婚約破棄...できなかった!~彼女は、恋の夢から醒めました~
よくある婚約破棄。
勝手に先走った婚約破棄劇を見たら、醒めるんじゃないかなと。
モラール魔法学園創立200周年パーティー会場でのこと。
「レーディ・ナチュレ―ズ侯爵令嬢、貴様との婚約を破棄する!!!」
キラキラ光る発光物のようなジェントル・クレンジング第三王子様が、宣言するように堂々と言い切った。
「そんな! ジェントル様なぜですの?」
悲壮溢れる顔で問うレーディ・ナチュレ―ズ侯爵令嬢。
「『なぜ?』 その程度のことも分からんのか、貴様は」
激高するジェントル・クレンジング第三王子様。
「姉上......」
無言で非難を告げるレーディ・ナチュレ―ズ侯爵令嬢の実弟フラグ・ナチュレ―ズ侯爵令息。
レーディ・ナチュレ―ズ侯爵令嬢を口々に罵倒するジェントル・クレンジング第三王子様のイケメンの取り巻きたち。
レーディ・ナチュレ―ズ侯爵令嬢の吊し上げられている状況を見たプリティー・オールインワン男爵令嬢は、一瞬静まりかえったのを気付かずに、「ないわー、マジでないわー」と小さい声で呟いてしまったのが会場に広がってしまった。
「そう、思うでしょ? シュガーちゃん」
「プリティー様、会場の皆様に聞かれていますよ」
シュガー・ノーウォーキング辺境伯爵令嬢の私は、思わずツッコミました。
「マジでー」
と言い、プリティー様は周りを見渡した。
プリティー様は、恥ずかしくなって顔が赤くなり俯きました。
自分の断罪の雰囲気がちょっと途切れた隙を突いて、レーディ・ナチュレ―ズ侯爵令嬢は、
「プリティー・オールインワン、シュガー・ノーウォーキング、今すぐ私を助けなさい!!!」
と私たちに怒鳴りつけた。
「いや、それこそないわー。だって、あんたって私を多数の取り巻きたちを使って、吊し上げたじゃない」
貴族令嬢としての言葉遣いを忘れて反論するプリティー様。
「私も、プリティー様の友人といちゃもんをつけられて吊し上げにされましたねえ。でも、相棒の釘バットを使いましたら、レーディ・ナチュレ―ズ侯爵令嬢とその取り巻さんたちは黙られてしまいましたね」
そう言って、私は穏やかに微笑んだ。
「そんなことを言っている場合ではないでしょう! 殿方たちにイジメられてる、私を今すぐ助けなさい」
上から目線で怒鳴るレーディ・ナチュレ―ズ侯爵令嬢。
「やだ~。私、良い子ちゃんじゃないも~ん。私をイジメていた人たちの味方なんて、できな~い」
「だったら、私が助けましょうか?」
私は相棒の釘バットを素振りしながら穏やかに言った。
「シュガーちゃん、表情と態度が会ってないよ」
プリティー様は、私の行動に呆れました。
「ちゃんと聞いてますの!」
その指摘を受け、私はレーディ・ナチュレーズ侯爵令嬢に近づき、思い切り手加減して釘バットをフルスイングした。
すると、ジェントル・クレンジング第三王子様は
「これで、悪は退治したな」
と言って、取り巻きたちと共に拍手した。
私は、『意地悪で上から目線で、自分大好きなクソ女を相棒の釘バットの餌食にしただけだがな』と穏やかな表情の仮面を貼り付けて心の中で言った。
「や、拍手するとこじゃないですよ。だって、意地悪で上から目線で、自分大好きなクソ女を気絶させることによって、クソ女をこの場から無理矢理退場させて助けただけですから。最期まで、吊し上げにしましょうよ」
残念そうにプリティー様が言った。
そして、尊大にジェントル・クレンジング第三王子様は
「ここに、私ジェントル・クレンジング第三王子様と可憐で心優しいプリティー・オールインワン男爵令嬢との婚約を宣言する! プリティー嬢、どうか私の妻となってこの国を支える手助けをして欲しい」
とプリティー様に跪いて手を差し出しました。
一見、美しい絵を見ているような光景です。
だがしかし、プリティー様はその雰囲気をぶち壊しにかかった。
「イヤです。 ごめんなさい、ジェントル・クレンジング第三王子様。 今ので、一億年続く恋心も冷めました。 私、自分がイジメられたからって、よってたかってイジメるのを見るのは好きではありません。まあ、助ける義理は存在しないので止める気が全くなかったですけど」
確かに、あの性格のご令嬢を助けようとは全くもって一ミリたりとも思いませんね。
頭がお花畑でも、慈愛に溢れる理解できないイカレた精神の持ち主でもありませんし。
やはり、この雰囲気をぶち壊せとばかりに、国王陛下登場。
「ジェントル・クレンジング第三王子、そなた思い人に振られてどうする気だ?」
ジェントル・クレンジング第三王子様の傷口を切り開くように厳かに問いかける国王陛下。
気まずくなるジェントル・クレンジング第三王子様。
国王陛下は、私の方を見て、
「最年少で冒険者ランクSSS級を取得した撲殺級天才魔術師通称『ナナシノゴンベエ』殿。なにか案はあるか?」
それを聞いた周りの人たちは、
「あれが、敵として遭えば『最期の命日』になると言われるナナシノゴンベエ? 思ったより、若いな」
「噂によると、ナナシノゴンベエ殿は普通の冒険者の二つ名を付けられたくないらしいぞ」
「知ってる? ナナシノゴンベエ様は伝説のドラゴンを...ダメ、これ以上恐ろしくて言えないわ」
「魔王をワンパンで倒したらしいぞ」
などなど、ヒソヒソ言ってきました。
私は穏やか笑顔で、
「ジェントル・クレンジング第三王子様とレーディ・ナチュレ侯爵令嬢は、似たもの同士です。この婚約破棄劇はなかったことに。パーティーの余興として下さい。きっと、彼らは話し合えばわかり合えるはずです」
私は口答えさせないように穏やか微笑んでに言い切った。
そして、このことはモラール魔法学園創立200周年パーティーの余興とすることをこの場にいる者たちに国王陛下が命じた。
プリティー様は後に言った。
「夢から醒める恋は最低」と。




