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17 60Sランクオーガ

前回のあらすじ

都市を占拠するオーガを倒しに来た。


登場キャラ

リベル:主人公。戦闘狂。 アマネ:赤い尻尾が可愛い。天真爛漫。 クルルシア:銀の尻尾が可愛い。ツンデレ。

 冒険者たちが剣を振るうたびにオーガは血を噴き出し、鬼が手にした石柱を振るえば男たちの骨が砕ける。


 両者が対峙する中、リベルとアマネ、クルルシアの三人も一体の鬼を前にしていた。


「捕まるなよ」

「リベルくんこそ。無理して突っ込まないでね」

「彼にそんな期待するほうが間違ってるわ」

「確かに、そうかも」

「……わかってるさ。気をつければいいんだろ」


 リベルは一足でオーガとの距離を詰めると、相手はひねり潰そうと手を伸ばしてくる。武器はなく無手のまま。


 握り潰すつもりだろう。


 片手で握り潰せそうなほどの太い腕を目にしつつ、リベルはギリギリまで引きつけ――


「ふっ!」


 オーガの腕が伸びきるタイミングで地を蹴った。

 風が胸先を掠めていくと同時に剣を振るい、敵の腕を走らせ、赤い筋を作っていく。


「グォオオオオオ!」


 鬼が慌てて手を引き、懐に入ろうとするリベルから距離を取ろうとする。

 が、そのときにはアマネが背後に回り込んでいた。


「行くよ!」


 手にした二振りの剣は炎を纏って目立つとともに、華麗な軌跡を描く。

 舞うように弧を描き、炎が踊る。強靱な肉体は一瞬にして焼け焦げ、皮膚は黒く変化する。


 オーガが仰け反り、リベルが剣を叩き込む。

 動かなくなったところへ――。


「とどめよ!」


 クルルシアが杖の先端を向けるや否や、銀の粒子が放たれた。

 それは一カ所に寄り集まって槍を形作ると、鬼の顔面に襲いかかった。


 パァン、と音がすると、銀の槍は粒子となって付近に飛び散っていく。そこには血肉が混じっていた。


 オーガの頭部はなくなり、胴体がゆっくりと倒れていく。


「これより城壁に移る。さあ、敵を追い出すぞ」


 すでに冒険者たちの中には、壁にひっついている者もいる。

 だが、オーガは上から巨岩を投げつけてくるため、ゆっくりとよじ登っていたものは、岩に落とされ、地上で押し潰されてしまっていた。


「支援するわ。先に行って、市壁の上を確保してくれる?」

「ああ。俺が――」

「あたしが行くよ。この中で一番、早いでしょ」

「頼む」

「任せて!」


 市壁が近くなると、クルルシアが杖を振り、銀の粒子が集まってくる。それはさっと壁の間近まで移動すると、薄く広がって、いくつもの足場を作り上げた。


 アマネはしなやかな動きでその上を飛び移っていく。市壁の上のオーガが狙いを定めるなり、


「させるかよ!」


 リベルは剣に魔力を集め、一気に解き放つ。

 透明の刃は勢いよく風を切りながら、アマネを睨んでいたオーガの腕を切り裂いた。


「グオアアアアア!」


 距離があるため、腕を落とすには至らない。

 だが、その一瞬だけ隙ができた。アマネにとって、それだけで十分。


 彼女はさっと市壁に飛び移ると、オーガの背後に回り込んだ。


「えいっ!」


 後ろから剣を突き刺し、慌てて仰け反ったオーガを蹴飛ばし、市壁から巨体を突き落とす。


 そして付近が空いた直後、剣をくるりと回した。


 炎がそれにともなって撒き散らされ、彼女の近くは誰もが近づけなくなる。


「リベルくん!」

「よし、行くか!」


 彼はクルルシアを抱きかかえると、一気に跳躍。

 足場を飛び移り、炎を飛び越えてアマネのところへ。


「……お姫様抱っこだ!」

「迎えの言葉がそれかよ」

「えっと……リベルって、たまに大胆なところがあるから……」

「なんの話だ」


 リベルは呆れつつ、視線を右に左に動かす。

 アマネの張った炎の勢いが落ちると、オーガがじりじりと詰めてきている。


 都市の内部には、あまりオーガは見られない。


「こいつらを片づけて、あとは隠れているやつらを仕留めれば終わりか」

「転移門を使えるようにしないとね」


 なんらかの理由で使えなくなっていたが、都市の中心にある建物は健在だ。

 大規模な破壊を受けたとは考えにくい。ならば、比較的早く復旧させることもできるだろう。


「リベルくん、急ごうよ。一番乗り、ほかの人に取られちゃうよ」

「これ、そういう依頼じゃないからな」

「二人とも、まずはこっちを睨んでいる鬼を見てくれないかしら?」


 市壁の左右から、二体のオーガが迫ってきている。


「よし、じゃあクルルは盾を張って防いでくれ」

「持つのは少しだけよ」

「すぐに切り伏せるからそれでいいさ」


 クルルシアが銀の粒子をかき集めて広げ、一体のオーガが見えなくなる。

 途端、リベルは駆け出した。


 一気にオーガとの距離を詰め、


「食らえ!」


 剣に魔力を纏わせ一振り。


「グォオオオオオ!」


 たったの一撃でオーガの胴体は切り裂かれ、深い傷を作っていた。


「足りないか。これくらいで届くと思ったんだが……」

「調子に乗らないの」


 アマネは彼の隣から飛び出すと、剣を傷口に突き刺す。

 次の瞬間、一気にそこから炎が噴き出した。


 中から焼かれたオーガは、口から煙を吐き出しながら倒れていく。


 同時、クルルシアの銀の盾がガンガンと音を立てる。

 リベルとアマネは急ぎ、そちらに駆け出した。


「もう持たない!」

「十分だ!」


 オーガが壁を突き破り、吠えたとき、リベルとアマネは勢いよく跳躍していた。

 敵の頭上に躍り出た二人は、すでに狙いを定めている。


 魔力を高めた剣を一振り。


「今度こそ!」

「やぁっ!」


 二つの軌跡が敵を断つ。

 オーガは勢いのまま、滑り込んでいく。


 クルルシアはパッと距離を取ると、目の前で鬼の頭が動きを止めた。もう、動くことはない。


「これで近くの個体の討伐は終わりだ」

「冒険者たち、すでに転移門のところに向かっているけれど、私たちはどうするの?」

「行こうよ、ほかにやることもなさそうだし」

「ああ。そうするか――」


 意見がまとまり、皆がそちらに視線を向けた直後。

 ドォン、と大きな音が響く。転移門のある建物が破壊され、近くにいた冒険者ががれきの下敷きになっていた。


 そして現れたのは――。


「でかいオーガが出てきたよ!?」

「ジャイアントオーガか。あれは……100S階層の魔物じゃなかったか?」

「なんでこの10S階層に……まさか、転移門を通ってきた!?」

「だとすれば、転移門が使えなくなっていた理由は」

「あいつが占拠してたからってこと?」

「一体だけじゃないかもしれない」

「そうだとすれば、厄介ね。勝てない可能性のほうが高いわ」


 クルルシアが冷静に告げる中、リベルは気持ちを落ち着けていく。

 ランクが一桁上がると、力の差は歴然とする。彼もそのことがわからないわけではない。


「だが、退く道理もない」

「……もう、ほんと馬鹿なんだから」

「そう言いつつ、クルルちゃんもやる気だね」

「放っておくわけにいかないから。仕方なくだからね」

「リベルくんが心配なんだね。ひゅーひゅー」

「……茶化さないでくれる?」

「おっけー。真面目な愛なんだね」

「そういうところよ、まったく……」


 ため息をつくクルルシア。尻尾を揺らしながら、悪戯っぽい顔のアマネ。

 そして……。


「行くぞ。気を引き締めろ!」


 リベルは市壁から飛び降りると、暴れ回り冒険者を潰していくジャイアントオーガへと走り出した。


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