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5 5Sランク都市リント



 森の中を歩いていくと、SSランク大盗賊のティールがうんざりした声を上げた。


「なあ、まだ着かねえのかよ」

「もうすぐだ」

「ああもう、散々だ。こんな木ばっかりでなんにもねえところだなんて」


 ごねる彼に、ほかの転生者たちも呆れてしまう。さっきからずっと、ティールはこんな調子なのだ。


 リベルはつい、口にしてしまう。


「SSランクの大盗賊なんだろ? 誇りとか、意地とか、そういうのは――」


「うるせえ! 誇りや意地で飯が食えるか! 俺様はな、金をがっぽがっぽと稼いで、そんでもってちやほやされてえから、SSランクになったんだよ!」


「ここまでだと、いっそすがすがしいな……」


 確かに、金を欲しがる者も少なくない。

 だが、SSランクともなれば、たいていは不自由しない金は得られるため、そこまで強くこだわる者もいなかった。


 一緒にいた転生者の女性もまた、尋ねずにはいられない。


「あんたさあ……それだったら、前の世界にいればよかったんじゃないの?」

「なに言ってんだ。この世界はすげえぞ」

「なにが? 森ばっかりでしょ?」

「この鉄剣! ただの鉄じゃねえ! 材質がまるで違う。元の世界で売れば、そこらの宝石なんて目じゃねえ!」


 ティールは大興奮だ。


「ふぅん……でもさあ、持ち帰れないんだから、意味なくない?」

「んなことねーだろ。なあ、モージュのおっさん」

「俺はまだ、そこまで歳じゃないんだけどな……」


 こちらの世界の寿命はよくわからない。

 リベルは聞いてみようかとも思ったが、今することでもない、と後回しにした。


「ああ、それで持ち帰れるかって話だけど……無理かもしれないな」

「なんだとぉ!?」

「ちょ、ちょっとどういうことなの!?」


 転生者たちが詰め寄る。

 一度来たなら、簡単には戻れないという話を聞いていなかったのかもしれない。


「俺もよく知らないんだけど……元の世界に繋がっているのって、たぶんもっと上の階層なんだよ」

「……上の階層?」


「ああ。この世界はランクの桁が上がるごとに、別の階層に上がれる仕組みなんだとか。ま、俺は9Sランクだから一回も上がったことねえんだけどな」


「なんだ。モージュのおっさん、たいしたことねえんだな」


「あのなあ……ランクは桁が上がると、本当に桁違いの強さになるんだ。いや、特定の能力を習得するのを条件にランクが上がるって言ったほうが近いか」


 その話は興味深い。

 リベルはずいと身を乗り出した。


「どういうことだ?」

「わかりやすく言うと……例えば10Sランクになるには、魔力を扱えないといけないんだよ」

「モージュは使えるんじゃないのか」


「あれはね……不完全なんだよ。俺は魔力がうまく掴めなくて、だからもう何年も9Sランクにとどまってるわけ。……君らがコツを掴んだら、俺に教えてくれてもいいんだぜ」


 モージュはそんな冗談を言うが、まだ10Sランクに上がるのを諦めてはいないらしい。


 リベルは彼の姿を見ながら、改めて考える。


(まずは魔力を掴むところからか)


 今はほぼ使えないと言ってもいい。

 前の世界とは勝手が違うのだ。


 考え込むリベルとは対照的に、アマネが呑気な声を出す。


「ところで、モージュさん。Sランクの街なんだから、すごく豪華な料理とか出る?」

「いや、ここは最下層だからなあ。あんまり豪華じゃないぞ」

「ええ!? そんなあ……残念」

「だが、食材もSランクだ。たいした料理じゃなくても、本当にうまいぞ」

「やったあ! 楽しみ!」


 アマネは浮かれながら尻尾を揺らす。

 実に楽しそうだ。


 やがてモージュは木々をかき分けて身を乗り出すと、足を止めた。


「見えたぞ。あれが5Sランク都市リントだ」


 市壁に囲まれた都市は、かなりの大きさがある。人口は十万人を超えるだろうか。

 門番は重々しい扉を守っており、塔には奇っ怪な形の像が設置されていた。


「おや? あれは魔術道具か」


 ティールが目を凝らしながら、像を見つめる。


「めざといな。さすがは大盗賊」

「いやあ! それほどでも……!」

「あれは魔物を避けるための結界を張るものだよ。盗んだら重罪だからね」

「……き、気をつけるさ!」


 家々の屋根は色とりどりで、統一感はない。

 けれど、どれも綺麗に発色しており、見事である。


 モージュが歩き出すと、彼に続いて一行は都市に向かっていく。転生者たちは肉体的にはともかく、精神的にすっかり疲れているようで、到着を心待ちにしていた。


「モージュ。さっき、5Sランクの都市と言っていたが、都市にまでランクがあるのか?」


「そうだね。いろいろ基準はあるんだけど……店とか人とか、街のシンボルや景観とか、そういったものを総合して評価しているんだ」


「……じゃあ、5Sランクの都市だけど、SSランクの料理店もあれば、9Sランクの料理店もあるってこと?」


「そういうこと。……アマネちゃん、さっきからお腹空いているの?」

「そんなことないけど……おいしいご飯は楽しみだよ」


 彼女は「お昼はなにを食べようかな」なんて狐耳を揺らしている。


 やがて門に辿り着くと、


「モージュさん、お疲れ様です!」


 門番たちが挨拶をしてくる。


「君たちもご苦労様」


 どうやら彼は、それなりに立場があるようだ。

 信用されているらしく、一緒にいる転生者たちも無条件で門をくぐることができる。


「さて、これから君たちを冒険者ギルドに案内することになる。転生者は全員、加入して、冒険者として活動していくんだ」

「もし、断った場合は?」

「この世界での身分証明ができなくなる。様々な不都合があるし、お勧めしないよ」

「……素直に従っておこう」


 街中を歩いていると、確かに見た目は普通の街だ。これといった特徴もない。


 けれど、ところどころ素材の良さが感じられる。

 家々の壁は質のいい石が使われているし、ガラスも上質だ。


 漂ってくる食事の香りは、庶民的にもかかわらず、非常に食欲を刺激する。


「んー……おいしそう!」


 アマネはすっかり虜になっていた。


「ギルドで昼食を出すから、待っててね」

「やったー!」


 リベルは歩きながら、街の人々を眺める。

 冒険者と思しき者たちの姿はさほど多くない。ほとんどが一般市民のようだ。


 彼らがSSランクだったりするのは、調理技術であったり、農耕技術であったりするのだろう。


(……やはり、狐の尻尾が多いな)


 街行く女性のうち、冒険者はそうした種族が多い。

 単純に実力がある種族だからなのか、はたまたなにかがあるのか。彼を転生させたミレイもまた、狐であった。


「リベルくん、尻尾ばっかり見て、えっち」


 アマネは自分の尻尾をぎゅっと抱きしめる。


「なんでそうなるんだよ」

「男の人は皆そうじゃない」


 街中の綺麗な女性に目が釘付けになっているガイルを見てリベルは、


(男たちが夢中になるのは尻尾ではなく尻なのではないか?)


 と思いつつも、余計なことは言わないでおいた。


「前の世界で、銀狐族の知り合いがいたんだよ。ちょっと思い出してさ」

「銀狐族?」

「そっちの世界にはいなかったか。狐でも、いろいろあるんだな」


 アマネはちょっと考え込んでいるようで、返事はしなかった。


 やがて比較的近いところに、冒険者ギルドの支部が見えてくる。

 彼らは都市の外に出かけることが多いため、市壁に近いところだと都合がいいのだとか。


 木製の扉を押しのけると、軋む音一つ立てずなめらかに開いていく。


「冒険者ギルドへようこそ、転生者の皆様!」


 とびっきりの笑顔で迎え入れてくれたのは、ギルド職員の女性である。

 剛戦士ガイルはデレッとした品のない笑みを浮かべた。


「この街は美人が多いが……こりゃSランクの美女だな」


 転生者の女性一人とアマネは、ガイルからちょっと距離を取っていた。


 一方、リベルは中にいる冒険者たちに視線を向けていた。

 装備を見れば、ここに来てから長いかどうかがだいたい判別できる。


 来たばかりの者はプライドがあるのか、見栄えがいいものを選んでおり、転生前世界のものをつけていることもある。


 一方、こちらの生活が長い者たちは、簡素で実質的な装備をつけている。戦いに必要なのは、見栄えではなく強度と威力なのだ。


「では、早速ではございますが、冒険者登録について説明いたしますね」


 カウンターに案内され、転生者たち七人が並ぶ。

 モージュは


「それじゃ、あとは頼みます」

 

 と、別の仕事に向かっていった。


「まず、冒険者の加入にあたって、転生者に課される条件はございません。通常、必要な登録料や組合費なども免除されています」


 どうやら、転生者以外でも冒険者にはなれるようだ。

 しかし、ここではそれらしい人の姿は見られなかった。


「次に、加入のメリットですが、ギルドを通じて民間および公的な依頼、または就職に関する斡旋があること、トラブルに関して当ギルドが仲介を行うこと、最新の情報が提供されること、一部の店で割引や特典などがあることがあげられます」


 冒険者となれば、身分の保障から仕事の斡旋、各種優待など、バックアップしてくれるということだ。


「冒険者の義務としましては、登録内容に変更があった際に変更の届けを出すこと、当組合の連絡に応じることくらいです。もちろん、法には従っていただく必要はございます」


 これといったデメリットはなく、異世界で後ろ盾が得られるのだから悪くない。

 リベルは早速、文字を記載していく。


「……ん?」


 自分で書いた文字を見て、首を傾げる。

 これまで普段使っていたものとは異なる文字で、見たこともないものだというのに、意味は理解できる。


「転生者の皆様には、当世界での活動に支障が出ないよう、言語や文字など、コミュニケーション手段に関しての知識を転生の際に伝えております」


「なるほど。まったく、便利なものだ」


(……そこまでして、俺たちをこの世界に呼んだ理由はなんだろうな)


 ただもてなすためだけに呼んだのではないだろう。

 なにか目的があるはずだ。


 そんなことを考えているうちに、書類への記載は終了した。


「では、皆様を昼食にご案内いたします。お伝えすることがございますので、ぜひご参加ください」


 転生者たちはそもそも無一文だ。元の世界の金が使えないだろうから。断る理由もなかった。


 広々とした食堂に人はおらず、貸し切りになっている。人払いもしているようだ。

 そこでリベルたち七人は腰かけると、職員たちが飲み物を尋ねてくる。


「いかがなさいますか?」

「俺は茶を頼む」

「あたしは果実のジュースがいいな」

「かしこまりました」


 中には酒類を頼む者もいたが、リベルはそこまでくつろげなかった。


 彼らがリラックスし始めたところで、職員によって頭ほどの大きさの水晶が運ばれてくる。

 ティールはすぐに視線を向けた。


「ありゃ魔術的な道具だな。光を蓄積することができるものだ。水晶の具合を見ると、結構いい代物っぽいな。売ったら高そうだぞ」


 彼の言葉を聞きつつも、職員は笑顔を絶やさなかった。内心でどう思っているのかはともかく。


「こちらをご覧ください」


 そう言いつつ、水晶の力を発動すると、中に魔力が反応して映像が映し出される。


 そこに現れたのは――

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