表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1234/1520

1186 風が吹けば(9)

 オーネに愛人がいることは公然こうぜんの秘密として黙認もくにんされているものの、勿論もちろん、結婚相手のヤーマンにあからさまにできることではない。

 とびらの外までヤーマンが来ていることを知った魔道屋シャドフは、肩をすくめて苦笑すると、窓をけて飛んで行った。

 その窓を閉めてから、オーネは机の上に書類のたばを乱雑にせ、「散らかってるけど、それで構わなければ、どうぞ入ってちょうだい!」と返事をした。

 扉がひらき、長身の女官長と並ぶと子供のように小柄こがらなヤーマンが、しわばんだ顔に愛想笑あいそわらいを浮かべて入って来た。

「忙しいのに、申し訳にゃあのう」

 オーネは腰に手を当て、不機嫌ふきげんそのものの声でこたえた。

披露宴ひろうえん出席予定者の配席を考えていたのよ。後々あとあと文句を言われないようにするのは、結構けっこう気をつかうわ。それにしても、随分ずいぶん急ね。前もって知らせてくれたら、食事の用意でもさせたのに」

 あんに突然の来訪らいほうめるオーネに、ヤーマンは笑顔のままズケリと聞いた。

「突然来られると、まずいことでもあるだかや?」

 オーネはとぼけた顔で、「別に」とだけ答えた。

 ヤーマンもそれ以上深追いはせず、表情を改めて本来の用件を切り出した。

「バロードのゾイアが来ちょるらしいのう。今はどこにおる?」

 話題が変わり、オーネもややホッとしたように普通に返答した。

「頭が痛いとか言って、部屋で休んでるわ。場所は女官長に聞いてちょうだい」

 もう少し修羅場しゅらばが見れると期待していたらしい女官長は残念そうに口をゆがめ、「ご案内いたします」とヤーマンに告げると先に歩き出した。

 ヤーマンも気がくのか、「あとでゆっくり話そうかの」と言い捨てると、女官長を追った。

 二人の姿が消えると、オーネは大きな音を立てて足をみ鳴らした。

「あんたと話す用事なんか、もうないわよ!」



 ゾイアが休んでいる部屋の前から、女官長が声を掛けた。

「ゾイアさま、お加減かげん如何いかがでございましょうか? もし、つかえなければ、ヤーマン閣下かっかがお見舞いさせていただきたいとおっしゃっておられますが?」

 すると中から、「おお、われは構わぬ。お入りくださるよう、お伝え願う」というゾイアの声がした。

 女官長が「失礼いたします」と言いながら扉をひらくと、ゾイアはすでに起き上がって寝台ベッド腰掛こしかけていた。

 さらに立ち上がろうとしたところへ、「そのまま、そのまま」と手をヒラヒラさせてヤーマンが入って来た。

「横になっとってちょうよ。わしに遠慮はらにゃあで」

 ゾイアは弱々しく微笑ほほえんだ。

「痛みる。そうさせていただこう」

 ゾイアが横たわったところで、女官長はそのかたわらにヤーマン用の椅子を置き、静かに部屋から出て行った。

 椅子に座ったヤーマンは、同情するように「大丈夫かや?」とたずねながらも、その目は油断なくゾイアの様子を観察しているようだ。

 ゾイアはフッと苦笑した。

仮病けびょうを使って何か陰謀いんぼうたくらんでいるとお疑いなら、ハッキリ違うと申し上げておこう。われも、困っているのだ」

 ヤーマンもニヤリと笑った。

「そのようじゃのう。言い方はわりいが、安心した。おお、誤解せんでちょう。おみゃあもわしら同様に体調不良になるんじゃ、ちゅう意味の安心だで。まあ、無理せんと、今晩は泊まったらええ」

「いや。それがそうもしておれぬ。緊急に対処すべきことができたのでな」

 ヤーマンは左右を確認し、声を低めて聞いた。

「もしかして、ドーラのことかの?」

 ゾイアはかくさずに答えた。

「そうだ。閣下がどこまでご存知かわからぬが、ドーラは例のマオロンで捕虜ほりょにした三千名の異形いぎょうの戦士たちを、ひそかに国外に出したようだ。行先は、おそらくエイサだろう」

 ヤーマンはしぶい顔でうなずいた。

「わしもそう思う。たかが三千で、現在三万五千をようするエイサに攻め入るとは、正気の沙汰さたとも思えにゃあが、それなりの勝算はあるんじゃろう。まあ、完全に勝利はでけんでも、向こうから何らかの妥協を引き出せれば、中原ちゅうげん制覇せいはへの足掛あしがかりにはなるでよ。が、問題は、それを一切いっさいわしに相談もにゃあでやっとることだぎゃ!」

 興奮して思わず声が大きくなり、ヤーマンはあわてて自分で口を押えた。

「病人のみゃあで大声出してもうて、すまんのう。じゃが、この一報いっぽうを聞いたのと同時に、今おみゃあがオーネんとこにおると知って、わしゃあホッとしたんじゃ。当然、おみゃあの耳にもへえっとるじゃろうし、エイサとのつながりが深いおみゃあがっておくわけがにゃあでよ。この件に関する限り、わしゃあ、おみゃあたちの味方じゃ。と、思っちょったんじゃが、その身体からだで、大丈夫でえじょぶかや?」

 ゾイアは笑顔を見せた。

「まだ万全ばんぜんとは言えぬが、先程さきほどよりは大分だいぶ回復した。もう少し待って、体力を微調整びちょうせいしつつ通常飛行でエイサへ行くことにする」

「ならば、頼んだでよ。わしはこの足でネオバロンへ行き、ドーラに直接会って真意をさぐってみるつもりだぎゃ」

 横たわったままゾイアが手を差し出すと、ヤーマンは「おお、あれかや」と笑ってその手をにぎった。

「おみゃあとは色々あったが、ドーラの暴走をめるまでのあいだは仲間だで。よろしく頼むでよ」

「こちらこそ、よろしくお願いする」



 室内にいる二人は気づかなかったが、窓の外に結びつけられていた細い糸のようなものがピンとはずれ、近くの木立こだちの上にスルスルと巻き取られて行った。

 姿は見えないものの、そこから小さな声がした。

「エイサか。もう一度行ってみるしかねえな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ