魔王討伐のその後で~彼女がチートを授けられなかった理由~
美少女のお約束+異世界召還
【重要】ざまぁ要素は、ありません。
異世界召還なんて、小説の中の世界だけで実際あり得ないと思っていました。
ある日の学校での昼休みのことでした。
食堂組、学校の屋上組、教室組とクラスのみんなはそれぞれに別れて普段は昼休みの時間を過ごしています。
しかし、その日はクラス全員、教室で昼休みを過ごしていたのです。
雨の日でもないのに。
私は昼食を食べながら、いまお気に入りの異世界召還系ラノベを読んでいたのです。
それは、突然現れた。
足元から光り輝く魔方陣が。
そして、次の瞬間には私たちはこの教室から姿を消した。
私は、時枝香夜。
大女優の母を持つ女子高生。
母は、本名と芸名が違います。
いわゆる隠し子で、父は不明。
父に興味がないので、母から詳しく聞く気もありません。
好きな言葉は、『四面楚歌』『背水の陣』『覆水盆に返らず』。
座右の銘は、『売られた喧嘩は倍返し』。
これは、私が手料理と手料理を武器に異世界人にやり返した話。
異世界では、自分の持つスキルをその国の王様に教えることから始まります。
もちろん、拒否権は存在しません。
私のスキルは、『賢者』。
ゲームでよく出てくるけれど、よく分からない職業で魔法使いと同列扱いになるあの賢者です。
異世界召還におけるお約束。
クラスの誰かが、役に立たないスキルもしくはスキルなし。
今回は、学園一の美少女で有名な佐藤舞さん。
異世界召還特典スキルが、ないのです。
佐藤さんを目の敵にしているヒス女...じゃなくてイケメンに媚びを売ることしか考えていないクラス担任の田中 香先生が、「スキルを持っていないのなら、旅の邪魔にしかなりません。追放しましょう」といいことを思いついたと言うような顔して言いました。
そして、クラスの何人かが賛同しました。
続いて、この国の人たちも「そうだ。スキルのないものは必要ない。とても、いい意見だ」と納得しました。
ですが、私は「酷いです。佐藤さんはクラスの仲間なのに。なにも知らない世界で、見捨てるなんて非常識ですよ」と大女優の母バリの泣きの入った演技で、周りを説得しにかかりました。
田中先生は舌打ちしましたが、私は大熱演して周りを納得させました。
普段は猫を1000枚ぐらい被って優等生をしている私を疑う声なんて上がりません。
「時枝の言う通りだな」
「そうね。ここで見捨てるのはちょっと...」
「様子見にしようぜ」
等々と、声が上がり田中先生と異世界の人たちは渋々佐藤さんを追放することを諦めました。
佐藤さんの特殊スキルを知っている私は、内心ニヤリと嗤いました。
魔王を力の限りぶん殴る旅を続ける中、クラス内の佐藤さんの扱いが日に日に酷くなっていきます。
率先するのは、教師にあるまじきセクシー(笑)な格好をする田中先生。
子ども相手に、色気を振りまくのはどうなのでしょう?
教師の自覚なしですね。
私の中での田中先生の評価は、底辺を突き抜けました。
私はというと、佐藤さんをかばうので田中先生に親の敵を見るような目で睨付けられています。
良い子ぶるのではなく、佐藤さんに恩を売っときたいのでしているだけですが。
バカですか? あの女...ではなく先生は。
役に立たなかった勇者スキル保持者を置いといて、私は魔王を全力でぶん殴り仮死状態にしました。
そして、クラスの人たちには「魔王を殺した」と告げました。
城に戻ると、王様は「魔王討伐成功のパーティーをする」と世迷い言を言ってきました。
まるで、自分が成したことのように。
パーティーの料理は、私が口八丁手八丁で佐藤さんが作るように誘導しました。
異世界特典スキルを佐藤さんはもらえなかったのですが、ここからが彼女の本領発揮です。
『なぜか、授業で、調理実習がない、この学校』。
このおかげで、佐藤さんの特殊スキルがクラスの人たちにバレることがありませんでした。
実は佐藤さんは、アニメに出てくる完璧美少女のお約束『料理が下手』のスキルの持ち主。
そう、私は人様のスキルで異世界人にやり返すのです。
旅の間中、私は佐藤さんに恩を売っていたので、理由を言うと佐藤さんは快く引き受けてくれました。
料理を作る過程の大半を城に勤める料理人さんが作ってしまっていたので、残りは私と佐藤さんが作ります。
少し悔しかったのですが、気を取り直して残りの作業に集中を。
きっと、絶対、確実に、少量でも佐藤さんが制作する手料理と手料理は獲物を仕留める勢いで威力を発揮してくれるはず!!!
各料理に少量ずつ佐藤さん制作の手料理と手料理を入れていって、完成です♪
和やかにパーティーが進む中、予定通りに次々と人々が倒れていきました。
まるで、気絶しているようです。
私は招待客が全員倒れたことを確認し、給士やその他の人たちに眠りの魔法をかけました。
賢者が魔法を使えるのはおかしい? いいえ、異世界だからやったもの勝ちです。
実は、佐藤さんが異世界召還特典スキルを持っていないのは、『佐藤さん以外の異世界召還特典スキルを持つ対価』と『異世界召還する対価』を支払っているからなのです。
何の対価もなしに、異世界から必要な人材を召還できないからです。
つまり、この世界の人たちは異世界召還のために異世界人に対価を払わせ、自分は安全な場所で高みの見物をして、本来自分たちが行うべき危険な仕事を無関係な子どもたちに押しつけているのです。
佐藤さんが自分が何のスキルを持たなかった理由を教えて欲しいと行ってきたので、私が調べて分かったことを教えました。
「それで、佐藤さん」
「なに? 時枝さん」
「今から元の世界に戻りますが、その他のクラスの人たちはどうしますか?」
「どうって?」
「この世界に置いていきますか? それとも、一緒に連れて行きますか?」
「えっ? それって、私が決めてもいいの?」
「はい。それが、今の私に支払える対価です」
「対価って...」
「この世界の人たちとクラスの人たちを沈めるために、手料理と手料理を作ってもらいました。まさか、そんな素敵スキルをタダで利用しようと思ってはいないですよ」
「うーん。それは、私もアイツらに仕返しがしたかったし別に気にしてないわ」
「私が気にします」
「そうね。うん。置いていきましょ。だって、私は散々アイツらに理不尽な扱いをされたし、旅の間中に何にもしなかったのにタダで元の世界に帰れるなんて、ちょっと許せないわよね」
佐藤さんは、とても素敵な笑顔で言いました。
そうなのです。
旅の重要なことは、私と佐藤さんの二人でしていました。
クラスの人たちは、私より役に立つスキルを持っていたのに何もしなかったのです。
佐藤さんは、田中先生が先導してクラスの子たちに理不尽な扱いをされていたけど、私は闇夜に紛れて彼らに佐藤さんがされた以上のことを仕返していました。
もちろん、私がしていたなんて誰も気づいていません。
「さて、帰りましょうか」
「そうね。こんなとこもういたくないわ」
佐藤さんは、吐き捨てるように言いました。
私は賢者スキルを利用し、異世界召還の扉を再生不可能なほどに粉々に壊し、この世界にある魔力のすべてを使い、私と佐藤さんを元の世界に戻しました。
この後は、二度と異世界召還なんて出来ないし、魔王が仮死状態から復活するので、残された人たちとこの世界の人たちがきっと頑張るはず...?




