表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1214/1520

1166 白魔が来りて(1)

(作者註)

 少しグロい表現があります。

 中原ちゅうげん東南部をさらこまかくけると、三つの地帯ゾーンとなる。

 南側半分をめる広大なゾーンは、言わずと知れたアルアリ大湿原である。

 大部分が底なし沼であり、黄金城による浄化以前はどろに毒素も含んでいたので、毒蛙ドクガエルなどの特殊な生物以外はんでおらず、当然住民もいない。

 その北側に大湿原よりは若干じゃっかんかたい地面がある遷移せんいゾーンがあり、ここには、ガイ族やガーコ族などのさとが点在している。

 一番北側のゾーンは地面が乾燥し、比較的生活にてきした環境であるが、その範囲はきわめてせまく、幾つかの自由都市が東西に首飾くびかざりのように並んでいる。

 その中で最大の都市は、東端とうたんにある暗黒都市マオロンであり、犯罪者の巣窟そうくつとなっていた。

 泥棒市場どろぼういちばしょうされるギャモンは、その近郊きんこうにある。

 一説には、マオロンの賭場とば無一文むいちもんになった者たちが、手っ取り早く博奕ばくち元手もとでかせぐためにぬすみを働き、その品物をギャモンで換金かんきんしたのがこの都市の始まりであったという。

 市内にはあやしげな店がのきつらね、そこへ人目ひとめはばかるようにして客が入るのである。

 そうした店の一軒いっけんを、魔道屋シャドフがおとずれようとしていた。

「しょうがねえ。ここでかねえるか」

 不機嫌ふきげんそうに足をみ入れたのは、廃屋はいおく見間違みまちがうような荒れ果てた店であった。

 ギシギシときしとびらを勝手にけ、一応奥に向かって「じいさんいるか? おれだ、シャドフだ」と呼び掛けると、薄暗い店内に入った。

 しかし、一向に返事はない。

 シャドフは舌打ちし、「また寝てやがるな」と文句を言いながら、とんがりぼうを脱いで、入口の横にある帽子掛ぼうしかけにせ、ついでにボロボロの魔道師のマントも肩からはずして横に引っ掛けた。

 店の奥に進みつつ、「るのはわかってんだ! 返事ぐらいしやがれ!」と叫んだが、依然いぜんとして何の応答もない。

 と、シャドフが顔をしかめ、手で鼻をおおった。

「うっぷ、くせえ」

 そのまま店の突き当りに行くと、安楽椅子に誰かが座っているのが見えた。

 いや、それが誰であるにせよ、生きていないことは確かであった。

 頭部は完全に髑髏どくろになっており、襤褸布ぼろぎれのようになった服の隙間すきまから、何本も肋骨あばらぼねのぞいている。

 シャドフはき気をこらえるように、口をおさえた。

「……爺さん、くたばりやがったのか。それにしても、妙だな。最後に会ってから、確かまだ十日とおかぐれえのはずだが」

 遺体いたいは完全に白骨化しており、死んでから何箇月なんかげつっているように見える。

 その時。

 ガタンと大きな音がして、骸骨がいこつが椅子から立ち上がった。

 反射的に後退あとずさったシャドフは、波動を打つ構えのまま、相手を凝視ぎょうしした。

「まさか、腐死者ンザビか?」

 辺境を占拠せんきょしたンザビは、ゾイアらの活躍でスカンポ河以西にめられているということは、シャドフもうわさで聞いていた。

 それに、ンザビは死後次第に活動がにぶくなり、完全に白骨化すれば自力では動けなくなって、最終的には消滅する。

 見たところ老人の遺体はほとんど骨しか残っておらず、ンザビであれば、こんなに素早く動けないはずであった。

 そのシャドフの疑問に答えるように、髑髏の顔面がノッペリと白くなり、そこに切れ目のような口があらわれた。

「……えあうるなむふぐん。ぎゃ、ぐお。さる。ああ。うむ。久しぶりにしゃべると、上手うまくいかぬな」

 シャドフは「化け物め!」と言いざま波動を打った。

 骸骨の身体からだがバラバラにくだけ、骨が飛び散ったが、空中に白い顔面だけが残り、平然と話を続けた。

「アルゴドラスの子孫やケルビムの目をけるため、乾眠状態クリプトビオシスわざと渡り鳥にわれて北方を脱出し、何度も宿主しゅくしゅを乗りえた。最終的にレプスに入っている時、ようやくこの老人に焼いて食べられ、やれやれと思ったら、食中しょくあたりで死なれて困っていたのだ。孤独な男で、家族も親戚もいないらしい。おまえが来てくれて助かったよ。しかも、良い土産みやげも持って来てくれているようだしな」

 シャドフは、ハッとしてふところを押さえた。

「こ、これが欲しいなら、くれてやる。だから、おれを殺すな」

 白い顔面の切れ目のような口が、笑うような形になった。

「おお、殺しはせぬさ。先に行かせたはずの代理人エージェントと連絡がつかず、どうしようかと考えていたのだ。能力的には不満だが、おまえをわれらの現地エージェントに任命しよう。つつしんで受けよ」

 シャドフは顔をゆがめ、「やなこった!」と叫ぶと、その場から跳躍リープしようとした。

 が、白い顔面は幾重いくえにもズレた白い影となって、シャドフを囲んだ。

 シャドフは、苦悶くもんの表情でうめいた。

「ド、白魔ドゥルブ!」

 空中にり上げられたような状態のシャドフの懐から、手帳ぐらいの板がすべり出て来て、白い影の手ににぎられた。

 切れ目のような口の両端りょうはしがキュッと上がった。

「いざ、報復の時はきたりぬ」


 その異変は、逸早いちはやく赤目族たちも気づいた。

「第一発言者、簡易制御盤かんいせいぎょばんからの信号が途絶とだえたようです」

 大人の赤目族から教えられ、薄い板のようなものを見ていたゲルニアもうなずいた。

「うん、それは気づいたよ。けれど、その一瞬前に、変な雑音が入ったんだ。パタンは、見たことのないものだけど。もしかして……」

 ゲルニアは、薄い板のようなものの表面を、しきりに指でなぞっていたが、「あっ」と声を上げた。

「いけない! このパタンはドゥルブみたいだ。どうしよう……」

 大人の赤目族は、動揺どうようするゲルニアの肩に手を置いた。

魔道神バルルにご相談なさっては?」

「あ、ああ、そうだね。そうしよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ