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12 15Sランク剣聖

 昼下がり、リベルは鍛冶屋を訪れていた。


「……というわけで、折れてしまった。申し訳ない」


 戦いの中で折れた剣を店主はためつすがめつ眺めていた。


「何人もの冒険者がこいつを使ってきたが……折れるのは初めてだ。あんたの力、もう20Sランクくらいあるんじゃねえか」

「どうかな。一撃に集中しただけだから。剣の代金の支払いについてだが、少し待ってほしい。素材の買い取りが終われば全額――」


 話すリベルを店主は遮った。


「そいつは構わん。折れたのは、剣の力が足りなかったからだ。俺があんたに見合うものを進めなかった責任でもある」

「しかし……」

「それなら、代わりに頼みを聞いてくれ」

「頼み……?」

「ああ。俺たちは10Sランクの次の階層とはほとんど交流がない。向こうに行ったやつらは、滅多に戻ってこないからな。そこで、なにか余った剣の素材があれば、持ってきてほしい」

「わかった。いいものを買ってこよう」

「いやいや、そうじゃねえんだ」


 店主は慌てて手を横に振る。


「上の階層となりゃ、俺たちの手が出せない額になる。貨幣もまた、別のものが使われるようになっている。だから、そんなんじゃなくていい。あんたがもっと上に行くとき――いらないと捨てるものがあれば、持ってきてくれ、という程度の話だ」


「わかった。できるだけ早くそうなるよう、心がけよう」


「律儀だな、あんた。……俺は上の階層に行けなかったが、一度でも10Sランク以上の剣を作れたら、未練もなくなる」


「期待していてくれ」

「ああ。……そうだ、100Sランクの素材を持ってきてもいいぞ」

「そいつは大分あとのことになりそうだ」

「俺の寿命もあと何十年もある。いくらでも待つさ」

「一年以内に到達するさ」

「言うじゃねえか」

「あんたが言ったんだろ。俺なら上の階層に行けるって」

「おう。期待してるぞ」


 お互いに少し話をしていると、アマネがやってくる。


「お話、終わった?」

「ああ。それじゃ、失礼する」


 リベルはアマネとともに店を出る。


「ねえリベルくん。ふと思ったんだけど、上の階層で祝勝会をしたらどうかな? そのほうがおいしいものも食べられるかもしれないよ」

「そうかもしれないが……金が払えるだろうか?」

「あのカエル次第ってことね」

「それに、向こうに行ってからも装備を整えないといけない。俺はもう剣すらないんだ」

「あー……やっぱり、こっちでお祝いしよっか」

「そうしてくれると助かる」


 それから二人は、冒険者ギルドに赴く。


 もうそろそろ、カエルの販売手続きが終わる。

 そしてリベルの新しい登録ランクの結果も出る予定だ。


 カランコロンと鈴の音を鳴らしながら、ギルドに足を踏み入れると、


「お待ちしておりました」


 と、職員がやってくる。


「今、お時間よろしいでしょうか?」

「ああ。構わない」


 別室に案内されると、早速


「結果をお伝えしてもよろしいでしょうか」

「ああ」


「まずは素材の買い取りについてですが、10S階層における貨幣でのお支払いをご希望とのことで手続きを進めております」


「承知している」

「すでに買い手はついておりまして、数日のうちにお伝えできるかと思います」

「ありがとう。助かる」

「いえいえ。……次に、冒険者としての登録ランクの結果ですが」


 職員はすっと紙を差し出してくる。


「……15Sランクか」


「はい。討伐対象が18Sランクと認定され、実績と魔力判定の結果から算定されました。こちらに関して訂正が必要な場合は、再度確認いたします」


「いや、十分だ。10S階層に行って腕を磨けば、また判定の機会もあるんだろう?」

「はい。冒険者ギルドでいつでも行えます」

「了解した」

「続きましてアマネ様ですが、暫定的に10Sランクと認定されました」


「そーなんだ」


「討伐結果から魔力制御の達成は確認されておりますが、現在の魔力が不安定であるため、今後の結果によっては変動する可能性がございます」


「それで……上の階層には行けるの?」


「移動に関しては問題ございませんが、一ヶ月後に再度受けていただき、その結果が9Sランク以下の場合は、10S階層における諸々の待遇を受けられなくなる可能性がございます」


「それなら大丈夫。すぐにもっと上に行くから」

「かしこまりました。では、これでご報告を終わらせていただいてもよろしいでしょうか」

「はい」

「では最後に、一つお知らせがございます」


 職員は真面目な面持ちになった。


「……あの魔物は本来、上の階層にいるものです。Sランクの階層における魔物でも、成長して10Sランクになる個体もいるにはいるのですが、数は非常に少ないです。あそこまで成長する前に、発見されることが多いのですが……」


「なにもこの世界のすべてを把握しているわけでもないんだろう?」


「はい。しかし、この周辺はほぼ把握しています。辺境の地でしたら、あり得ることではありますが……」


「なるほど。あいつの出自は不明か」


「はい。……なんにせよ、異例の事態なのです。まだ調査中のことも多く、あの魔物のことはあまり公言しないほうがよろしいかと思います」


「わかった。気をつけよう」


 そこで話はいったん終わり、二人は冒険者ギルドを出て、街の中央に向かっていく。

 賑やかな街並みを眺めながら、ゆっくりと。


「……この街とも、もうすぐお別れだね」

「ああ。本当に短い間だった」

「寂しい?」

「これだけの期間では、寂しいと思うほどの情も湧かないさ」

「そうだね。次の街だと、どうなるかな」

「桁が上がるほど、ランクは上がりにくくなるそうだ。何週間かは、滞在できるんじゃないか」

「大きく出たね。長居するつもりはないって」

「天辺を取る。いつまでもグズグズしていられないさ」


 リベルが笑いかけると、アマネも応える。


 そうして二人でやってきたのは都市の中央。

 非常に大きな建造物があった。


 門番たちが多く見守る中、二人は冒険者証を見せる。


「数日後、上の階層に移動する予定なんだ。見学してもいいかい?」

「どうぞ」


 中に通されると、いくつかの手続きを経て、一つの部屋に案内される。

 そこにあるのは巨大な門。ただし、門扉はなく、枠組みだけが存在している。


 転移門。都市と都市を移動するだけでなく、次の階層に移動するためにも使われる代物だ。


 魔力に反応して、空間同士を繋げる効果があるのだとか。


 リベルが眺めていると、職員が声をかけてくる。


「……もうそろそろ、次の移動時間となりますので、退室をお願いします」


「すまない。行こうか」

「うん。今晩はおいしいご飯を食べようね」

「まったく、そればかりだな」


 リベルは笑いながら、アマネと部屋を出る。


 次は10Sランクの階層だ。きっと、また新しい世界が広がっているに違いない。

 彼はさらなる冒険に、胸を躍らせた。


これにて第一部完結です。

ありがとうございました。

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