1163 新国家への道(21)
セガの北の丘を出発したラミアンと魔道屋スルージは、まず自由都市リベラへ行き、ロム長官を表敬訪問した。
「おお、良く来てくれた!」
ロムが破願して迎え入れたのは、無論、顔馴染みのスルージではなく、同じ金髪碧眼のバロード人であるラミアンであった。
含羞むように微笑みながら、ラミアンは「お会いできて光栄です」と頭を下げた。
ロムは笑顔のまま、薄く目を潤ませている。
「いや、それはこちらの科白だよ。理念の相違から袂を分かったとはいえ、わたしにとっては旧主であるカルス王に殉じられたラクトスさまの遺児に、こうしてお目にかかることができるとはな。感無量だ。まあ、隣の応接室へ行こう。薬草茶でも用意させるから、良かったらスルージも一緒に来てくれ」
気を利かせたスルージは、「あっしはちょっと用事があるんで、お二人でごゆっくりどうぞ」と席を外した。
応接室で一頻りバロードの思い出話に花が咲いた後、自然と現在の国際情勢に話題が移った。
ラミアンが、ゾイアと共にガルマニア合州国を訪れた話をすると、ロムは何度も頷いた。
「そうか。セガで戦ったフォルスにも聞いたが、ヤーマンという男はなかなかの曲者のようだな。おお、そうだ。フォルスといえば、バロードに対して申し訳ないことをしたと、あれ以来ずっと悔やんでいるよ」
ラミアンはここぞとばかりに身を乗り出した。
「いえ、あれで良かったのですよ。開戦当初の活躍は勿論のこと、プシュケー教団の信者が大半を占める自由都市同盟軍が猊下の崩御で戦意を喪失した際、全滅の危機を救ったのもフォルス将軍のお力だと思います」
ロムは、副官を褒められた嬉しさよりも、ラミアンの意外に上からの物言いに若干鼻白んだようだ。
「ほう。おぬしはその若さで、軍略にも造詣が深いのだな」
ラミアンは頬を赤らめた。
「すみません、素人が生意気なことを言って」
「いやいや、驚いて変な言い方になってしまったが、わたしは感心しているのだよ。どうか、今思っていることを、何でも聞かせてくれ」
恐らく、半ばは社交辞令であろうが、若いラミアンは、そのまま受け止め、喋り始めた。
ありがとうございます。
ええと、ぼくの専門は外交なんですが、歴史にも興味があって、自由都市の成り立ちというものをずっと研究しています。
中でも、このリベラほど特異な都市は他にないでしょう。
市民がほぼ全員軍人で、水以外の殆どの生活物資を自由都市同盟に属する他の都市、就中、商人の都サイカに依存しています。
あ、失礼しました。
言い方がマズかったですね。
自由都市同盟全体の軍事予算で、食糧などの生活物資が賄われている、ということです。
これは、当初はカルス王のバロードから、その後はガルマニア帝国から、自由都市同盟を護る必要があったからです。
これは前例のない歴史実験でした。
この表現が失礼なら、お詫びしますが、今までは大成功だったと思います。
ところが、ここに来て事情が変わったのです。
それは、ゲルヌ殿下の『神聖ガルマニア帝国』、即ち、生まれ変わったエイサの存在です。
その成立過程も、リベラ同様、母国を離れた軍が立ち上げ、従来からの住民が不在という極端な軍事都市です。
尤も、元々小さな国ほどの面積があり、多数の荘園を抱えていたエイサですから、農民さえ戻って来れば、いずれ生産性は上がるでしょう。
が、すぐには無理です。
そこでゲルヌさまは、サイカのライナさまに呼びかけ、『兵農交換』とでも云うべきものを始められました。
余剰兵力を貸し出し、替わりに農民の移住者を募ったのです。
本来、商人ばかりの都市であったサイカには、辺境から多数の難民が流入して、その受け入れに苦慮していましたから、渡りに船だったと思います。
それでも急場には間に合わず、中原西南部全体を通して、食糧不足が深刻化しています。
さあ、そうなると、五万五千の兵力を持ち、将来は自立してくれるだろうエイサと、一万の兵力しか持たず、そもそも全く農業生産に向かないリベラと、どちらへ手厚く支援をするかという迷いが、自由都市同盟に生じるでしょう。
ああ、ゴメンなさい。
失礼は重々承知しています。
しかし、この現実から目を背けるべきではありません。
では、どうすれば良いのか?
これは一つの提案ですが、リベラが都市国家として自立できない以上、領土を持つしかありません。
つまり、領域国家になるのです。
そんな土地はない、と仰るでしょうね。
確かに今はありません。
しかし、もうすぐできるのです。
いえいえ、別にふざけてなどおりません。
中原をエイサを中心として東西南北に四分割した場合、リベラは西南部の東端にあります。
その東側には、毒のある土壌の湿地帯が広がっています。
ガイ族やガーコ族の暮らしている中原東南部ですね。
詳しいことはぼくも知らないのですが、ゾイアさまのご尽力で、この広大な土地の毒気が、間もなく消除されます。
更に、スーサス山脈に運河を穿ち、アルアリ大湿原に溜まっている水を抜くそうです。
そうすれば、ここに大穀倉地帯ができます。
ところが、中原東南部は、暗黒都市マオロンがあることでもわかるように、治安の悪い土地柄です。
よって、リベラの軍事力によって治安を維持し、入植者を募集するといいと思います。
如何でしょう?




