表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/1520

101 探索行(4)

 出撃門しゅつげきもんひらかれる時には同時にね橋もりるため、ほりを気にせずに進めるのだが、北方へ探索に向かう五人が出た木戸の向こうは、一次的に馬や兵士が待機たいきするための場所で、十歩も前に進めば濠に落ちてしまう。

 落ちれば、下で待ち受ける人食いザリガニガンク餌食えじきである。

 そうならぬよう、荷物をせた馬は城壁側につないであった。

 だが、馬はひどくおびえている。

 その原因は、濠の向こうにいた。

「あちゃー、随分ずいぶんいやがるな」と、それを目にしたロックが声をげた。

 ようやしらみ始めた薄明うすあかりの中に、三十体ほど腐死者ンザビが立っていた。

 北方では瘴気しょうきが強く、日がのぼっても動けるのだが、さすがに動きが鈍くなってきており、濠の向こう側にある逆茂木さかもぎあたりで立ちまっている。

 服は風化してボロボロになっているが、よく見ると蛮族のものではなく、中原ちゅうげんのものである。

 ペテオはフンと鼻をらした。

「馬のにおいにつられて集まって来やがったんだ。結晶化クリスタライズした植物をるために、許可なく北方に入ったコソ泥のれのてさ。身におぼえのあるやつは、気を付けた方がいいぜ」

 さすがに自分に当てこすられていると気づき、ロックが顔色を変えた。

「なんだって!」

 にらみ合う二人の間に、アーロンが入った。

「よさないか。そのようなことをしているひまはない。手早てばやかたをつけよう。おまえたちも手伝ってくれ」


 アーロンは全員に半月弓を持たせた。

 無論むろん命中精度めいちゅうせいどは十字弓の方が高いのだが、そうしない理由はすぐにわかった。

 濠の前には、木桶きおけに油を入れたものに、ぬのを巻いた矢が多数してある。

 アーロンは、桶の横に立ててある松明たいまつに、火打石フリントで火をけた。

 つまり、火矢を使うということである。

「矢の数に余裕がない。なるべく無駄むだにするな」

 アーロンの言葉に、ロックは半月弓を置いた。

「じゃあ、おいらはめとくよ」

 ゾイアも「それがよいだろう。われらに任せろ」とうなずいた。

 四人で火の点いた矢を弓につがえた。

 アーロンの「はなて!」という号令ごうれいで、一斉いっせい射掛いかけた。

 濠を越えた火矢はあやまたずンザビに突きさった。

 身体からだ乾燥かんそうしているから、一気に燃え上がる。

 但し、矢が当たっていない者は、となりで仲間が燃えても、まった無頓着むとんちゃくであった。

 恐怖心というものがないのである。

 アーロンが「次!」と言った時には、ゾイアはすでに三本目であった。

 とにかくはやい。そして正確であった。

 横に並んだマーサ姫も負けじと矢を放ったが、あせりで二三本はずしてしまった。

 はしたなくも「くそっ!」と毒づいた。


 それでも、全部の矢がきる前に、濠の向こうのンザビは全滅した。

「大した腕だな」

 そう言ってゾイアをめるアーロンに、ゾイアは首を振った。

「実は、矢をるのは、今日がはじめてだ」

「なんと!」

 横でマーサ姫がいやな顔をしたが、ゾイアは気にしなかった。

「まあ、われにとって、大抵たいていの事は初体験しょたいけんなのだが。それより、良いさくだったな」

「ほう、わかったか?」

「うむ。一つには馬をンザビにらすこと。もう一つは、近くのンザビをおびき寄せて一気にたおし、この先の通行の安全を確保すること。最後に、われらの技量ぎりょう度胸どきょうためすこと」

 これにはアーロンも苦笑して「まさに」と言わざるをなかった。

「よし、では濠に梯子はしごけよう。皆も手伝ってくれ!」


 梯子といっても、馬が乗っても大丈夫なほど頑丈がんじょうつくりになっており、跳ね橋と同様、げ用の鎖が付いている。

 それを左右から支えながら、ゆっくり向こう側にろした。

 最初にペテオが馬の手綱たづなを引いて渡した。

 そのあと全員が渡り切ると、ペテオが城壁側に「いいぞ!」と声を掛けた。

 城壁の向こう側から、かすかに「うう」と返事があって、梯子の鎖が巻き上げられた。工兵エンジニアのヨゼフであろう。

 渡った濠の向こう側では、そこらじゅうでンザビがまだブスブスと燃え続けていた。

 くさった肉がこげげるいや臭気しゅうきが立ち込めている。

「くっせえ!」

 鼻をつまんだロックが、腹立ちまぎれに燃えるンザビの一体をろうとした。

 が、その時、そのンザビの燃え残った腕が伸びて来て、ロックの足首をガッとつかんだのである。

「うあああーっ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ