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とりあえず、逃げだそう~前世を思い出したヒロイン~

ヒロインのルートによっては、敵前逃亡すると思うんです。

「ミーナリス・カレンダー公爵令嬢、貴様との婚約を破棄する!」

厳しい非難を含めて、自分の婚約者にそう宣言する愛しい人の声を聞いて私は前世を思い出した。

そう、ここは転生の定番の乙女ゲーム『愛と、恋と、聖女様』の世界。

私はヒロイン。アーシアス・ボックス子爵令嬢。元・平民、そして聖女。

ボックス子爵は、女癖が悪くメイドであったお母様に手を出して私を孕ませた。

お母様が亡くなったと同時に、ボックス子爵夫人が私を迎えにきた。

ボックス子爵は私に無関心だったけど、ボックス子爵夫人は私に愛情を持って育ててくれた。

って、何してるの私!!!

あのクソじじいはともかく、ボックス子爵夫人に迷惑かけちゃうじゃない。

「あろうことか、貴様は聖女であるアーシアスに心ないイジメをおこなった!」

ちょっと待てや。色ボケ王子。

婚約者じゃない女の子を呼び捨てって。

これでも私、貴族のご令嬢よ。

色ボケ王子は、なんとこの国の第一王子シオン・タイム様。

色ボケ王子のお母様は正妃様だけど子爵令嬢だった。

国王陛下は当時の婚約者と婚約を破棄し、子爵令嬢だった正妃様と恋愛結婚した。

色ボケ王子を溺愛している国王陛下と正妃様は、色ボケ王子の後ろ盾ほしさに力のあるカレンダー公爵家に無理矢理娘を王家に差し出させた。

さてさて、私が色ボケ王子との恋に墜ちたのは魔王討伐の旅でのこと。

聖女として覚醒した私は、色ボケ王子と愉快な仲間たちで構成される魔王討伐の旅に出たのでした。

色々あって、私は攻略対象たちと恋に墜ちて『逆ハールート』に。

その中で、一番権力のある色ボケ王子と結婚の約束をしたのでした。

現在は魔王討伐の旅が終わり、学園での卒業式。

魔王討伐の旅の間は、学園の教師(もちろん、攻略対象)が付き添い学園での授業に遅れないように勉強を教えてもらいました。

ボックス子爵夫人の支援もあり、私は無事に成績を維持しつつ卒業できることになったのです。

「教科書を破る、制服を切り裂く、階段から突き落とす、貴様の心根が腐ったことを心底思い知った! 侯爵令嬢として恥ずかしくないのか! 今すぐ、アーシアスに謝れ!」

卒業式会場に響く、色ボケ王子の激しい非難の声。

私は前世を思い出し混乱する頭で立っているのがやっとだ。

混乱する頭の中、どうしようかと思う。

そして、不思議に思う。

公爵令嬢である彼女が、恋敵にそんなぬるい手を使うだろうかと。

私を階段から突き落としたのは、絶対にミーナリス・カレンダー公爵令嬢ではない。

いくら私が魔王討伐に手を貸した聖女であろうと、所詮は子爵令嬢。

つぶせないはずはない。

こんなときこそ、いえ、こんなときこそだから思う。

魔王討伐の旅の間に、色ボケ王子が自慢した政策は『本当に色ボケ王子がしたこと』なのだろうかと。

あの政策は、我が子爵領はとても助かった。

あの大恐慌を乗り切った時には、領民たちと手に手を取って喜び合ったものだ。

あの政策があったからこそ、子爵領が維持できている。

そう、思い出さなきゃ。

色ボケ王子は、色々な政策を成功させてきた。

だけど、思う。

ミーナリス・カレンダー公爵令嬢に比べて、圧倒的に授業の参加率が高い。

攻略対象たちと共に、毎日毎日、私に愛を囁いている。

魔王討伐の旅に、学園での授業に。

王族としての義務があるのに、毎日学園に登校できるのかと。

まさかと思う。

私が考えに思い至ったことで、ミーナリス・カレンダー公爵令嬢を見ると『よくできました』と、目で微笑まれた。

なんだ、やっと分った。

色ボケ王子は、ミーナリス・カレンダー公爵令嬢の手柄を全部横取りしていただけだと。

「貴様には、愛想が尽きた! 貴様を国外追放の刑に処する! 死なないだけ、ありがたいと思え! そして、皆に宣言する! そしてここにいるアーシアス・ボックス子爵令嬢を新たに俺の婚約者にする!」

「お待ち下さい! 私は、アーシアス様に対してそのようなことは一切しておりません」

「くどい! 証拠があるのに、何故貴様は罪を認めない! そんなに、正妃の地位が欲しいのか!?」

「いえ、欲しくありません」

「嘘をつけ!!!!!」

わたくしには、『夢』がありますの」

「夢?」

訝しげにする色ボケ王子。

「ええ、夢です。 ダンジョン王に私はなる! そして、引きこもりスローライフを過ごすのです。 王妃教育の過密スケジュールに、王子の尻拭い、さようなら」

引きこもりスローライフですと!?

なにそれ、羨ましすぎる。

実は実は、私は前世でブラック企業に勤めていたブラック社員でしたのですよ。

あぁ、愛しのお布団。

ミーナリス・カレンダー公爵令嬢を見ると、『羨ましいでしょう』と表情が物語っていた。

そうと決まれば、話早い。

私は聖女が持つ聖剣を粉々に叩き折ると、前世の相棒の血に塗れた釘バットを取り出しミーナリス・カレンダー公爵令嬢に

「このバットをあなたに捧げます。私の忠誠は、あなたに」と言って跪きます。

「ええ、確かにあなたの忠誠を受け取りました。一緒に、ダンジョン王を目指しましょう」

「はい」

ミーナリス・カレンダー公爵令嬢は、私に手を差し出しました。

私は元気よくその手を取ると一緒に、ミーナリス・カレンダー公爵令嬢と卒業式会場を出て行きました。

ボックス子爵夫人に手紙を書いて詳細を伝えたら、「こっちの心配はしなくてもいいですよ。頑張って」とお返事が来た。

なんでも、まだまだボックス子爵の隠し子がいるそう。

どれだけ頑張ったんだろう? ボックス子爵。


ミーナリスとダンジョンをいくつか攻略すると、素敵な引きこもり生活が出来るダンジョンを見つけて落ち着きました。

私とミーナリスは、ダンジョンを攻略していた時に素敵な旦那様を見つけて結婚をした。

これからは、四人でもっともっとダンジョンを攻略しよう。


時々、ボックス子爵夫人と腹違いの弟である次期ボックス子爵(もちろん、ボックス子爵の隠し子の内の一人)・カレンダー公爵夫妻・旦那様たちのご両親が私たちのダンジョンに遊びに来て騒がしく過ごすのは別の話。


腹違いの弟が、『愛と、恋と、聖女様 セカンドシーズン』の攻略対象であるのも別の話。



聖女の聖剣「えっ...」

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