鎧との別れ
気を失っていた黄柏はわき腹の痛みで目が覚める。
非常用として持っていた鎮痛剤を口でかみ砕くと10分ほどで効いてくる素晴らしい品物だ。
上級指揮官しか配布されていないのであまり自分の地位に興味のない黄柏も少しは自分の地位に感謝した。おそるおそる傷口を確認すると、ざっくりやられていたはずだったが透明のシートのような物で覆われていた。
そのシートのおかげで出血も止まっていた。
黄柏は驚きながらその傷口を何度も確認していると、目の前のモニターが突然光りだす。
コアを破壊されている為自分が乗っている鎧はほぼガラクタだと思っていた。
『黄柏、起きた?』目の前のモニターに文字が映し出された。
黄柏が混乱していると
『あっ、ごめん、ごめん。実は黄柏の鎧ってダブルコア搭載していた鎧なんだよね』
黄柏の表情を読み取ったもう一つのコアが話しかける。
『そんなに不安そうにしないでよ。実はこの鎧、俺が作ったんだ』
「君は鎧を作れるのか?」
モニターに表示された文字に思わず反応した黄柏だった。
『ん~正確には俺が設計して部下達が作成したって感じかな。で、こっちにも色々あって保険としてもう一つコアを搭載したんだ』
「保険?」
『本来ならこのコアは起動しないはずだったんだ。他の鎧よりちょっと重量があってごめんねって感じで終わる予定だったんだけど、こっちが緊急事態になって起動したんだよね』
「なにかあったのか?」
『そっ。このサブコアシステムが起動したって事は、俺は意識不明の状態ってことなんだ』
「意識不明?」
『ほら、黄柏と一緒で誰かに命を狙われたんだろうね~。なおかつ、このシステムが動いてるって事は俺はまだ死んではいない状況ってこと。部下の誰かが匿ってくれているとみた!』
モニターに映し出される文字は追い詰められている割に楽観的な文章に見えた。
「・・・。君はこれからどうなるんだ?」
『このままだったらもちろん俺の生命維持は厳しくなるだろうね。でも、このサブコアが駄目になるってことは無いからそこは心配しないで。本来のコアの状態になるだけだから。味気ないシステムに逆戻りになるだけ』
「そうか・・・」
『でも、でもね、黄柏が俺の体を見つけてくれたらお礼に新しい鎧をプレゼントするよ!』
「新しい鎧?」
『そう、黄柏が今乗っている鎧は残念だけどもう使用することができない。』
「そうなのか?」
『君の肩の右側についていたやつでエネルギーを作っていたんだよね。だからネームドは型番が乗っているんだ。左側も同じ物があるけど、緊急用で備蓄はできるけどエネルギーを作り出すことはできないんだ。その備蓄用も黄柏の緊急医療で使っちゃったからほぼ残量ゼロだな。』
「じゃあ、もう君も動かないのか?」
『えへん。俺を誰だと思っているんだ。この天才鎧作成者がそんなドジっ子なわけないだろう!』
目の前のモニターの個性が強く黄柏は独り言を言っているのを忘れてしまう。
『今から表示することをよく確認してから実行してね。まず始めにこの頭部の鎧を外します。そして、左側に耳にかける用のイヤフォンがあるから取り外す。次に壊されたコアの反対側に端末があるからそれを取り外してほしい。その端末が俺の正体だな!』
黄柏はモニターの文字を読みながらフムフムと頷く。
『この端末を鎧から外すと、鎧は完全にただの塊になっちゃうんだ。だから鎧にある必要なものを全て持ち出してから俺を外してくれよな!』
「分かった」
黄柏はサブコアの言う通りに、頭部の鎧からイヤフォンを取り出し、非常時用に搭載されていた人用の荷物を取り出した。それらをまとめて入れらるようの普通の鞄もあったのに一つにまとめ詰め込んだ。
『アーアー、音声テスト中!黄柏、聞こえる?』
黄柏が着けているイヤフォンから機械音のような声が聞こえる。
「ああ、大丈夫だ」
『必要なものは全て鎧から下ろしたね?』
「ああ」
『じゃあ、俺を外してくれる?』
機械音だと分かっているが、その声は少し震えているように感じた。
「分かった」
黄柏は指示されていた場所を確認するとスマートフォンぐらいの大きさの端末が搭載されていた。
よくよく見ないと端末だと認識できなかった。
「じゃあ、外すぞ」
『うん!思い切りやっちゃって!』
黄柏がその端末を引き抜くと幾つもの線が繋がっていた。
「これはどうするんだ?」
『大丈夫、この鎧との接続部だからそれに端末も異常なし!思いっ切り引き抜いて!』
サブコアの音声と同時に黄柏は端末を鎧から引き抜いた。
パチン、パチンとプラスチックが割れる音がする。黄柏は少しドキリとしたが
『機体番号【D34C2C】との分離を確認、これよりこの端末名を【D34C2C】(仮)と認証します』
「かっこ仮?」
『やった!成功したよ!設計図上では可能だという事は分かっていたんだけど、テストをする時間が無くてちょっと賭けだった部分もあるんだ!』
【D34C2C】(仮)は少し不服そうに黄柏に返信した。
『かっこ仮は仕方ないだろ。本家は持っていかれたんだから』
「それは・・・。すまない」
黄柏は双子の弟の薙華を思い出し胸が苦しくなった。
『かっこ仮は俺も嫌だから・・・。黄柏、君が名前を付けてよ!』
「名前?」
『そう。俺と俺の体が感動の再会を果たすまでの間の名前』
「名前・・・か」
黄柏は少し考えた後
「幾羽はどうかな?」
『幾羽、刹那な名前だね。うん。俺たちの関係にぴったりだ!』
『端末名称【D34C2C】(仮)から幾羽に変更完了しました。』
黄柏はその状況を端末で確認していた。
そして、さっきまで乗っていた鎧を少し離れたところから確認する。
長年相棒として乗り込んでいた鎧をこんな形で手放さなければいけないのがとても悲しかった。
端末はしばらく沈黙していたが
『できるよ』
音声ではなく端末に文字が現れる。
『黄柏、機能停止の鎧をいつも見送っていたもんな。』
と表示された後、端末からコマンドが流れるように表示された。
すると、目の前の鎧が黄柏に向かい祈るような形になる。
「!!!」
言葉にできない黄柏はその鎧をぐっと見つめた。
『これやると、師匠におこられるんだけど・・・。仕方ないか』
今度は音声の方で黄柏に話しかける。
しばらくすると端末の方から再びコマンドが流れるように表示されると最後に
『OK or Cancel』の文字で止まった。
『OKを押せば鎧とバイバイさ。Cancelを押せば次に見つけたやつに強奪される。どうする?』
黄柏は小さく息をつくと、迷わずOKボタンを選んだ。
『まっ、そうだよね。 機体廃棄システム可動します。』
その言葉をきっかけに目の前にある鎧は砂の様にサラサラと朽ちていった。
そして、小さなかけらが集まり小山を作っていたが風に煽られハラハラと舞い跡形もなく消え去った。
その時に、かけらが目に入ったのか黄柏の瞳から涙が少しだけ流れていった。
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