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第18話 魔女の宴には12種類の絶叫カボチャスイーツを

「四大精霊のうち三柱までいるなんて……」

「それだけじゃないわ。あの赤帽子(レッドキャップ)の鎌は、神代のものだわ」

「なんで人間に懐かない狼妖精(コボルド)がいるのよ! ありえない!」

「い、いくら精霊が集まっても、調理場すらないのに──」

「ノーム、頼める?」


 今回は兎姿で現れたノームは小さく頷いた。その途端、大地が盛り上がり、あっという間に窯や調理用のテーブルに姿を変える。

 私は宝石魔導具を翳して、料理器具の準備をすることにした。

 常に身につけておいて良かったわ。

 魔法陣が生じて6フィートほどの扉だけが現れる。扉の向こうから必要な料理器具を、ソウたちに運んで貰った。うん、手際が良いわ。


 魔女様たちは精霊や妖精が珍しいのか、様々な反応を見せている。もしかしたら、私が生きている時代よりもずっと昔は、人と交流が少なかった?


「きゅい、きゅい」

『ゆてぃあ、ゆてぃあ』


 リア様は毛を逆立てつつ、私の前に出て魔女様に「ギギギギ」と、聞いたことのない音を立てている。

 い、威嚇かな?

 どの器官で、その音を発しているのかしら? 

 私的には、ただただ可愛いだけ……。というかここに来て良かったのか、ちょっと心配だわ。視線も痛いし……。


「リア様は、私から離れないでくださいね」

「きゅ!」

『こんなところに呼び出されても料理って……ユティアらしい』

「シシン! 来てくれて有り難う」

『そりゃあ、くるさ。他の誰でもない君のためだからね。……で、何を作るんだい?』

「絶叫カボチャの十二種類のスイーツ。時間がないから話しながら始めるわね。まず作るのはカボチャのベイクドチーズケーキ、カボチャのモンブラン、カボチャマフィン、カボチャジェラート、カボチャシフォンケーキ、カボチャプリン、カボチャクッキー、カボチャのきんとん、カボチャのミルクレープ、カボチャのシュークリーム、カボチャのブリュレ……ってところかしら」

『もはや呪文』

『私たちも手伝ったら、食べて良いわよね!』

『カボチャ一択なんだね……』

『はい、はーい! 私はジェラートを手伝ってあげるわ』

「うん、ディーネにもたくさん頼るから、よろしくね」

『ググッ、ユティア。あのカボチャは、あのまま切ってもまずいぞ』


 指摘するコームに、私は口元を綻ばせた。

 そう普通のカボチャではない植物魔種なのだ。正しい手順以外で切り裂けば味は悪いし、毒だって残る。

 でも今回の絶叫カボチャに関しての対処は、簡単だったりする。ウォーククインクローゼットの中から、薔薇砂糖を袋いっぱい取り出して、絶叫カボチャの元に向かう。


 コームとリア様は、その後ろに付いて来てくれた。

 絶叫カボチャの表面は紫色だけれど、普通のカボチャと同じ大きさで、吊り目とギザギザの口がある。すぐに見分けがつくので、間違って収穫することはない。何せ近づいたら「トリックアトリートトリックアトリートトリックアトリート!」と大きなギザギザの口を開けて言うので、そこに薔薇砂糖を放り込む。


 その途端、「ウーーー、ハッピーハロウィン!」と叫んだのち、青紫色の水蒸気を放って外皮がオレンジに変わる。これで毒抜きと下準備が終わり。

 甘い物ならなんでもいいらしいが、一番濃厚な味になるのが薔薇砂糖らしい。オウカ・サクラギは様々な種類を試したと記述が残っているほど有名な話だ。

 もっとも私の時代だけれど。


 私は片っ端から薔薇砂糖を食べさせて無力化した絶叫カボチャは、コームが良い感じに切り分けてくれる。実のある部分を加工しやすいように、一口サイズにしてくれて、それをソウたちがボウルにいれて順々に作業台に置いていく。なんというチームプレイ。


『終わったら、カボチャを持って帰る。イイ?』

「ええ。もちろん」

『俺たちガンバル!』


 ケーキ系は焼くまでに時間がかかるし、人手も必要なので一気に作っていく。ソウたちにはカボチャを蒸してもらい、マッシャーで潰してこし器で裏ごししてもらう。

 分量を私が量って順番通り入れるところまで見てから、残りはシシンやアドリアに混ぜるのを手伝って貰いつつ、プリンを作る準備をする。


 プリンはそんなに難しくないのよね。

 裏ごししたカボチャに砂糖を入れて、よく混ぜたら卵を二つ投入。混ぜるのはシシンにお任せして、よく混ざったら牛乳を入れる。

 さらに混ぜたら窯に耐えられる陶器の器に液体を流し込んで、あとは焼き蒸しでじっくりコトコト十五分、蒸らして十分で、できあがり。

 その間にさくっとキャラメルソースを作っておく。できあがったら冷蔵庫で冷やす。

 こんな調子でバンバン作っていく。


 カボチャクリームを大量に作り、その味見をリア様たちに振る舞いつつ、作業を進める。このクリームができれば一気にカボチャのシュークリームとモンブラン、ミルクレープも使われるので時間短縮にもなる。


 私が動いている間に、ディーネとシシンが生クリームとカスタードクリームを用意してくれていた。さすがだわ。

 目が回るほど忙しくて、刻一刻と時間は差し迫っている。

 シシンがいつものように軽口を叩いて、ディーネが味見をして、アドリアと言い合いながら、その横でソウたちが黙々と仕事をこなす。

 コームはカボチャを切り終わったら、周囲が危なくないか警戒をしてくれて、ノームは窯の温度を見てくれている。

 リア様は私の傍で必要な料理器具を取って動き回るし、お皿を用意も完璧だった。火の調整だって砂海豹姿でもお手の物だというのだから、本当に有能だわ。

 リア様の魔法とディーネたちの協力で、冷蔵庫で冷やす時間短縮魔法を駆使して、三時間という時間内に十二種類のスイーツを揃えることができた。


 魔女様たちも最初は驚いていたけれど、今は見守ってくれているのか静かだ。

 リア様が来たことで場が荒れるかと思って焦ったものの、この分ならなんとかなりそうかも?

 一つの目的のために、力を合わせて死力を尽くす。

 大変だけれど、胸がわくわくする。

 やっぱり料理を作るのは楽しい。一つ一つ積み重ねて作り上げていく達成感。


 見た目で期待させて、甘い香りで楽しませつつ胃袋を刺激する。

 お皿に彩られたスイーツたちは、高級レストラン顔負けの盛り付けで、円卓のテーブルを埋め尽くしていく。

 

 彩りもよくするため、アドリアにいろんな果実を生成してもらった。ここで流星果実のシロップ漬けを使ったから、さらに豪華になったわ。


「お待たせしました。十二種類の絶叫カボチャスイーツですわ!」

「まあ、彩りまで!」

「で、でも美味しくなくちゃ、意味が無いんだからね!」

「まあまあ、早速頂いてみましょう」

「そうよ、食べてみればわかるわ!」


 各々が気になったスイーツを手に取り、口にする。

 ナイフとフォークを使った上品な食べ方をする魔女様もいれば、手づかみでパクリと食べる魔女様もいて、性格が別れるようだ。しかし魔女様の誰もが黙ったまま、黙々とスイーツに手を伸ばし──。


「な」

「なにこれ、なにこれ!」

「甘すぎない! このスライムより少し固形っぽいもの、美味しいわ」

「このクッキーサクサクして甘みもあって、めちゃくちゃおいしんだけど」

「こっちのしっとりベイクドケーキは美味しいけれど、甘さがしつこくない!」

「うわあ。この冷たいの、美味しすぎるんだけれど!」

「まあ、このシフォンケーキふわふわだわ。生クリームにも合う」

「やだ! 流星果実が添え物だなんて、なんて贅沢なの!? 信じられない!」


 やっぱり「美味しい」って言ってくれるって、嬉しいわ。

 さすがに三時間、立ちっぱなしで疲れたので、ノームに長椅子を作って貰って座り込む。


 円卓で魔女様たちは夢物語の通り、嬉々としてスイーツを食べ比べして楽しんでいた。

 なんだか物語の一幕を見ているみたい。


 シシンやディーネ、ノームにアドリア、コーム、ソウたちが各々スイーツを持ち寄って、私の座っている長椅子の傍に腰掛けている。まったりしながら、いつものスイーツ論争に発展。


「私もたべ……あれ?」

「きゅう! きゅっ」


 ふと体が傾くと、モフモフの砂海豹がクッションになってくれたようだ。リア様が何か言っている気がしたけれど、急に眠くて起きていられず瞼を閉じた。


「文句なしの合格だわ。私たちの注文に全て応えてくれたもの!」

「ホントだわ。こんなに楽しかった宴は、久し振りね」

「ええ……貴女には『春夢の媚薬』、『夜明け前の忘却薬』。最後に……もしあの王が再び放蕩者として貴女を泣かせて傷つけ、復讐を願ったときのために『復縁の呪い薬』を与えましょう」

「どれを使うか、使わずにおくかは貴女次第」

「でもそうね」

「うん、僕は素敵な料理を作った君に、幸せになってほしいな」

「私も」

「……わたくしも」


 クスクスとした笑い声。

 甘く香ではない、スイーツの香りが鼻孔をくすぐる。


「貴女の幸せを願い──それでもなお、あの王への怒りを消さない私たちは狭量なのかもしれないわね」


 リィン、と鈴の音が余韻を残しつつ聞こえた気がした。


楽しんでいただけたのなら幸いです。

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