裏6話 サプライズ&リクエスト② 高一 クリスマス
「三五からのお願い!? なになに!? 何でも言ってよ!」
お願い事があると言った瞬間、湖宵の顔が輝く。
この様子なら、少しくらい無茶なお願いをしても聞いてもらえそうだ。
湖宵のキラキラお目々を見つめつつ、思い切って言う。
「キス、させて欲しいんだ」
「うえぇぇぇ~っ!?」
オレが言っているのは勿論、ほっぺにチューとかではなく、唇と唇でする恋人同士がするヤツだ。
そう! 完全に言い訳出来ない方のキスだぁぁ!
わかってる! 卒業するまではオレと湖宵は単なる幼馴染みで、友達同士でいなければいけないことは!
でもね。今年の後半にかけて、オレにとって厳しい出来事がちょっと色々とあった。風評被害とか。
確かに気にしないとは言ったけれども、あまりにもエロいやらスケベやら言われ続けて、地味に心が削られているんだよ!
なので今年最後の思い出として湖宵と聖夜のキスを交わし、終わり良ければ全て良しとしたい。
ダメで元々という気持ちでおねだりしてみた。
「あのぉ……三五ぉ……ボクとキスしたいから、こんなに素敵なプレゼントを用意してくれたの?」
「正直、そういう意図もちょっとある」
やっぱり困らせてしまったかな……っておや?
湖宵が何やら両手で顔を覆いつつ、プルプル震えている。
「三五カワイィ~ッ! キュン死しそうぅ~っ! ンアァァ~ッ!」
おおう。湖宵が悶えだした。どうやら乙女の琴線に触れてしまったようだ。
「子宮が! 存在しないハズの子宮が疼くぅ!」
「幻視疼!?」
カーペットの上をゴロゴロ転がる湖宵!
「ボクも三五とキスしたいっ! いっぱいいっぱいしたい! でもぉ! ボク男の子なんだよぉぉ!?」
「や、やっぱりダメかな?」
「ううぅ~っ! でもでも! さ、三五にお願いされたらぁぁ!」
どうしよう。こんなに苦悩させてしまうとは予想外だ。
「い、いつも、三五には我慢させちゃってるし、ボクのせいで学校で色々と変な噂を流されちゃってるし……」
「ち、違うよ! 湖宵は何も悪くないんだよ!」
グルグルと目を回しながら、悪い方向に思考を巡らせてしまっている湖宵。
このままではいけない。
無理はしなくて良いんだよ、と言おうとしたその瞬間。
「だから……えっと、えぇっと。い、今だけ……ほんの少しの間だけ、ボクが女の子になって、その間だけ限定でキスOK……とか、どう、かな?」
湖宵がちょうど良い妥協点を見い出してくれた! 聖夜の奇跡!
「ありがとう湖宵! ホラ、オレの胸においで!」
「さ、三五ぉ~っ!」
ぴょ~んと飛び付いてくる湖宵を、ぎゅうっと力一杯抱き締める。
「三五。ボクを……ううん。わたしを、いつも大事にしてくれてありがとう」
「湖宵。オレの側に居てくれてありがとう」
同じタイミングでオレと湖宵は唇を重ね合う。
チュッと吸って離して、また重ね合わせる。何度も何度も繰り返す。
抱き締め心地も、唇の感触も、女の子のそれとは違うけれど。オレの身体の芯がじんわりと熱くなりカーッと頭に血が昇ってくる。久し振りだな、この感じ。
だがまだ足りない。も~っとちゅ~しちゃうぞ。
「ちゅうぅぅっ♡ ぷはぁっ♡ さ、さんご♡ ひさしぶりなのに、は、はげしすぎりゅよぉっ♡ うぅぅ~♡ アタマおかしくなりゅぅぅ♡」
ありゃりゃ。湖宵の身体はじんわりどころか、既にホッカホカに発熱してしまっている。
オレ的には物足りないくらいだったけど湖宵的には刺激が強過ぎたみたいだな。
「ごめんね、湖宵。よしよし。湖宵があんまり可愛いから我慢出来なかったよ。次はもっと優しくするね」
「し、しゃんごぉぉ♡ あっ、あっ♡ 男の子なのにお姫様扱いしてもらえるのちょ~イイ♡ 脳から何かがジュワ~ッて出てる♡」
「可愛い湖宵、ホラ、目を閉じて」
「あっ♡ あっ♡ あっ♡ …………んっ♡」
………………………………。
「あ~っ! お坊っちゃまがオンナの顔してる!」
階下に下りてきたオレ達を見るなり、メイお姉さんがそう叫んだ。まあ無理もない。だって……。
「ふわわわわん……♡」
だって湖宵ってば、悦楽に浸りきったトロトロ顔をしているんだから。その目は虚ろで心ここに有らずだ。
「イヤらしい~っ! もうっ! アンタ私の義娘に何してんのよっ!」
湖宵を抱き締めて、オレから遠ざけようとする母さん。
「ああっ。三五さん、とてもスッキリした晴れやかな顔してる……。三五さんが嬉しいなら私も嬉しい……。でも何? このほろ苦い感情……? ヤダ、癖になりそう……」
切な気な表情でオレを見つめ、両手をぎゅっと固く組んでいるアンお姉さん。
「うふふ~♡ 男の子同士でナニしたのかしら? 三五ちゃんの利かん坊さん♡」
そしてニヤニヤ笑いしつつ、煽って場の空気を掻き乱そうとするメイお姉さん。
ヤバい。このままでは学校のみならず家庭でも針の筵に座ることになってしまう。
かくなる上は……!
「はい、母さん。メイお姉さん。アンお姉さん。メリークリスマス♪」
満面の笑みで女性陣にプレゼントを手渡す。
題して 「クリスマスプレゼントで全てをうやむやにしてしまおう作戦」 !
ちなみに中身はハンカチにクリスマスカード。湖宵のプレゼントに張り込みすぎてしまったので、これがオレの精一杯です。
「わぁ~♡ 三五ちゃんありがとう♡」
「きゃ~っ♡ 三五さんっ♡ 私、一生ファンでいますぅぅ♡」
「ウチの息子ってば、色んな意味でヤラしいっ! でも嬉しい……く、悔しいっ!」
喜んでもらえて何より。さあ、これで憂い無くクリスマスパーティーが始められるね!
正気に戻った湖宵とクリスマスツリーに飾り付け。その間に母さん達はテーブルに沢山のご馳走を並べてくれる。
後はグラスに飲み物を注げば準備完了! オレと湖宵は赤葡萄ジュース。ワイン工房で作られた本格的なヤツだ。ポリフェノール! 大人達はお高めの上品なシャンパン。
各自グラスを手に取り、乾杯!
「「「「「メリークリスマース!」」」」」
さ~て何から食べようかな~。
「アハハハハ! 三五ぉ! おか~さまにシャンパン注ぎなさぁい! アハハハハ!」
「あ゛あ゛~っ! 日本が一夫多妻制にならないかなぁ! 明日あたりにぃ! そしたら私、三五さんの第二夫人に立候補するのにぃ!」
「何言ってんろよぉっ! 第二夫人はメイお姉ちゃんに決まってんれしょぉ!」
「イヤアァァ! 姉さん達ヤメテ! 今の世の中だとマジで有り得そうだから! 三五はボクだけのモノだよ! さっきもあんなに優しく可愛がってもらったしぃ!」
大人達、酒弱すぎる! 湖宵もキスのせいで酔っぱらってるみたいにテンション高いし!
結局のところ、オレも皆のテンションに引っ張られて今年のクリスマスは夜まで大騒ぎするハメになった。
ちなみに酔い潰れたお姉さん達とハシャぎ疲れた湖宵はオレの家に泊まることになり、ドサクサ紛れにオレは湖宵をベッドに引きずり込んで一緒に寝たのだった。
フフフ。もう一つおまけにクリスマスプレゼントを頂いてしまったぜ。




