1198 風が吹けば(21)
(作者註)
残酷なシーンがあります(^^;;
改造人間たちの遠隔操作機構をマルカーノの肉体から取り出そうとしているジョレを、戻って来た魔道屋スルージが止めた。
しかし、ジョレを支配している謎の漂着者はそれを拒否し、スルージを揶揄った。
「……軍団ごと手に入れようかと思ったが、みんな見映えが悪かったからな。われらの美意識は高いのだ。リモートコントロールシステムさえあれば、後は何とでもなる。おお、そうだ。良ければ、おまえに埋め込んでやろう。さあ、こっちへ来い」
白い平面の顔で嘲笑いながら改めて短剣を振りかざしたが、その手が途中で止まった。
気絶したままのマルカーノの手が不自然に動き、ジョレの手首を掴んでいたのだ。
「……ほう。意識のない脳を介さず、直接腕の筋肉を操作しているのか。なかなかやるな。ならば、こちらも直接的な手段に訴えるまでだ」
白い平面が明滅し、本来のジョレの顔に戻ったところで、山羊のような髭を震わせ、「え? な、何だ、これは?」と情けない声を出した。
同時にマルカーノの顔が白い平面となったり、元に戻ったりを激しく繰り返し始めた。
と、遂に白い平面のまま安定し、切れ目のような口が開いた。
「……うむ。何とか抵抗を抑え込んだぞ。これで、われらは無敵の存在となる。元の世界に帰れぬ以上、この世界を征服するのも面白い。おお、何なら非位相者と敵対している地下の知性体もわれらが支配してやろう。この世界の原始的な住民よりは、余程使い勝手が良さそうだからな。確か、この地域の防御機構の制御盤を、この男が持っていたはず」
ジョレの手首を掴んでいたマルカーノの手がギクシャクと離れ、自分の懐を弄っている。
依然として意識のないマルカーノの肉体を、直接筋肉を収縮させて動かしているようだ。
その時。
「ば、化け物めーっ!」
ジョレが悲鳴のような声を上げ、持っていた短剣で白い平面の顔を突き刺した。
皮肉にも、まるで何かに取り憑かれたように、何度も、何度も。
「もうやめなせえ!」
スルージが背後から羽交い絞めにして止めた時には、白い平面は消えかかっていた。
「……飼い犬に嚙まれたか。リモートコントロールシステムも最早修復不能となった。その煽りで、われらもこの肉体から出ることができぬ。分不相応な野心は身を亡ぼす、ということだな。あのままケルビムの中にいれば、それなりに面白おかしく暮らせたものを。わがこと終わんぬ……」
完全に白い平面が消え、マルカーノの本来の創痕だらけの顔に戻ったが、それは新しくできた創から流れ出る血で染まっていた。
ジョレは漸く血塗れの短剣を手から落とし、泣きながら「わたしは悪くない」と繰り返している。
その身体を引き摺るようにして移動させ、少し離れた地面に横たえると、スルージは慰めるように告げた。
「誰もあんたを責めやしねえよ。あの白い顔の存在も、マルカーノの野郎も、因果応報ってやつでさあ。が、あんたもいい加減に自分ってもんを確り持ってねえと、また何度でも同じ目に遭いやすぜ。さあ、あっしは後始末で忙しいから、自分で帰んな」
呆然とスルージを見返したジョレは、また涙を溢れさせながら、子供のように頷いた。
スルージは吐息してジョレから離れ、完全に事切れているマルカーノのところへ戻った。
もう一度深く息を吐き、両手を空中に突き出した。
「隔力はあんまり得意じゃねえんだが、やっぱり直接触るのは、おっかねえや。こうして、こうして、と」
空中で見えないものを摘まむように、スルージの両手が動いた。
マルカーノの懐が開け、手帳のような形の板が滑り出た。
「おっと、危ねえ」
スルージは手首を捻り、何とか手許に引っ張って、空中で掴み取った。
「ふうっ。やっとこさだねえ。あっしも、シャドフみてえに物品引き寄せができりゃ良かったんだが。お、そういや、あいつ、どうしたろう? まあ、捜すまでもねえか。とにかく、こいつをゲルヌ坊ちゃんに届けねえと」
そのゲルヌは、上空を旋回していた。
額の第三の目が赤く光っている。
「……そうか。完全に敵の動きが止まり、謎の漂着者の活動も停止したのだな。わかった。後の処置はツァラトに任せると伝えてくれ。……ああ。ザネンコフは、また霊癒族の隠れ里に逆戻りだな。可哀想だが、今度こそ引退を勧めよう。わたしはもう一回りしたら戻るよ」
ゲルヌはふと、少し白み始めた東の空を見た。
「長かった夜も、間もなく明けるのか。ん? 地平線の辺りのあの点は……。いかん! 敵襲だ!」
同じ頃、東口を護るマーサ姫は、マオロン軍の掃討が終了したとの報告を受けていた。
「そうか。またジョレがのう。余程憑かれ易い体質なのだな。いつもそれぐらい活躍してくれれば良いのだが。わかった。一先ず、ご苦労であったと伝えてくれ」
横で聞いていた部下の一人が、ホッとしたようにマーサに笑いかけた。
「ようございましたな、姫御前。さあ、われらも引き上げて、ゆっくり休みましょう」
が、マーサは相手を睨みつけて怒鳴った。
「阿呆! 本当の戦はこれからじゃ!」




