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異世界からの勇者様は活躍しない~闇落ち聖女様は闇落ちしない~

美少女に自分を美少女と言わせたかっただけ。

私、有沢美玖。美少女女子高生。

今、異世界にいるの。

どうやらここは、大人気ゲーム『光りの勇者/闇の聖女』の世界っぽい。

うーん、まさか異世界がゲームの世界だなんて。

そして、不幸にも私に巻き込まれたのは地味系クラスメイトの時枝沙樹。

私を呼んだ自称・女神様によると時枝さんは、身近な人に不幸にも殺されたらしい。

あの子、そんな恨まれるようなことしない子なんだけどな。


うんうん、私なら異世界でも大丈夫。

だって、美少女だから。

時枝さんがオススメしてくれた異世界召還系の小説で、美少女は当然のように優遇されていたし。

お父さん、お母さん、私を美少女に産んでくれてありがと―。


召喚ゆうかいされた場所から、王城まで移動したの。

そこで王様は、「カーナハント国にようこそ。異世界の勇者様、聖女様...」と言って、この世界は魔物の驚異にされているなんちゃらかんちゃらと話した。

あーあ、こういう偉い人のお話って長い上に超つまんなーい。

時枝さん、私を呆れた目で見ないで。

なんで、そんなわけわかんない話、真面目に聞いてるのよ。


ここで、『光りの勇者/闇の聖女』のことを現実逃避をかねて少し話そう。

RPGがメインな美少女とプレイヤーが恋愛するゲーム。

恋愛要素は、ちょーっとあるかな。

美麗なCGとやり込み要素でネットで人気に火が付いたの。

この世界の勇者は、カーナハント国の第二王子。光りの勇者編の主人公。

まぁ、正妃様が産んだ第一王子様と第四王子様を勇者にするわけにはいかないよね。

そして、異世界の勇者である私と恋に落ちる予定。

お供には、騎士・魔法使い魔術師・賢者・支援職がいるの。

支援は必要だよね。

この世界のことをなにも知らない私と時枝さんがいるもの。

闇の聖女編の主人公は、魔王。

異世界の勇者が巻き込んでしまった少女が、魔族側に寝返って闇落ちする。

時枝さんが闇落ちするなんて想像できないわ。

時枝さんなんて、ゲームをするためだけに放課後の掃除を終えると全速力で帰って行ったもの。

あの子、帰宅部なのに見た目に反して運動神経抜群で陸上部の女子のエースより足が速いのよね。

どうやって、闇落ちさせるのかしら。


ゲームをやっている時には気付かなかったけれど、どうして巻き込まれ不幸女子高生を勇者と騎士と魔法使いと賢者は邪魔者とばかりに時枝さんを睨付けるのかしら?

自分たちの力不足が原因だって、気付かないの?

王様は時枝さんを見て申し訳なさそうにしながら「魔王の討ば」と言ったところで、時枝さんは「魔王をぶっ殺しいいんですね!!!」と王様の言葉に被せて輝くような笑顔で言い切った。

王様はドン引きしながら、「いいよ」となんとか言葉を絞り出していたの。

顔だけ四人組以外は、「巻き込んでしまったのにいいの!!?」と言う驚きの表情をしていたわ。


魔王討伐の訓練を広ーい訓練場でしていた時だわ。

私は、お約束の剣。

もうちょっと、軽いものにしなさいよ。

この剣、重すぎるわ。

美少女に相応しい武器にしなさいよ。

一方、時枝さんは「魔王ぶっ殺す」と掛け声をかけて剣を持った熟練の騎士たちを金砕棒かなさいぼうで、投げ飛ばしていたわ。

あの、細腕で。どうやってるのかしら。

そんな時、訓練場の上空に魔王四天王ザッキ・グルエルが現れたわ。

顔だけ四人組の中の第二王子が、「みんな、今こそ力を合わせて戦うんだ!!!」と情けないへっぴり腰で叫んだ。

私と時枝さんは真面目に訓練しているのに、顔だけ四人組は城下町に繰り出してかわいい女の子たちに声をかけまくっているらしいわ。

魔王を倒す気があるのか疑問だわ。

なんで、こんな重要な時にあの顔だけ四人組はここにいるのかしら。邪魔だわ。

時枝さんザッキ・グルエルを見た瞬間、殺気を全開にしザッキ・グルエルの威圧の影響で身体が強ばって動かない直立不動の第二王子の顔を踏み台にして、「魔族ぶっ殺す」と言いながら高く高く跳躍しザッキ・グルエルを殴り殺した。

落ちて訓練場の硬い土に埋め込まれたザッキ・グルエルは恐怖で心を折られた顔をした死に顔だったわ。

この瞬間、顔だけ四人組以外の訓練場にいた私たちは心の辞書に時枝さんを怒らせていけないと筆圧強く刻んだの。

時枝さん、どれだけ深い恨みが魔族にあるのかしら。

全く闇落ちしそうじゃないんだけど...?


本当なら、魔王討伐の旅は顔だけ四人組と支援職と私と時枝さんで行くはずだったのだけど、顔だけ四人組があまりにも使えないので、イケオジな騎士団長とやたら顔色が悪い魔術師長と笑顔が朗らかなお爺さん大賢者も同行することになったの。

そして、なにかに覚醒した支援職君が顔だけ四人組を鞭でびしばし鍛えながら、旅を順調なものにしていく。

さすが、支援職だわ。

支援職君の支援によるおかげで足手まといがいても、旅の予定を乱さないですむ。

そこに、お約束のように母性をくすぐるショタッ子魔族四天王フォンフォン・ファンタブルが現れたわ。

すかさず、時枝さんはなんの躊躇いいもなく音速でショタッ子をメリケンサックを着けた拳で一撃命奪で殴り殺した。

足音もなく近づく威圧感に恐怖を感じると、見たことのないくらい美しい美青年が立っていたわ。

その美青年が時枝さんの前に立ち止まると跪き、「私は、魔族四天王アンセルム・タイム。元魔王四天王の美しきキリエ・カーナハントの娘サキ。我らと共に、人間界を滅ぼしましょう。そのために、貴方様は呼ばれたのですから」美しい笑みをたたえながら素晴らしいイケボで時枝さんに囁いたの。

カーナハントってこの国の名前。

確か、時枝さんのお母さんって『キリエ』って名前だったわ。

時枝さんのお母さんって、異世界人だったの――――!?

私たちが驚いていると、時枝さんは怒りのこもった笑みで容赦なくアンセルム・タイムの急所を蹴り上げたの。

潰れていないかしら、急所。

痛くて蹲っているアンセルム・タイムを容赦なく蹴り殺している時枝さん。

ちょうど、息の根が止まったところで蹴るのを止めているわ。

物音がするなと後ろを見ると、無表情で支援職君が顔だけ四人組の急所を順々に蹴り上げていたわ。

私と騎士団長と魔術師長と大賢者は、見なかったことにした。

あの四人、支援職君に何をしたんだろう?

きっと、ろくなことじゃないんだろうけど。

この時、私は知らなかった。

心を折られた最後の魔界四天王が脱兎の如く逃げ出していたなんて。


翌日、宿を出て街から出ようとしたところ魔王に出くわしたわ。

魔王って、魔王城で勇者を待ち構えるんじゃないの?

ゲームと現実は違うってことね。

魔王は美しく微笑みながら時枝さんに向かって、

「よく来たな。我がしもべの娘サキ。お前は、人間どもを滅ぼすために我々がこの世界に召喚した。その役目、しっかり果たせ」

当然のように、魔王は魅惑のテノールボイスで言った。

ものすごい早さで時枝さんは、魔王に近づき金砕棒で魔王を街の外まで投げ飛ばしたわ。

そして、魔王が投げ飛ばされている最中にさらに金砕棒で魔王を叩き落とし地面に埋め込んでいたの。

地面から出た魔王は、

「このっ、クソッ、お前! 何をしているのか分っているのか!!!」

と激怒したの。

時枝さんはニヒルに笑いながら、魔王の周りだけ重力を重くし、そこから金砕棒で魔王を攻撃し、あっという間に魔王を殴り殺してしまったの。

魔王は、絶望に打ちひしがれて心が折れて顔を真っ青にした死に顔だったわ。

私の役目って、何だったんだろう?

何事のなくてよかったんだけど、なんとなくビミョーな気持ちになってしまったわ。

私、何のために召喚されたの?


魔術師長の転移魔法で、王城まで戻ってきましたっ。

王様は私たちを待ち構えていたらしく、時枝さんを見つけると抱きしめて感動して泣き出したわ。

王様の側にいた側近たちもそれを見て感動していたわ。

王妃様は、「よくぞ、無事で...」と涙ぐんでいらしたの。

王様は時枝さんを離すと、私たちを見て申し訳なさそうに、

「申し訳ないが、あなたたちを異世界に戻す方法は」

時枝さんは、王様の言葉を遮って

「ありますよ。私は戻れないですが、有沢さんを元の世界に戻す方法ならありますよ」

「マジで?」

私は思わずそう言ってしまったわ。

あっ、時枝さんは...

心配する私をよそに、時枝さんは朝家を出ようとしたところで時枝さんのお母さんに後ろから包丁で何度も突き刺され惨殺されたとこともなげに語ったの。

元の世界での死に際に、「これでお前をあの世界に送れる。魔王様に尽くせることを私に感謝なさい」と言われたらしいの。

私はそれで悟ってしまった。

だから、襲い来る魔族たちを滅殺上等な思考になったんだわと。

時枝さん、見た目に反した思考もしているのよね。

なんで、母親なのに気付かなかったんだろう?


私を元の世界に戻すということで、私がこの世界に召喚ゆうかいされた部屋に戻ってきたわ。

魔術師長と魔術師たちが魔方陣を始動させた。

魔方陣の発動を見た時枝さんは自分の三つ編みにした髪を短剣で片方まとめて切り、魔方陣に投げ入れたわ。

その魔方陣から、時枝さんのお母さんが出てきた瞬間に私は元の世界に戻ったの。


私は召喚ゆうかい前にいた放課後の教室の自分の席に座っていた。

机には、1冊のノートが置かれていたわ。

このノートで、時枝さんと文通?が出来るみたいだわ。

同じ趣味をお話しできる同士は彼女だけだから、私のことを気にかけてくれるのはすごく嬉しい。



有沢美玖が、戻った後___________

王様は、自分の妹を見て激怒した。

魔王のために、自分の娘を殺し禁術を行使して魔王の元に届けようとしたことを。

王様はちょうど両手に嵌めていたメリケンサックで妹を殴りまくった。

キリエは自分の娘を見て、自分の目論見が失敗したことを悟り、金切り声を上げてなにか叫んで再び娘を殺そうとした。

その娘はというと、やはりちょうど両手に嵌めていたメリケンサックで母を殴り飛ばし城の壁に埋め込ませてついでに気絶させていた。

王様と姪っ子は、達成感でハイタッチ。

キリエを「よっこらせ」と言いながら壁から取りだした意外と力持ちな魔術師長は、キリエを担いで地下牢に向かった。

キリエは、地下牢で手と足と首に鎖につながれた。

そこには、同じ格好で鎖につながれ絶望に打ちひしがれ目を虚ろにした無気力な魔王が。

キリエは、発狂した。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


【有沢美玖】腐った美少女女子高生。三度の飯よりBL。時枝沙樹の友人。帰還後、ノートを使って時枝沙樹と交換日記をする。


【時枝沙樹】ごく普通の女子高生。あらゆるジャンルのマンガ・小説好き。異世界の召喚のために、元の世界では母親に殺される。

この世界にて、魔法の才能が開花。でも、物理攻撃が好き。有沢美玖を心配し、ノートを渡す。


【キリエ・カーナハント】日本名は、時枝キリエ。時枝沙樹の母親。魔王の力になろうと、異世界に転移して子供を作る。子供に全く興味がなし、愛情もない。なので、娘の性格を全く知らないがために、この結果になってしまった。魔王至上主義者。ちなみに、時枝沙樹の父親は会社経営の一族の長男。キリエが、彼に見つからなかったのは魔力で誤魔化していたから。


【王様】妹が魔族に寝返ったことで、妹の討伐依頼を出す。時枝沙樹を見た瞬間に自分の姪っ子であること、キリエが彼女にしたことを悟る。王子しか子供がいないので、時枝沙樹を養女にする。


【王妃様】王子しか子供がいないので、時枝沙樹を養女にすることを王様におねだりした。だって、女の子が欲しいんだもん♪ 側室様たちとの仲も良好。側室様と大盛り上がりで、時枝沙樹を可愛がる。そのことを息子たちに呆れられいるのに、気付かない。ちなみに、側室様は四人いて第十王子までいる。王様、頑張った。


【魔術師長】作中、顔色悪いといわれているが、魔術師たちの中では顔色がいいほう。


【騎士団長】時枝沙樹の金砕棒とメリケンサックの扱いに心底惚れている。「やはり、あの血筋は間違いなく王様の姪御殿」と日々感動している。


【顔だけ四人組】時枝沙樹に不当な扱い・態度をとり続けて王様・王妃様・側室様の不興を買う。「庶民に身分を落とすと、庶民たちに迷惑ですよ」との時枝沙樹の一言によって、身分はそのまま辺境の片田舎で蟄居する。


【支援君】旅で覚醒。この後、王様・お貴族様の依頼で出来の悪い坊ちゃんたちを調教して、まともにする職業に転職する。


【自称・女神様】本当に女神様。予想外にいい結果で満足だけど、「なんか、思っていたのと違う」と頭を抱える。


【魔王】俺様な性格。不死身。時枝沙樹が自分に都合よく動くのが、当然と思い込んでいた。

闇落ち失敗ものを読んで、母親(か父親)が自分の娘を殺して異世界に転移させる夢小説を読んだのを思い出しました。

娘は、異世界転移して母親(か父親)の思惑通り行動してました。

闇落ち失敗なら、「自分を殺した相手の思惑通りに行動しない」ことにできるのでは?と思って書きました。

そのためだけの、「闇落ち失敗設定」。

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