ウルスラは事前に蛮族の本音が聞けて良かったと感謝した。
そこからはローラの案内で進み、蛮族の集会所だという八角形の大きな建物、アゴラに着いた。
ウルスラがやや緊張して入ると、既に各部族の族長が座っており、ローラが順に紹介した。
ウルスラは黙ったままの族長たちについて、外国の客を迎える態度としては失格だと非難した。
すぐにメギラ族のゴークが反撥したが、それを抑えてクビラ族のガタロが説明した。
ガタロは、抑々の発端となった蛮族の帝王カーンの出現から説き起こし、このままでは北方に住めなくなるからと、蛮族が中原進出に向かった経緯を語った。
その際、逸早くカーンことカルス王に取り入ったシトラ族のレオンが、政権を裏で操っている魔女ドーラに接近し、逆にカルス王が孤立化したという。
その後、バロードを追われ、第一次セガ戦役の最中このギルマンに侵攻し、同じ過ちを繰り返しそうになった。
しかし、蛟による多大な犠牲、ガルマニア帝国との戦争などを通じ、ともすればバラバラになりそうな蛮族を取り纏め、不可能と思われたギルマン先住民との宥和を果たし、族長国連邦を造り上げたのはローラの功績だと讃えた。
そのローラがバロードと手を結ぶなら、自分たちも従うと宣言し、大部分の族長も賛同したが、一人だけ反対の声が上がった。
バロードとの和解を認めないと叫んだのはメギラ族のゴークである。
それに対して、ガタロは無理をしてメギラ族らしく振る舞う必要はないと諭し、長老のアニラ族の族長も口添えしたため、ゴークも渋々大人しくなった。
各族長が自分の部族の説得に戻った後、ウルスラ、ローラ、アンヌの三人は、固く友情を誓い合った。
同じ頃、ウルス/ウルスラとの合流地点である自由都市ロランに先着した陸軍大臣タロスの許に、ジョレ将軍が訪ねて来た。
本来なら仇敵であるはずの相手であったが、ウルスラの推薦状を持っているためタロスも無下にはできず、一応、客将の扱いで受け入れることにした。
婚礼の日程が二日後に迫り、皇后オーネは苛立って若い女官に当たり散らし、行政長官ロッシュの来訪を知らせに来た女官長には引退を申し渡した。
それでもロッシュの前では本性を隠し、甘えた声でヤーマン暗殺を念押しした。
そのころ、オーネに当たられて泣く若い女官のところへ、魔道屋シャドフが現れた。
一方、オーネから馘首を宣告された女官長は、怒りが治まらぬまま、連絡役の『杜の番』を呼んだ。
女官長の怒りを鎮めるため、『杜の番』は極秘情報である、オーネとロッシュの陰謀を教えた。
最終的にはオーネが失脚し、終身幽閉になるはずと聞き、女官長は多少溜飲を下げた。
同じ頃、若い女官のところに現れたシャドフも、オーネとロッシュの陰謀を暴露していた。
その上、その秘密が既にヤーマン側に知られており、間もなくロッシュは逮捕されるだろうと教えた。
しかし、そこまでは織り込み済みであり、婚礼当日自分がロッシュを脱獄させ、謀叛を起こさせるという。
結果的にオーネが女帝となり、自分はその夫君となるが、そこでオーネを殺すから、一旦その犯人役になって欲しいと、若い女官に頼んだ。
最初は警戒していた女官も、オーネに復讐ができ、後で必ず助けると言われ、その気になった。
しかし、驚くべきことに、シャドフが声を掛けた女官は、これで三人目だという。
小金を貯めて後妻でも迎えようと考えていたロッシュにとって、思いもよらぬ幸運が転がり込んだ形だが、やはり、謀叛に踏み切る勇気が出ないまま、曖昧な返事をして皇后宮を出ようとしたところ、コロクスが待ち伏せしていた。
不義密通の罪で、ロッシュを逮捕するという。
コロクスだけでなく『杜の番』も多数現れ、反論する間もなくロッシュは捕縛された。
ロッシュの逮捕は、すぐにオーネに知らされた。
知らせた女官が、その容疑を不義密通と聞いたと告げたため、オーネは焦ってヤーマンに申し開きをして来いと命じた。
しかし、そこへコロクスが現れ、容疑は不正蓄財だと訂正し、女官を叱った。
自分の容疑は晴れたものの、段取りが狂ったと慌てるオーネのところへ、シャドフが戻って来た。
動揺するオーネに、シャドフは、ロッシュの収監場所はバスティル監獄だとわかっており、自分が脱獄させるから心配しないようにと宥める。
すぐにでも脱獄させてくれと急かすオーネに、シャドフは、婚礼当日まで待てという。
ロッシュに対する警戒も緩み、ロッシュ本人も殺されぬために謀叛を起こさざるを得なくなって、逆に好都合だとシャドフは笑った。
その後、様子を探りに来た魔道屋スルージが、シャドフの航跡を追った。
皇后宮で陰謀が交錯している頃、漸くバロードへの仕官が許されたジョレは、自由都市ロランの宿で一人悦に入っていた。
そこへ魔女ドーラが現れ、このままではガルマニア国内が大混乱となるから、今のうちにシャドフを殺せと唆した。
ドーラは、シャドフ暗殺の見返りとして、ロッシュ亡き後の旧ジョレ領・旧ポーマ領のブブリカスとして、ジョレを推挙するという。
バロードの一行にジョレが居ることはまたとない幸運だが、決してバロード側に気づかれるなと、ドーラは念を押して帰った。
翌朝、合流したウルスラは多少ジョレを怪しみながらも、身辺を探ろうかと申し出た魔道師カールを止めた。
そこへ、血相を変えた魔道屋スルージがやって来た。
スルージは、皇后宮に渦巻く陰謀を捲くし立て、その黒幕であるシャドフの航跡がバスティル監獄に残っていることから、ロッシュを脱獄させて謀叛を起こさせるつもりであることは間違えないから、ここから引き返すようにと、ウルスラに進言した。
が、ウルスラはそれはできないと応え、理由をラミアンに説明させた。
ラミアンは、ウルスラの理想を実現するためにも、このような国際的な式典が無事に挙行されることが必要であり、何も起きないうちから逃げて帰ることはできないのだという。
スルージがバスティル監獄を調べる少し前、収監されるロッシュはオーネに誘惑されたことを後悔し、自死を考えるほど思い詰めていた。
そこへ魔道糸が飛んで来て、皇后オーネに頼まれた魔道屋スルージと名乗り、明日は必ず救け出すから、早まったことをするなと忠告した。
それは無論シャドフであったが、ロッシュは信じて待つと応えた。
その後、本物のスルージをやり過ごし、シャドフが行ってしまうと、隠形していたドーラが現れ、裏の裏を掻くと宣言して去って行った。
明日の婚礼に備え、新郎のヤーマンと娘ヤンが皇后宮に入城したが、オーネは冷淡な応対しかしないため、ヤーマンは皮肉を込めて同衾を仄めかしたが、オーネは怖気を振るって自室に戻って行った。
さすがに鼻白むヤーマンのところへコロクスが来て、警備は全て問題ないと豪語した。
それでも用心するようヤーマンが注意しているところへ、ハンゼ少年が姿を見せた。
ヤーマンが、ハンゼの案内を敢えてコロクスにやらせたところへ、ハリスとドーラが相次いでやって来た。
ヤーマンは二人に会場の警備状況の再確認を命じた後、戻って来たコロクスに二人の監視を命じた。
その頃、不機嫌なオーネを慰めるように、シャドフが魔道糸で声だけを送ったが、当日まで姿は見せないと告げて去った。
コロクスを安心させるため喋り続けていたハンゼは、ヤンと二人きりになると、必ず連れて逃げると約束した。
が、ヤンは父ヤーマンも一緒にと頼んだ。
それは自分の父ハリスに任せているとハンゼは応えた。
そのハリスはドーラと夫婦役となって婚礼の模擬練習をしていたが、様子を見に来たコロクスに疑われぬよう、冗談に紛らせた。
そこへ、ウルス/ウルスラの到着が知らされたため、ドーラは急に不機嫌となって帰って行った。
ウルス/ウルスラは上機嫌で迎えたヤーマンも、野人太子に戻った元皇帝ゲーリッヒの訪問には緊張を隠せなかった。
が、ゲーリッヒは連れと共に野宿すると宣言し、暗殺はしないでくれと冗談めかして去って行った。
一方、ウルスラの部屋に集まったバロードの一行は、情報の共有と分析を行っていた。




