1176 白魔が来りて(11)
(作者註)
やや残酷でグロいシーンがあります(^^;;
単身で暗黒都市マオロンへ乗り込んだ魔女ドーラは、首尾よくマルカーノ王と対面することができたものの、相手は既に人間ではないようだった。
身の危険を感じたドーラは、取り敢えず必要な情報は得たからと跳躍しようとしたが、それができないことに愕然とする。
その様子を見て、マルカーノが不気味な笑顔になった。
「この建物全体に特殊な力場をかけている。空間転移はできぬぞ。諦めて、われらと同化せよ」
ドーラは鼻で笑った。
「操り人形になって生きるなど、御免蒙るぞえ。それぐらいなら、いっそ殺された方がマシじゃ。さあ、殺せ!」
ドーラは大きく両手を広げて見せた。
すると、マルカーノの顔が真っ白な平面に変わり、そこに切れ目のような口が開いた。
「殺すことは容易い。が、われらとしても、おまえのようにこの世界の征服に役立つ人材を、この街に居るガラクタどものように使い捨てる気はない。すぐに同化されることが嫌なら、猶予をやろう。おまえとていずれ寿命が尽きるはずだ。その直前まで待ってやる。どうだ?」
ドーラは疑わしそうに、白い平面の顔を見返した。
「ほう。随分と譲歩したのう。言うておくが、わたしは両性族じゃ。少なくとも、後百年ぐらいは寿命があるぞえ。それでも良いのか?」
「勿論だ。われらの平均寿命は数万年を超える。百年など、アッという間だ。おまえさえ良ければ、その百年間、われらの助言者として生かしておいてやるぞ。どうだ、共に世界を征服せぬか?」
ドーラは腕組みし、惚けたような顔をした。
「条件次第じゃのう。おぬしらに協力したとして、わたしに何をくれる?」
切れ目のような口の両端が、笑みの形に吊り上がった。
「まず、生命は保証する。われらに協力する限り、殺さぬと約束しよう」
「ふん。それぐらい当たり前ぞえ。聞いておるのは、何かわたしの得になることはあるのか、ということじゃ」
「おお、わかっておるとも。協力するなら、おまえに特別な能力が使えるようになる道具をやろう。これを呑め」
マルカーノは、自分の白い平面の顔の真ん中にズブリと手を突っ込むと、豆粒ほどの小さな金属の塊を取り出した。
少しイビツだが、丸まった短い棒のような形をしている。
マルカーノは、それがドーラによく見えるように、摘まんでいる指を前に出した。
「極小端末だ。これがおまえの体内にあれば、いつでもわれらと連絡がとれる。しかも、知らぬ間におまえの肉体を強化してくれる。どうだ、便利なものだろう?」
ドーラは顔を顰めた。
「魔種じゃな」
「魔種?」
「ああ。それは見たところ機械仕掛けのようじゃから、勿論違うものじゃが、役目は同じであろう。魔種とは、東方魔道師が相手を傀儡にするため、頭頂部に埋め込むものぞえ。じきに脳に根を張って、その人間は命令者の言いなりになるのじゃ。わたしを騙そうとしても、そうは行かぬぞ!」
ドーラに指を突き付けられても、マルカーノの白い顔は益々グロテスクな笑顔の形になった。
「ほう。こんな原始的な惑星に、そのような生物兵器があるとはな。まあ、素直にマイクロチップを呑んでくれれば、手荒な真似をせずに済んだものを。仕方あるまい。おい、この婆を取り押さえろ!」
いつの間にか三十人ほどの幹部連中も同じような白い平面の顔になっており、ジリジリとドーラに近づいて来ている。
ドーラは咄嗟に、幹部たちに向かって掌を突き出したが、微風も起きない。
「くそっ!」
マルカーノが勝ち誇ったように告げた。
「言ったろう? この建物の中では、おまえたちの原始的な超能力は使えぬのだ。さあ、殺されるよりはマシだと思うぞ。このチップを呑んで、進化した存在になるのだ。外にいるガラクタどもに呑ませた粗悪な複製品と違い、われらが元いた世界から持ち込んだ原型だぞ。有難いと思え」
「誰が思うか!」
ドーラは逃げようとしたが、すぐに三十人の幹部に取り押さえられ、手足の自由を奪われた上に、強引に口を開かせる器具を顎に嵌められた。
その目の前にマルカーノが立ち、指で摘まんだものをドーラに見せつけた。
最初に見た時より伸びて長くなっており、ミミズやイモムシのように、クネクネと蠢いている。
「どうだ、良くできているだろう? 宇宙船に残っている多数派は非人道的だとか言って使わなかったが、非位相化病素をバラ撒いて歩く死者を増やすのと、何の違いがある? こちらの方が、余程人道的ではないか。さあ、おまえも進化させてやるぞ」
ドーラの目が飛び出しそうに見開かれ、自分の口に近づくものを凝視している。
マルカーノは、寧ろ、愛を囁くような優しい声でドーラに語り続けていた。
「痛いのはホンの一瞬だ。すぐに麻酔が注入され、何も感じなくなる。おお、無理に嚥下しなくてもよいぞ。実際には食道を通らず、口の奥の軟口蓋を喰い破って脳内に入るからな。そこで人工接合部位を伸ばして脳を支配し、同時に肉体改造の指令を送る。心配せずとも、痛くはない。というより、これから後は、痛みを感じなくなるのだ。素晴らしいだろう?」
「ううっ!」
ドーラは渾身の力を籠めて藻掻いたが、どうすることもできない。
クネクネと動く小さな金属の塊が、開いたままのドーラの口に入れられようとした、その刹那。
轟音と共に天井に穴が開くと、誰かが降り立って叫んだ。
「そこまでだ!」




