表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1274/1520

1224 同行二人(5)

 霊癒サナト族のかくざとの領域内に入ったウルスラは、周辺の礫砂漠れきさばくとの違いに驚いた。

 砂漠緑地オアシスなどという規模ではなく、緑の草原が眼下がんかに広がっている。

「ああ、そうね。いその香りこそしないけれど、沿海えんかい諸国に似た気候ね」

 先行するカールとは少し距離があるから、話している相手は内部の弟ウルスであろう。

「え? 湿度をたもつ方法? それはあなたが直接エマさまに聞いてよ。着陸したらわってあげるから」

 ちなみに、ウルスにできる魔道は冷気を出すことだけで、ゾイアの身体からだを借りていた時は別にして、いまだに自力じりきでは飛行できない。

 と、前を飛ぶカールがグッと高度を下げたので、ウルスラは会話を打ち切り、それに合わせて降下した。

 その先の草原の真ん中に、小さな森に囲まれた大きな建物が見えて来た。

「まあ、綺麗きれい!」

 基本構造は木造のようだが、大きな屋根には明かりりの天窓があり、無数の薄い色硝子いろガラスめ込まれている。

 その硝子がキラキラと宝石のように輝いているのだ。

「サナト族の施療院サナトリウムでございます」

 いつのにかそばに来ていたカールが教えてくれた。

 真上から見ると、建物全体は四角い穴のいた正方形のような形で、中央の中庭には人工的な小川が流れている。

「直接入っちゃっていいの?」

 まだゾイアとは対面しない方がいいとのエマの指示を考えての質問であったが、カールはややお道化どけて答えた。

「入るとしても、正面玄関からです。基本的に病人や怪我人けがにん以外は、入口近くの面会室までしか入れません」

 ウルスラも笑って「そうでしょうね」とうなずき、カールと共に玄関に回った。

 玄関にはすでにエマが出迎でむかえていたが、その横に並んでいる者たちを見て、ウルスラは「まあ!」と驚きの声を上げた。

 妊婦にんぷと、同じくらい腹部がふくらんだ男と、その二人のあいだはさまれるように浮いている幼児ようじである。

「レイチェル!」

 ウルスラが叫ぶのと同時に幼児は飛び上がり、ニコニコ笑いながらウルスラに抱きついた。

「ウルチュラ」

「まあ、しゃべれるようになったのね。いたかったわ、レイチェル」

 それはウルスラの異母妹いぼまいレイチェルであった。

 幼児ながらその理気力ロゴスすさまじく、単純な魔道の力なら、魔女ドーラすらしのぐ。

 実の母であるレナにさえ笑顔を見せぬレイチェルが、唯一心を許す相手が、ほかならぬウルスラであった。

 再会の喜びにわれを忘れているウルスラに、カールが「さあ、みなさまお待ちかねですよ」とうながした。

「ああ、ごめんなさい。レイチェル、あとでね」

 レイチェルは一瞬悲しそうな顔になったが、この年齢にしては聞きけが良く、スーッと両親のもとに戻った。

 玄関で待つ大人三人の前にり立ったウルスラは、まずはこの隠れ里の責任者であるエマに挨拶あいさつした。

「エマさま、突然の来訪をお許しいただき、ありがとうございます。決してご迷惑をお掛けいたしませんので、よろしくお願いいたします。おお、それに、わが国の重鎮じゅうちんであるゾイア参謀総長さんぼうそうちょう治療ちりょうをしていただき、本当に感謝いたしておりますのよ」

 エマはキリリとした美貌びぼう微笑ほほえみを浮かべて答えた。

「ゾイア少年の件は、義母ははまかせっきりよ。それに、いずれにしろ、治療らしいことは何もしてないわ。ああ、それから、あなたが来ることは、カールが知らせて来るより先に、レイチェルがあなたの名前を連呼しているとレナさんに教えてもらったから、考える時間がたっぷりあったのよ」

 ウルスラは自然にレナの方を向いた。

 父の愛人であったレナを義母と呼ぶこともできず、それでもなるべくわだかまりを感じさせない平静な声を作って「レナさん、お久しぶりですね」と告げると、レナはむしろサバサバした態度でこたえた。

「ご無沙汰ぶさたしております、女王陛下へいか。いえ、皮肉じゃありませんのよ。戴冠式たいかんしきにはレウス/レイチェルしか出席できませんでしたけど、夫ゲルカッツェ共々ともども心から祝福していますわ」

「ありがとうございます。いずれ、国民感情が落ち着いたら、帰国の段取りを」

 その言葉をさえぎるように、ゲルカッツェが割り込んだ。

「あ、それはもう、いいんだ。ぼくたち、ここの暮らしが気に入ったし、外の世界で陰謀いんぼうに巻き込まれるのは、もうコリゴリなんだよ。愛する妻や子供をまもるには、ああ、勿論もちろんぼくのの安全のためにも、ここにるのが一番だと思う」

 為政者いせいしゃとしての責務せきむについて一言ひとこといいたそうであったウルスラは、結局そのことにはれず、「わかりました。末永すえながくお幸せに」とだけ告げた。

 気まずい雰囲気になる前に、気をかせたエマが話を引き取った。

「さあ、玄関での挨拶はこれくらいにしましょう。それじゃ、面会室に移動して、施設内外の簡単な説明をするわね。レナさんの家族とは、後でゆっくりお話ししてちょうだい。それから、あらかじめ断っておくけど、ここでは王も女王も関係なく、みんな平等にあつかう決まりなの。だから、わたしはあなたをウルスラと呼ぶけどいい?」

 ウルスラは、ホッとしたような笑顔になった。

勿論もちろんですわ。本当は、わたしの国でもそうしたいくらい。でも、クジュケがしめしがつかないとうるさくて。あ、だから、レナさんも、ここではウルスラと呼んでね」

 レナは少し躊躇ためらったが、思い切ったようにこたえた。

「わかったわ、ウルスラ。じゃあ、あとでわたしたちの部屋に遊びに来てちょうだい。レイチェルが待ってるわ」

「ええ、必ず」

 そのまま帰ろうとしたレナは、ふと何かを思い出したように振り返った。

「小耳にはさんだ話だけど、わたしの再従妹はとこのローラに会いに行くそうね?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ