表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1268/1520

1218 魔の婚礼(5)

 オーネがロッシュを連れて行った小会議室には、長方形のテーブルの両側に十脚じゅっきゃくずつの椅子が向かい合わせに並んでいた。

 中に入ってとびらを閉めると、オーネはそのはしの椅子にロッシュを掛けさせ、を寄せるようにその真横に座った。

他人ひとに聞かれたくない話だから」

 言いわけするようにオーネがささやくと、あわてて席を変えようと腰を浮かせかけたロッシュも、「うむ」とうなずいて座りなおした。



 ああ、何からお話ししたらいいのかしら。

 そうね、やっぱり、叔父おじマインドルフ一世いっせいのことから言うべきね。

 これは誰にも言ってないけど、実は叔父とは血のつながりはないの。

 母が叔父の兄と再婚した時、わたくしはもう母のお腹にいたのよ。

 新しい父は叔父と違ってやさしい人だったらしいけど、まだわたくしが赤ん坊の時にくなり、旅商人たびあきんど家督かとくは叔父がいだわ。

 あなたもご存知ぞんじでしょうけど、叔父は強欲ごうよくなさけ知らずの人だったから、自分がどれほどもうかっても母には最低限の生活費しか渡さず、まずしい暮らしをしいいられたのよ。

 そんな叔父の態度が変わったのは、わたくしが十代になってからだった。

 日に日に美しく成長するわたくしを見る目がいやらしく、本当に毎日が恐怖ととなり合わせだった。

 ああ、誤解のないように言っておくけど、叔父は死ぬまでわたくしを実のめいだと信じていたから、さすがに手は出さなかったの。

 でも、違うことに利用しようとは考えていたわ。

 政略結婚よ。

 その頃にはもう旅商人ではなく、ガルマニア帝国の方面将軍になっていたから、自分の出世のためにね。

 最初はゲール帝の三人の息子の誰かにとつがせようと思っていたみたいだけど、ゲール帝は外国との政略結婚を考えていたから実現はしなかった。

 結果的に自分がアーズラム帝国の皇帝になると、ゲール帝と同じことを考え、一時はうるさいぐらいマオール帝国の後宮こうきゅう入りをすすめられたわ。

 だけど、わたくしはキッパリ断った。

 だって、見たこともない魔人皇帝の、第何百番目だか、第何千番目だかわからない夫人になって、愛玩あいがん動物のように一生を送るなんて、想像しただけでもゾッとするわ。

 でも、それからよ。

 叔父のわたくしに対するあつかいが、あからさまに冷たくなったのは。

 女官にょかんえば聞こえはいいけど、結局、宮廷きゅうていの雑用係よ。

 他所よその国なら、あのじゃじゃ馬のマーサでさえ姫御前ひめごぜと呼ばれてチヤホヤされているのに!


 ああ、ごめんなさい。

 こんなことが言いたいんじゃなかったわ。

 ともかく、わたくしは女官の境遇きょうぐうから抜け出して、自由のになりたかったの。

 そんな時にあの男があらわれた。

 あの、魔道屋シャドフというおそろしい男よ。

 世間ではわたくしの愛人のように思っているらしいけど、違うわ。

 わたくしがマインドルフ一世の実の姪ではないと知ったあの男は、それをネタに強請ゆすって来たのよ。

 最初は突っねたわ。

 けれど、本当に叔父に告げ口されそうになり、身の危険を感じたわたくしは、言いなりにおかねを払った。

 そのうち、だんだんとあつかましくなって来て、お金以外も要求されるようになった。

 わたくしは、泣く泣くあの男のものにされたのよ……。


 ……ごめんなさいね、泣いちゃって。

 ええ、もう大丈夫よ。

 どこまでお話ししたかしら?


 ああ、そうね。

 シャドフの要求は、それで終わりじゃなかったの。

 あの男は自分の野望のため、わたくしにアライン男爵だんしゃくとりこにするようめいじたわ。

 目的は、アラインに謀叛むほんを起こさせ、叔父の帝国を乗っ取るためよ。

 それはまんまと成功し、アラインは叔父をったの。

 でも、因果応報いんがおうほうね。

 アラインが皇帝でいられたのはわずか数日。

 ヤーマンに攻められ、あなたたち近衛兵に天誅てんちゅうくだされたわ。

 ところが、シャドフはまだあきらめず、今度はヤーマンに近づけとわたくしに命令した。


 そうよ。

 その結果、わたくしは望んでもいない皇后こうごうになろうとしているの。

 だけど、あのシミアかれるのかと思うと、身の毛が彌立よだつわ。

 本当は逃げ出したいのだけれど、そんなことをすれば、あのシャドフに殺される。


 え?

 まあ、ありがとう。

 わたくしをまもってくださるのね。

 でも、待ってちょうだい。

 あなたなら、シャドフを始末するのはいつでもできるわ。

 けれどそれでは、わたくしはこのままヤーマンのものになるだけ。

 わたくしを本当に助けてくださるなら、先にヤーマンを殺してちょうだい。


 いいえ、大丈夫よ。

 あなたならできるわ。

 それに、婚礼の直後ならヤーマンも油断してる。

 だって、当日この近辺を護ってる兵士は、みんなあなたの部下よ。

 心配しなくても、すぐにわたくしが皇后としてヤーマンの代行を宣言し、あなたに特赦とくしゃを与えるわ。

 用心深いシャドフは殺される前に逃げるかもしれないけど、それならそれで構わない。

 大事なのは、わたくしが皇后になることよ。

 一旦いったん権力をにぎってしまえば、誰も逆らえない。

 国内の体制を固め、ほとぼりが冷めた頃、改めてあなたを夫君ふくんとしてむかえるわ。

 どう?

 素晴すばらしい未来だと思わない?



 話し終える頃には、ピッタリとくっ付いていたオーネの身体からだからのがれるように離れると、ロッシュは呼吸を整えながら、「か、考えさせてくれ」と返事を保留ほりゅうした。

 オーネは勝利を確信したような笑顔で「いいわよ」とうなずきながらも、最後に一言ひとことおどすように告げた。

「わかっていると思うけど、今の話は絶対に内緒ないしょよ。もし、れるようなことがあれば、わたくしは皇后宮こうごうきゅうの最上階から身を投げるわ」

 ロッシュは何度もつばを飲み、「わかった」とかすれた声で告げつつ部屋の扉を開け、左右を警戒して出て行った。

 オーネはひとりでに笑いが込み上げるようで、「ふふっ」と声が出たが、背後からパチパチと拍手が聞こえたため、ギクリとして振り返った。

 部屋の奥の空気がおぼろれ、吟遊詩人キタエドロスのようなとんがりぼうかぶったせた男が姿を見せた。

「なかなかいい芝居しばいだったよ。おれも思わずもらい泣きしそうになった。で、おれはいつ殺す予定なんだい?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ