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117 密談(2)

「おかしなことを言うのね。ガルマニア帝国とは、こちらから提案して、すでに手を結んだはずよ」

 いぶかるウルスラに、ブロシウスは軽く首を振った。

「それは外交の話さ。わしが言っておるのは、個人対個人の密約みつやくじゃよ」

 ウルスラは、あきれたようにブロシウスの地肌じはだけるほどかみが薄くなった頭部を見つめた。

「それって、裏切り、じゃないの?」

 ブロシウスは、フンと鼻をらした。

「カルボンきょうのように、か。冗談ではない。あんなよくボケと一緒にせんでくれ。わしの目的は、先程さきほども言ったとおり、中原ちゅうげん統一だ。それによってのみ、千年の戦乱の世を終わらせることができる。ガルマニア帝国の軍師となったのも、そのための方便ほうべんにすぎん」

「ああ、やっぱりあなたは、老師ろうしが言われていた『千年続く戦乱を終わらせるには、一番強い国に味方して中原を統一させるべきだという異端いたん思想』にりつかれて」

 そこまで言って、ウルスラはハッと口を押えたが、ブロシウスは子供の悪戯いたずらを見つけたように、ニヤリと笑った。

「ほう。その話、ケロニウスからいつ聞いた? 少なくとも、おまえがエイサに留学していた頃ではないな」

 ウルスラは、キッとブロシウスの目を見た。

「手紙よ。母国に戻ってからも、老師とは文通していたわ。バロンの王宮にも何通か残っているはずよ」

 ブロシウスは疑わしそうにウルスラをにらみ返したが、フッと表情をゆるめた。

「まあ、いいじゃろう。たとえケロニウスが生きておっても、大勢たいせいに影響はない。それより、大事なのは、おまえの覚悟さ」

 それ以上ケロニウスのことを追及されず、ウルスラは少し安堵あんどしたようだが、すぐに表情を引き締めた。

「覚悟なら、常にしているわ」

 ブロシウスも、今はケロニウスどころではないようで、本題に入った。

「ふむ。それなら話そう」



 若い頃、わしは何の疑問も持たずに、エイサで魔道の修行にはげんでおった。

 自分のわざに自信もあったし、学科の方も優秀であったよ。

 ところがある日、古い書庫の整理を命ぜられて、廃棄処分はいきしょぶんが決まった文書を燃やしている時、それを見つけたのだ。

 随分ずいぶんいたんでいたが、表題ひょうだいかろうじて『マカの予言書』と読めた。

 マカとは、わしもうわさでは聞いたことがあったが、百年ほど前に破門はもんされた魔道師の名だ。

 どうせ処分するものだから、その前に読んでみようと思ったのが運のきさ。

 わしは、たちまち夢中になった。

 それは、エイサの魔道師すべてを糾弾きゅうだんする書物であった。

 千年の戦乱の中、中立をたもったと言えば聞こえはいいが、要は、無為無策むいむさくのまま民の苦しみを放置し、おのれたちだけの平和をむさぼっていただけのことだ。

 このままでは、あと千年、戦乱が続くであろう。

 それを止めるには、力によって中原を統一するしかない。

 そして、その力がエイサには眠っていたのだ。

 そうとも。

 それこそが、『アルゴドラスの聖剣』じゃよ。

 マカは、エイサそのものが聖剣の力を振るって中原を統一すべし、ととなえて破門された。

 わしも、それは無理だと思う。

 それより、現実に強い力を持った国家に聖剣を与え、一気に中原を制覇せいはさせればよい。

 わしはそう考え、何度もエイサの長老たちに掛け合った。

 その結果は、追放処分だった。

 破門ではないものの、一切の資格を剥奪はくだつされ、エイサから追い出された。

 しかし、わしはうらまなかったよ。

 むしろ、中原を自由に放浪して見聞を広めた。

 同時に、わしの望みをかなえてくれる国を探した。

 そうして何年も何年も過ぎた頃、わしと同じことを考えて、自ら国をつくった男が現れた。


 それが、ゲール皇帝だろうって?


 いやいや、その時点では、ゲールなどまだガルム大森林の野人の首長に過ぎん。


 その男こそ、おまえの父、カルス王だよ。

 わしは、それならそれも良いと思った。

 バロード王家こそがこの戦乱の世を生み出したのだから、その子孫が終息しゅうそくさせるというのは、理にかなっておる。

 だが、想定外のことが二つあった。

 一つは、カルスがバロードの旧領土に建国したこと。

 確かに父祖ふその地には違いないが、あまりにも北西にかたよっている。

 しかも、廃都はいとヤナンならまだしも、バロードの中でも辺境に近いバロンを王都おうとにした。

 カルスの頭には、北方の脅威きょういから中原をまもることも、バロード王家のつとめとの矜持きょうじがあったようだ。

 千年前なら、それでも良かっただろう。

 だが、群雄割拠ぐんゆうかっきょするこの時代には、迂遠うえん過ぎる。

 まあ、同じことは、このゲオグストにも言えるがな。


 では、中原統一に相応ふさわしい首都はどこか。

 それこそ、中原のへそ、エイサじゃよ。

 わしがエイサを焼きちするよう進言したのは、個人的なうらみではないぞ。

 聖剣をうばうことのほかに、将来の帝都ていととする目的もあったのだ。

 さて、もう一つの想定外は、カルスが求めたにもかかわらず、エイサの長老たちが聖剣を渡すことを拒否したことじゃ。

 本来、『アルゴドラスの聖剣』はバロード王家のもので、エイサではあずかっているだけなのにだ。

 当然、カルスは怒った。

 これは、おまえには残酷ざんこくなことかも知れんが、長老たちは、カルス王の出自しゅつじ疑念ぎねんを持ったらしい。

 魔族まぞくの血を引いているのではないか、とな。



 大人しくいていたウルスラの顔色が変わった。

「そんなこと、うそよ!」

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