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18 107Sランクジャイアントオーガ

前回のあらすじ

すごく強いジャイアントオーガが現れた。



登場キャラ

リベル:主人公。戦闘狂。 アマネ:赤い尻尾が可愛い。天真爛漫。 クルルシア:銀の尻尾が可愛い。ツンデレ。



 ジャイアントオーガは近づけば近づくほどに大きく見える。

 その身長はリベルの軽く三倍はあろう。あんなのがいたら、転移門が塞がれてしまうのも無理もない。


 ジャイアントオーガは付近にいた冒険者をあらかた打ち倒し、街路を悠々と歩いてくる。それを見て、逃げ出す冒険者も少なくない。


「さあ、相手をしてもらおうか」


 リベルは狙いを定めると、一気に駆け抜ける。

 そして敵の懐へと潜り込むと、剣を叩き込んだ。


 ガキィン!


「くっ……硬いな!」


 剣は皮膚をわずかに傷つけるばかり。致命傷にはほど遠い。

 そしてジャイアントオーガは今の一撃で彼の存在に気がついてしまった。


 右足を後ろに軽く引く。蹴りを放つつもりのようだ。

 巨体ゆえに動きはさほど早くない。


 蹴りが放たれてもなお、リベルには余裕があった。

 ――躱せる。


 巨体だからこそ、繊細な動きはできない。

 リベルは敵の動きをしかと捉えてタイミングを見計らう。


 彼が足に力を込めた直後――


「ぐはっ!?」


 いつの間にか、彼の体は宙に舞い上がっていた。

 遅れてすさまじい衝撃に気がつく。彼の口からはごぽっと音を立てて血が噴き出した。


「リベルくん!」


 アマネが叫び、クルルシアが作り出した銀の板を足場に跳んでくる。

 受け止められつつ、リベルは敵を睨む。


「なにが……起きた」

「わからないよ。いきなりオーガの攻撃が見えなくなったと思ったら、リベルくんが吹っ飛んで……」

「100S階層の連中は、時間をも制御できるという話は本当だったのか」

「だったら、勝てっこないよ。逃げようよ」

「そんなわけにいくか。ちょうどいい相手が現れたんだ。ここで乗り越えていかなくてどうする……!」


 リベルは闘争心を剥き出しにしつつ、ジャイアントオーガを観察する。


 他の冒険者を蹴散らす様子から見るに、その能力は一瞬しか使えないようだ。まだ100S階層の魔物でも、ランクが低い方なのかもしれない。


 ほんの一瞬だけ、攻撃の際に見えなくなる瞬間がある。

 そこで能力を発動させているのだろう。連続して使っている気配はない。


「敵の攻撃を一発、なんとか耐える。そして反撃する」

「……リベル! 無茶よ! あんなのもう一発も耐えられる体力、残ってないでしょ!?」

「だからクルル、頼む。俺を守ってくれ」

「もう、無茶言って……! どうせ止めても聞かないんでしょ?」

「ああ。よくわかってるじゃないか」


 泣きそうな顔になるクルルであるが、幾度も修羅場をくぐってきている。

 ぐっと杖を握ると、ジャイアントオーガを睨みつけた。


「一発だけだからね。それ以上は持たないから」

「ああ。それでいい」

「本当に……馬鹿なんだから」

「アマネも頼む」

「おっけー。なにすればいい?」

「目くらましを。俺が敵に近づくために」

「任せて!」


 策が決まったときには、もうジャイアントオーガは間近に迫ってきていた。

 どこかで時間を操ったのだろう、想定よりも距離は近い。

 明らかにリベルを追撃しようとしている。


「せっかちなやつめ」

「リベルくんが言うこと?」


 アマネに呆れられつつ、リベルは動き出す。

 先ほどの攻撃を受けたせいで、体はまだ痛んでいる。だが気合いは十分。剣も一発振れればいい。それが当たらなければ、反撃でやられるだけなのだから。


 もはや美しかった家々は崩れ、周囲に隠れる場所はない。

 すっかり見晴らしがよくなり、どこからでも見えるようになった彼らを、オーガや冒険者たちは遠巻きに眺めていた。


 そして――


「グガァアアアアアアア!」


 ジャイアントオーガの拳が迫る。

 その直後、わずかな魔力の揺らぎが感じられる。時間の制御の前触れだ。


「リベル!」


 クルルシアは杖を掲げると、銀の盾を生み出した。

 それが彼とジャイアントオーガの間に入り込むや否や、甲高い音が響いた。


 続いて赤々とした炎が舞い上がる。それはリベルの姿を隠し、オーガの目を眩ませる。


「行って!」


 アマネの声を受けて、リベルは駆け出した。

 一瞬にしてジャイアントオーガの背後に回り込み、跳躍。首へと狙いを定めると、瞬間的に魔力を高めた。


 彼の周囲が歪むほど高密度の魔力が、剣身に絡みついていく。

 ぞっとするほど強く、禍々しいほどに濃く輝きを増していく。


 そして――


「せぇい!」


 勢いよく剣が放たれると、魔力が刃となって襲いかかる。

 ジャイアントオーガの首に食い込むと、血を噴き出させながら突き進んでいく。


「グォオオオオオ!」


 断末魔の悲鳴が上がる。

 魔力の刃は薄く小さくなりながら、オーガの首を抉り取る。その先端がなかばほどを過ぎて脊椎を分断したところで、ふっと消え去った。


 首はほとんど落ちたも同然。

 もはやジャイアントオーガの命はあと幾ばくか。


 リベルが勝利を確信するや否や、ジャイアントオーガの首がぐるりと振り返った。その衝撃で完全に首は落ちて地に転がり落ちるも、体のほうはその一瞬でリベルへと狙いを定めている。


「リベルくん!」

「リベル!」


 二人の声が響く中、リベルは迫る拳を見据える。


 空中ゆえに、うまく移動して回避するのは不可能。剣で凌ぐのも無理だ。すでに剣身はぼろぼろになっているし、逸らすのも力の差がありすぎる。


 一発受けて耐える。無理だ。ヒビの入った骨が砕け散るだろう。


 じっと待っていれば、なすすべもなく死がやってくる。

 この状況を打破するには――


「やるしかないよな。さあ、やってみせるんだ」


 自分を鼓舞しながら、リベルは意識を集中させる。

 直後、彼の姿がかき消えた。ジャイアントオーガの拳は空を切った。


「リベルくん、どこ!?」

「こっちだ。助けてくれ!」


 先ほどまで彼がいた場所よりもずっと下方で、彼は落下していた。

 アマネは急いで駆け寄ると、リベルをキャッチする。ジャイアントオーガの追撃を気にするが、巨体はもはや倒れ込むことしかできなかった。


「リベルくん、なにしたの?」

「ただ落下しただけだ」

「ええ……」

「ちょっとだけ、時間は早めたんだけどな」


 体がうまく動かなかったから、時間だけを早くして落下したのだ。それにより敵の攻撃を躱したと言うことである。


「ぶっつけ本番で、成功させちゃうなんて……」

「すごいだろ?」

「うーん、そうなんだけど……」

「リベルの馬鹿! すごい馬鹿よ!」


 走ってくるクルルシアは何度も何度も暴言を吐く。

 ちょっぴり涙目になりながら。


「でもまあ、なんとか成功しただろ」

「しなかったらどうするつもりだったの!」

「さあて、これで俺も100Sランクの仲間入りか」

「そうやって、すぐに話を逸らそうとするんだから」

「逸らそうとしてるんじゃなくて、リベルくんはそれしか頭にないだけかもしれないよ」

「まあな」

「威張るんじゃないの! まったく!」


 そんな戦いの余韻に浸っている間にも、残るオーガは冒険者たちによってすべて打ち倒されていた。


 ジャイアントオーガさえいなければ、倒すのは造作もない。


「さて、帰りは転移門を使おうか。魔導車は壊れちまったからな」


 そう思って、そちらに視線を向けると――


 バキ、ゴキゴキ。


 音を立てて、現れる存在がある。

 ジャイアントオーガが一体、二体……その数は十を超えてなお増え続ける。


「はは……そりゃ渋滞するわけだ」

「どうするのリベル!?」

「逃げよう、さすがにこれは無理だ」


 彼らは市壁に向かって走り出すが、敵はどんどん近づいてくる。


「逃げ切れないよ! どうしよう!?」

「冒険者たちが援護してくれりゃ……ああもう、全員逃げちまったな」

「もう、なんとかしてよリベル!」

「そう言われても……走るのですら精一杯なんだが」


 もはや満身創痍で、戦う気力も残っていない。

 いや、それは嘘だ。気力だけは十分すぎる。本音を言えば、あれらすべてと戦いたいくらいである。

 が、いかんせん体がついてこない。残念ながら。


 ひたすら足を動かしている間にも敵は増え続けて、今やその数は百を超えている。

 あんなのに占拠されたら、いったい誰が手出しできようか――。


 リベルがそう考えた直後、まばゆい光が生じた。

 それはすべてのジャイアントオーガを包み込んだかと思えば、敵の姿は跡形もなく消え去っていた。


 なにが起きたのか。

 ただ一つ明らかなのは、さらなる強い存在がやったということ。

 こんな状況だというのに、リベルの胸は高鳴っていた。


「リベルさん、お久しぶりですね」


 柔らかな声音には聞き覚えがあった。


「ミレイか」

「ピンポン! ご名答です!」


 軽い口調のミレイは、いつしかリベルの前に来ていた。


「お手合わせの約束、果たしに来てくれたと見ていいだろうか」

「ぶー。ハズレです。まだまだリベルさんは未熟ですからね」

「そうか。後の楽しみに取っておこう」

「ふふ、追いかけられるのも悪くないですね」


 ミレイがわざとらしくはにかむと、クルルシアが口を尖らせる。


「ちょっと、リベルを唆さないでよ」

「あら、リベルさんが自主的に追いかけてるだけですよ」

「この女狐……!」

「あの、私もあなたも狐なんですが」

「あたしも!」

「おいおい、喧嘩するなよ」

「リベルのせいでしょ!」

「リベルさんのせいですね」

「リベルくんが悪いね」


 一斉に三人に見られて、リベルは口を閉ざした。

 もうなにも言わないでおこう、と。


 が、そう思ったのも束の間、好奇心に負けた。


「ミレイはこのジャイアントオーガを退治しに来たのか?」

「違いますよう。私はもっと上の階層にいるので、本来はここに来ることはないんですよ。ちょっぴり休暇ができたので、リベルさんの様子を見にきたら、困っていたみたいなので助けてあげました」

「なるほど。それは助かった」

「いえいえ、どういたしまして」


 ミレイはにっこりと微笑むと、くるりと背を向けた。


「それじゃあ、私は行きますね。忙しいので。こちらとは時間の流れが違うので、あんまり長居はできないんですよ。リベルさん、もっと強くなってくださいね」

「あ、ちょっと――」


 クルルシアが呼び止めるや否や、ミレイの姿は消えていた。


「……なんだったのよ」

「もう少し有意義な質問をすればよかったな」


 リベルは呟きつつ、ミレイを思い浮かべて「いつかその高みに辿り着いてみせよう」と気合いを入れるのだった。


 やがて転移門が正常に動き出すと、近くの町から続々と応援がやってくる。

 が、すでにジャイアントオーガは消し飛ばされてしまった。だからぽかんとするばかりである。


「さあ、次は100Sランク階層だ。楽しみだな」

「もう、リベル! 私たちはまだなんだけど」

「仕方ないな。ちょっとだけ待ってやろう」

「リベルくん、いい気になってるなあ。すぐに追いついちゃうんだからね!」


 賑やかな彼らは戦いの余韻を楽しむ。

 その数日後、彼らは新たな階層へと進むのだった。

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