表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1253/1520

1203 風が吹けば(26)

「どうした、ゲルニア? ……何っ! それは確かか?」

 第三の目でゲルニアと会話しているらしいゲルヌ皇子おうじの横で、ギータは気遣きづかわしげに聞いている。

「……わかった。こちらでも対応を考える。ああ、よろしく頼む」

 スーッと第三の目が消え、だまり込んでいるゲルヌに、しびれを切らしたギータが聞いた。

「どうしたんじゃ? まさか、ルプスになったゾイアが市民をおそったわけではあるまいのう?」

 自分の思いに沈んでいたゲルヌは、ハッとしたように顔を上げた。

「いや、そんなことはないと思う。依然いぜんとして行動は追い切れていないが、被害報告は来ていない。ゲルニアが知らせて来たのは、確率だ」

「確率?」

「ああ。姫御前ひめごぜらが出陣した際、こちらの勝つ確率は七割以上八割以下であった。それが何故か急速に低下し、現在は五割を切り、さらに下がり続けている。赤目族が原因を分析中だが、魔道神バルルの方は簡易制御盤かんいせいぎょばんの修復に集中していて、まだ手が離せないらしい。が、わたしには何となく原因の想像がつくよ」

 ギータも下唇したくちびるを曲げてうなずいた。

成程なるほどのう。『裏切り者は何度でも裏切る』ということじゃな」

 ゲルヌは人差ひとさし指を自分の口に当てた。

「まだ迂闊うかつなことは言わないでくれ。うわさにでもなれば、それが確定してしまう。それに、あの魔女のことだから、それだけではないと思う」

「そうじゃな。ともかく、早急そうきゅうに『重さの壁』だけでも回復してくれぬと、市民たちをまもりきれんぞ」

「わかっている。だからこそバルルはそれを最優先にやってくれているのだ。が、とてもに合うまい。最悪の事態も考慮こうりょしなければならないだろう」

「どうするつもりじゃ?」

 ゲルヌは苦渋くじゅうの表情で告げた。

「市民に犠牲者を出すことだけは絶対にけたい。そうなる前にドーラに降伏することも、選択肢せんたくしの一つだ」



 同じ頃、マーサ軍は敵と激突していた。

 その先頭には、真っ赤な甲冑かっちゅう姿のマーサ姫本人がいる。

「押せ、押せーっ! この勢いのまま、わが軍で戦意のい敵を押し戻してしまうのじゃ!」

 実際、この近くの敵軍に大将たいしょうらしい人物はおらず、前線の兵士たちは後ろから押されるので仕方なく戦っているというふうにも見える。

 が、数は多い。

 マーサ軍が突出しすぎたため、まだツァラト軍もジョレ軍も追いついておらず、ほぼばいの敵と戦っているのだ。

 互いに軍を横に展開できないため、敵味方入り乱れての密集状態になっており、ふと気づくと、マーサのまわりには敵兵しかいなかった。

「くそっ!」

 下から突き上げらた槍のを、反射的に長剣ロングソードり払ったものの、その切り口の部分がさらに伸びて来て、マーサの脇腹わきばらを浅く刺した。

 たいしたきずではなかったが、それが周囲の敵兵に見られたのはマズかった。

「じゃじゃ馬姫は剣しか持っておらぬぞ! みんな槍で突け!」

 周辺から爆発するような雄叫おたけびが上がり、槍兵そうへいたちが駆け寄って来た。

下郎げろうどもめ!」

 顔をゆがめてマーサはののしったが、すでに敵にビッシリと囲まれており、突破して逃げることもできず、仲間にたすけを求めてもとても間に合いそうにない。

 当然のことながら、剣と槍ではまるで間合まあいが違う。

 しかも、如何いかに武芸にひいでたマーサといえど多勢たぜい無勢ぶぜいである。

 そこかしこから一斉いっせいり出される槍によって、あわれにも串刺くしざしに、ならなかった。

 敵兵たちのわずかな隙間すきまって、何か黒い旋風つむじかぜのようなものが走って来たかと思うと、バキバキという連続音がして、マーサに向けられた槍がすべて途中で折れていたのである。

 なかば死を覚悟して薄く目をじていたマーサが、それに気づいて刮目かつもくすると、自分をまもるように馬前でうなっているルプスの背中が見えた。

「……ゾイア?」

 次の瞬間、天地にとどろくような咆哮ほうこうひびき、敵兵は悲鳴のような叫びを上げて逃げ散った。

 マーサが呆然ぼうぜんとするうちに、味方の騎兵が集まって来て、口々くちぐちに「ご無事ですか?」「姫御前ひめごぜ怪我けが手当てあてを」「何はともあれ、少しお下がりくだされ」などと声を掛けた。

 しかし、マーサはかれらに目もくれず、「ゾイアはどこにおる?」と譫言うわごとのようにいいながら周囲を見回したが、黒いルプスの姿はもうどこにもなかった。



 一方、大きく北へ迂回うかいしたドーラ軍一万は、徐々じょじょに速度を落とし、愈々いよいよ南下してエイサに攻め込む準備段階にあった。

 先頭を行く魔女ドーラは、最早もはや勝利を確信したかのように北叟笑ほくそえんでいる。

「まあ、これぐらい大廻おおまわりすれば、エイサには気づかれぬであろう。が、ここからは急がねばな。相手に準備するひまを与えず、一気呵成いっきかせいに中心部まで攻めらねばならん。一旦いったん小休止したのち、全速で南下するぞえ。さてさて、たのしみじゃのう」

 ドーラは上機嫌じょうきげんで全軍に停止をめいじようと、自分の馬をめた。

 その時。

「ドーラさま、大変でございます!」

 あわてふためいて飛んで来たのは、斥候せっこうの役目をになっている東方魔道師の一人であった。

 ドーラは、せっかくの気分をこわされた腹立ちもあらわに、相手以上の大声で怒鳴どなり返した。

「静かにせぬか! どうせ、じゃじゃ馬姫に苦戦しておるとか言うのであろう? そのようなことは想定内じゃ。それに、おまえも間諜かんちょう生業なりわいとする者なら、大きな声で報告して良いことかどうか、とくと考えよ!」

 が、東方魔道師は、むし一層いっそう声を張って続けた。

「そのような暢気のんきなことをおっしゃられている場合ではござりませぬ! 敵の援軍がこちらに迫って来ておりますぞ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ