不潔の勇者~不遇な主人公がいるのなら、不潔な勇者がいたっていいじゃない~
不潔要素は、ありません。ただ、不潔な勇者がいますということです。
Q.好みのイケメン(または美女)を覚えてますか? A.いいえ、覚えていません。
突然、教室全体に魔方陣のようなものが現れてものすごく眩しくなったと思ったら、知らない場所にクラス全員がいました。
教師付で。
あれっ?
この手の定番って、教師がいない時じゃなかった?
はじめまして。クラス内では平凡顔で平均的な成績を維持するごく普通の女子高生、蕪菁谷カナデです。
たった今、自分の身に起こるはずがないと思っていた異世界召還に巻き込まれています。
チート能力もあります。
私の能力は、『家召還』。
生活水準が著しく、...もとい現代社会の恩恵を存分に享受しているひ弱な現代人にとって最も重要な必需品。
他の人たちは、『勇者』『聖女』『剣士』などなど何も知らない愚か者どもから、旅に必要不可欠と思われるチートを授かっていると思われています。 お・バ・カ。
みんなが騒いでいる中、周りの状況を無視して私は辺りを見回した。
すると、親の都合で海外にいっているはずの巨乳美少女がいた。
巨乳美少女の近くには、海外ドラマで見たことのあるイケメンさんが。
思い出せない! あの顔は、見たことあるはずなのに。
頭の中のモヤモヤ感がとれない。 絶対に、思い出してみせる。
こういう時は、グ●グル先生に聞くに限る。
あっ、ダメだ。
ここが、異世界だからグ●グル先生が活躍できない!
現代社会の電波諸々が存在しない。
「ようこそ、おいで下さった異世界の勇者たちよ」
威厳のある声。
心の中では、『何がようこそだよ。誘拐しやがって』とツッコミ。
長々と言い訳がましい説明が続く中、ステータス確認で能力を教えろと言いやがった。
愚か者どもからは、私の能力が使えないと判断された。
そして、早々に追い出された。
ついでに、あのイケメンさんも追い出された。
どうやら、イケメンさんはこの世界の言語能力が備わらなかったらしい。
私が読んだことのある異世界召還系ラノベでは、『日本人・モテるイケメン・美少女・高校生・巻き込まれ』というのが定番。
日本人にとって、年上外人であるイケメンさんにはどうやら適用されなかったみたいです。
とりあえず、私がしたいから...もといイケメンさんの代わりにこの世界の神をボコろうと決意した。
でも、甘いぞ。この世界の神よ。
友だち百人を目指した私は、見たことのある映画や海外ドラマの言語は日常会話程度なら問題ないのです。(もちろん、文字も書ける)
ちなみに、友だち百人は私の性格上無理だったことをここに言っておきます。
会話は出来るのですけどね。無念。
イケメンさんは、リオン・エインズリー。
お気に入りの海外ドラマに出演していた俳優さん。
彼の演じていたキャラクターに興味が全くなかったため思い出せなかったのです。
ドラマに出ているイケメン俳優は多いので、イケメンと言ってもこれと言って特徴がないってことですね。
あの放送局、視聴率をとるために視聴率が取れる視聴者層に変更して、今までのドラマを打ち切ったのですよ。
何処かの放送局で、シーズン1から放送してくれないかな。切実に。
さて、私の能力が『チート』と自称しているのに、大人しく追い出されているのを不思議と思う人も多いでしょう。
『家召還』とは、簡単に言うと普段家にあるものがすべて問題なく私の基準でこちらの世界に召還されるのです。
お風呂、トイレ、台所、冷蔵庫(中身付き)が!
そしてそして、最近〆上げた不良さんから強奪した釘バットが!
この家の中で使えそうな武器は、会社員の父が持つゴルフセット、野球少年の弟が持つ木製バットと金属バット。
姉の部活道具の弓矢。 兄の趣味の料理である素晴らしく切れ味のある包丁各種。
おじいちゃんが、重いからと置いていった大理石の灰皿。
あと、トリカブトがあったら完璧だったのに!
なぜ、母はしていない。趣●園芸(注:趣●園芸は、そう言う番組ではありません)
意外と使える武器が、家の中には多いですね。 よかった、よかった。
リオンさんも私も特にすることがないので、勇者ご一行をストーカーしながら、割と快適に過ごしています。
街行く人たちの勇者の噂の中には、『勇者様たちって、思ったよりも不潔じゃない』と言うのもあります。
『アイツらに近づくな。臭すぎると言う真実を言ったやつは不敬罪になるぞ』とか。
勇者ご一行なのに、不潔とか(笑)。
よくある小説の中には、勇者ご一行のワガママで近づきたくないとかあるのに現実では不衛生で不潔だから近づきたくないって。
―――(都合により、中略)―――
ストレス発散もかねて、魔王城へ。
リオンさんは、武器を扱うのが苦手とのことでゴルフのドライバーをいざという時のために、渡しておきました。
私はというと、もちろん釘バットですね。
そして、魔王様の元へ。
私は問答無用で、魔王様をボコりました。
最期に、「最期じゃない!」最後に魔王様は土下座して「何でも言うこときくので、止めて下さい」と命乞いをしてきました。
「私と彼を元の世界の元の場所で、誘拐された時間に返して」
「お前、まさか人間の王の言葉を信じて、俺を殺しに来たのか」
「信じるなんて、お・バ・カ♪」
そこに音もなく現れる女神様。
殺気立つ私と魔王様。
「ちょっと待って。そういうことで来たのではないの。異世界の少女と魔王」
私と魔王様とリオンさんは、女神様の話を聞くことにした。
「はい。女神様、質問です」
「なんですか、異世界の少女」
「なんで、リオンさんはここの言葉が通じないのですか?」
「ほう、そうなのか」
「そうですね。それは、異世界の少女と同じ年齢ではないからです」
「私にとって、外国人だからじゃないんですか?」
「ええ、違います。彼は、無駄にでかい胸を持つ少女の近くにいたため巻き込まれたのです」
「それは、災難だな」
「もしかして、一緒にこちらに来た先生も言葉が通じない?」
「そうです。あの小さい胸を大きく見せるブラを着けてる女教師も言葉が通じいません(子ども相手に、なに色気を振りまいてるのですか、あの女)」
「何気に、ディスってるぞ。この女神」
「やっぱり、そうだったんだ」
「気付いていたのか?」
「うまく説明できませんが、不自然だったんです」
「ほう...」
「それにしても、何ですか。あの子たちと女教師! 私が授けたチートにケチつけて!」
女神様はというと、私のチート能力が使えないと判断したクラスメートと担任とあの城の者たちに大変ご立腹。
なんでも、私は十分に戦闘能力があるのでチートが必要なかった。
でも、なにか能力を与えないと不公平になるので考えに考えて、『家召還』にしたのだとか。
この世界に拉致したことはともかく、このチート能力を与えて下さったことに、女神様に感謝した。
「ありがとうございます。異世界の少女よ。この能力のすごさを分かってくれて」
女神様は、大変感動されていた。
あの愚かどもたちは、一体この能力にたいしてどんなケチをつけたのでしょう。
温厚そうな女神様を怒らせるなんて。
「女神様、あんな奴ら、見捨てましょうよ。切り捨てないと、人生楽しめないですよ」
私は、いい笑顔で言った。
「それは、どうよ」
なぜか常識人枠に入ろうとする魔王様は突っ込んだ。
「そうですね。異世界の少女。私がこの世界を何度も手助けするから、この世界の人間たちは私に頼り切ってしまった。そんなことでは、この世界のためになりませんね。私は旅に出ます。後はこの世界の者たちに、任せましょう。本来なら、もっと前にそうすべきでした。ありがとう、異世界の少女。異世界の少女、そして異世界の青年、あなたたちを元の世界に戻します。さようなら」
「達者でな」
蛇足ですが、この後、リオンさんと再会して私はまた『思い出せない! あの顔は、見たことあるはずなのに』となります。
そして、なぜか必死に私に思い出してもらおうとするリオンさん。
「すぐに、思い出しいてもらえないなら、切り捨てないと人生楽しめないですよ」といい笑顔で言ったら、なぜかリオンさんにキレられました。
解せぬ。
リオン・エインズリーが話さないのは、言語補正がないからです。




