異世界召還に向かない少女~異世界召還されたからって、魔法を使えるわけじゃない~
異世界に召喚されたからと言って、チートが覚醒されるとは限りません。
私、佐々木理瀬。
余玖亞留高校二年五組・図書委員。
図書室の主が、眼光鋭い先生のために不人気委員。
ちなみに、私はその伊藤先生と仲がいいため強制的...もとい自動的にその委員にしかなれない。
別に、気楽だからいいんですけどね。
知られていない特典としては、成績がアップします。
伊藤先生は数学の担当なのですが、他の教科も教えるのがうまいのです。
中学までは塾とか家庭教師とかで教えてもらっていたのですが、嫌々していたので全く成績は上がりませんでした。
教え方が上手でないと、身につかないですよね。
余談としては、中国の山奥に武術の師匠がいたり、日本の山奥に剣術の師匠がいたりします。
次は、どの国の山奥を目指そうかな?
余玖亞留高校では、二人の人気男子生徒がいます。
迷惑なことに二人とも同じクラスです。
一人は、成績はいいくせに頭が軽い他称・幼馴染み(幼馴染みという事実を消滅させたい)長谷川 騎士。
恋人は、他称・もう一人の幼馴染み(女子に人気のないぶりっ子)渡辺 天使。
この長谷川君は、なぜか私が自分のことを好きだと思い込んでいます。
もう一人は、有名人気アイドル忽那玲音。
大勢の女子から逃げている姿を見て、芸能人が行く学校に行っとけばいいと思う今日この頃。
私と伊藤先生は、自分たちに迷惑がかからなければいいやと傍観中。
だがしかし、運命の神様は私たちに味方をしなかった。
忽那玲音は、この図書室に逃げてきたのです。
思わず、ガン見する私と伊藤先生。
二人揃って、うっかり舌打ちしてしまったのはご愛嬌。
仕方がないので、忽那玲音を受付のカウンターの下に隠すことにしました。
夜叉と思わず見間違えそうなものすごい形相をした整った顔立ちの先輩たちが、図書室の扉を壊れるのかと言うぐらいものすごい勢いで開けました。
注意する伊藤先生の言葉を無視して、「ここに、忽那君来なかった?」と訊いてきたので、「来ていません」と言うと先ほどと変わらず、ものすごい早さで廊下を走っていきました。
この後も、忽那君が来ることになるのですが、長谷川君以上に迷惑をかけなければいいやと私は悟りの境地に至りました。
勉強を教えることが大好きな伊藤先生が、忽那君を歓迎しているので...
そんなある日、長谷川君が放課後の教室で忽那君に食ってかかっていました。
どうやら、愛しの恋人(笑)の渡辺さんが忽那君のファンだと判明したからです。(クラスの中で長谷川君だけが知りませんでした)
掃除後のゴミ捨てが終わり、教室に戻った私に友人の後藤千織さんが状況を教えてくれました。
『今更ッ!?』と教室に残っている数人の女子は思ったそうです。
長谷川君の怒りが、ヒートアップしている最中に突然教室の中に魔方陣っぽいものが出現しました。
そして、次の瞬間にどこぞのファンタジーノベルに出てくるような王城の一室っぽいところにいました。
「突然、誘拐して申し訳ない。異世界の者たちよ」
言葉だけは尊大に、しかし、態度は低姿勢でこの国の王様っぽい人が言いました。
なんやかんやと私たちを異世界を跨いで誘拐した経緯を説明した王様。
そして、長谷川君は「俺たちが、この世界を救います!!! なぁ、みんな!」と自分の意見はみんなの意見というように言いました。
ドン引きする私たち(渡辺さん以外)と王様とこの場にいるこの世界の人たち。
うっとりする渡辺さんとプラチナブロンドの可憐なお姫様。
次に、お約束の『ステータスオープン』と言って、スキル確認。
私は、『魔法使い』でした。
長谷川君は、やっぱり『勇者』でした。
私は、『魔法使い』なのですが、来る日も来る日も訓練しても魔法使いとして覚醒することはありませんでした。
長谷川君は、私の後ろに近づいてきて「役立たずが」と吐き捨てました。
しかし、私は見事な後ろ回し蹴りで長谷川君を再起不能にしました。
なぜか、感動する近衛騎士団長。
近衛騎士団長から誘いを受け、剣の訓練をすることに。
元の世界で、剣道とか長刀は人並み以上の強さを持つ私は騎士団長に筋がいいと褒められました。
納得できない長谷川君は、私に挑んできたのですが私は彼を瞬殺しました。
私は、「反則技如きで、私に勝つつもりだったんですか?」とものすごくいい笑顔で彼を踏みつけました。
やっぱり、剣の道は一歩からですよね。
近衛騎士団とする稽古が非常に面白く、魔法使いとして覚醒出来ない日々。
そんなある日のこと。
近衛騎士団長は、「リセさんは、剣の筋が非常にいい。魔法使いになるのは止めたらどうだ?」と真剣に言ってきました。
魔法使い団長は、「お願いだから、魔法使いにならないでぇぇぇ――――!」と懇願。
そして、王様は「こっちが誘拐した側だから、こっちの都合に合わせないでくれ」と目を反らして額の汗を吹きながら言ったのです。
他にも、国のお偉いさんたちが『とにかく私たちのためにも、魔法使いに拘らないで自分のスタイルで戦ってくれ』と縋るように懇願してきたのです。
なぜ???
私が魔法使いになれないことを馬鹿にする長谷川君と金髪碧眼イケメン第二王子。
私は彼らが、剣をメインとする戦い方をするので容赦なくプライドを叩き潰すかの如く剣で打ち負かしました。
私は息を全く乱さずに彼らに勝利したので、本当に彼らはちゃんと訓練をしたのか騎士団長に尋ねました。
それはともかく、ここには歌もダンスも上手な忽那君がいます。
ここは息抜きに、忽那君からダンスを習おうと思います。
彼は快く、ダンスが苦手な私でもできる簡単なダンスを教えてくれました。
私は、剣の訓練がお休みの日に、城のちょっとした庭でダンスをしていました。
長谷川君と金髪碧眼イケメン第二王子に『ハゲロ~、モゲロ~』と呪いを込めて。
偶然、庭を通りかかった長谷川君と金髪碧眼イケメン第二王子に迷惑をかけられている神官長は、「魂が震えるような衝撃。 是非とも私もそのダンスを踊りたい」と言われたので、神官長をお誘いして、ダンスを踊りました。
私の様子を見に来た近衛騎士団長は、「魂を揺さぶるようなダンスだ。私も参加しよう」とダンスを踊りました。
そしてそして、長谷川君と渡辺さんと金髪碧眼イケメン第二王子とプラチナブロンドの可憐なお姫様の所業に胃を痛める王様は「なんとも、魂が癒やされるようなダンスだ。私も踊るぞ」とダンスの輪の中に入りました。
神官長と王様は、メタボと胃痛に効果があったらしいこのダンスを長谷川君と金髪碧眼イケメン第二王子の被害者たちにも参加するよう呼びかけました。
思ったよりも、大所帯になりました。
魔王討伐の旅。
なぜか、王様も同行。
王様曰く、「高みの見物をするのではなく、儂も戦うぞ」とのこと。
国を守らなきゃダメでしょ!
なんでも、第一王子と第一王女が優秀なんで、問題ないそうです。
本当???
旅の間は、近衛騎士団長と魔法使い団長と私で王様を守り抜きました。
王様はというと、長谷川君と金髪碧眼イケメン第二王子を簀巻きにして鼻歌を歌いながら後頭部にダメージが行くよう引き摺っていました。
王様が楽しそうに引き摺っていたので、近衛騎士団長と魔法使い団長と私は、変わってくれるよう懇願しました。
ダメでした。
戦力が、戦力外を運ぶのに体力を使う必要がないと。
そして、魔王との最終決戦。
魔王は、近衛騎士団長と魔法使い団長と私を相手に余裕で戦っています。
ですが、魔王は予想外の攻撃になすすべなくあっけなくやられました。
そう、王様が楽しそうに長谷川君と金髪碧眼イケメン第二王子を魔王に向かって投げ飛ばしたのです。
...あれ? 今までの長時間にわたる戦いは?
王様の予想外の攻撃に呆然となる近衛騎士団長と魔法使い団長と私とこの世界に召喚されたクラスメイトたちと悪魔たち。
いち早く、正気を取り戻した近衛騎士団長が魔王の死亡を確認しました。
結果、人間の住む地と悪魔の住む地の不可侵条約を締結させて、人間と悪魔の戦いは終わりを告げました。
この異世界に別れを告げ、私たちは元の世界に戻りました。
そして、何か違和感を感じた私は周りを見渡し長谷川君に起こった変化をガン見。
長谷川君は、顔中の毛が総べてなくなっていたのです。
顔中の毛が総べてなくなっていたのです。
眉毛、睫毛、産毛、髪の毛、顔からありとあらゆる毛が無くなっていたのです。
私に関係ないからどうでもいいやと本を読むのに図書室に向かいました。
長谷川君はこの後、ウィッグを付ければウィッグの毛が消滅、付け睫毛を付ければすぐ取れる、眉毛を描こうとしても眉毛の場所に色が付かずに眉毛が描けないという珍現象が起こりました。
私のその後はというと、アメリカの山奥で某組織の特別捜査官を引退した中年男性に会い、意気投合した結果、殺人捜査の基本を叩き込まれました。
某組織は今やだ中年男性の復帰を諦めていなくて、捜査の復帰を迫っています。
復帰の要請に嫌気がさした中年男性は、私を某組織に売り渡しました。
某組織はいきなり私を殺人捜査の班に配属。
「いきなり、殺人捜査の班の配属はおかしいでしょ! 順序があるでしょ!」と心からの叫びがむなしく上層部には無視され続けました。
同僚たちは同情的。
先輩によると、あの中年男性は伝説の捜査官らしく、その教え子なら大丈夫だろうという判断らしい。
それでも、おかしいでしょ!
そんなこんなと事件を解決していくある日、中年男性を引退に追い込んだ連続殺人犯と戦うことになります。
連続殺人犯は、その他を無視して私だけに挑んできました。
経験を積んだベテラン捜査官がいるにもかかわらず。
必死に頑張る私と無責任にも頑張れと言ってくるベテラン捜査官たち。
私が連続殺人犯を刑務所に放り込む頃には、他人には理解しがたい師匠と弟子のような関係になりました。
異世界召還の子どもたちが元の世界に帰った直後の異世界_______
無事に、異世界召還された高校生たちは無事に元の世界に戻っていった。
ただ一人、佐々木理瀬がスキルが覚醒されなかったことを除いて。
佐々木理瀬がスキルを覚醒できなかった理由は、彼女が元の世界の常識に拘った生真面目だから。
別に、スキルなしでも問題ないという理由からではない。
佐々木理瀬が『魔法使い』というスキルを覚醒出来ないことを心配した異世界人たちは過去の文献を総べて調べて、分かった結論としてスキル覚醒しなければ『人として問題なし』と言うことが発覚したからだ。
異世界召還された高校生がこの世界から消えた直後に、金髪碧眼イケメン第二王子とプラチナブロンドのお姫様の顔中の毛がハラハラと少しずつ儚く散ってしまった。
金髪碧眼イケメン第二王子とプラチナブロンドのお姫様から精神的被害や迷惑をかけられている王様をはじめとした国の重鎮たちは内心『ざまぁ』と思いながらも、気乗りしないで魔法使い団長にそのことを相談した。
結果、魔法使い団長は『顔中の毛の毛根がすべて死滅しており、再生不可能』と結論を出した。
これにより、第二王子とプラチナブロンドのお姫様は恥ずかしくて隠居。
公の場に出ることはなくなった。
さて、忽那玲音が佐々木理瀬に教えて、王城内に広まってしまったダンスは『健康ダンス』として王様がメタボ解消に効果的だと神官長が貴族にも庶民にも広く広めた。
これ以降、王族失格者は王族失格と認定された日から顔中の毛の毛根が徐々に死滅していくことになる。




