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第30話 高波 三五  ほんの少しの煩悶

 オレ達を襲った四人組はその日の内に逮捕された。婦女暴行未遂ではなく飲酒運転で、だ。


 何でも運転手の脱色男は酒のミニボトルを片手に運転し、大柄男は痛みを忘れる為、髭面男は精神を安定させる為、グビグビと飲んでいたそうな。オレにスプレーで目を潰された小男はビールで目を洗ってのたうち回ったとか何とか……。


 そんな車がまっすぐ進む訳もなく、側溝に嵌まって脱輪。すぐ近くを通りがかったパトカーにソッコーで御用。


 オレはこんな馬鹿な人間が本当に存在するのか……と呆れ果ててしまった。



 明けて翌日。

 

 オレはこよいに付き添われ病院に行ってきた。

 昨日の事件の時に細々とした傷を負ってしまったからだ。


 傷自体は全然大した事はなく草で足を切ったとか、小さな打ち身があるといったところ。

 彩戸(さいど)さんに手当てしてもらったらすぐに痛くなくなった。ならば何故ワザワザ病院まで行ったのかというと……。


 「いやぁぁっ! ごめんなさい三五っ! わたしの為に……! 三五にもしもの事があったら、わたしも生きていけない~っ!」


 こよいがオレの傷を見てパニックを起こしてしまったからだ。 「このくらい平気だよ」 と言っても聞いてもらえなくて彼女に乞われるまま病院に行かざるを得ず、精密検査なるものまで受けてきた。


 結果は何も問題無し、文句無しの健康体ということでやっと彼女に安心してもらえた。


 「うううう……三五が何ともなくて本当に本当に良かったぁ~っ!」


 「もう全然痛くないし大丈夫だよ」


 「でも絶対許せないっ! あんなヤツ等、繊月(せんげつ)家の力をもってケチョンケチョンにしてやるう~っ!」


 プンプンご立腹なこよい。こんなレアなこよいもカワイイ。


 「でもアイツ等どんな処罰を受けるんだろう? またここら辺で悪さしたりしないよね?」


 オレの関心は専らそこにある。こよいを二度と危険な目に遭わせる訳にはいかない。

 今逮捕されてもいつまた野に放たれるかわからなければ、落ち着いて暮らせない。


 「大丈夫! 彩戸さんが警察に事件のことをお話ししに行ってくれたから! 繊月家の一人娘に酷い事をしようとした報いを必ずや受けさせてくれるハズよっ!」


 「う、うん。彩戸さんならビシッと文句言ってくれるよね」


 繊月家の権力で~、とこよいは言う。だけど繊月家は地元の名士といえどまったりゆるゆるな雰囲気の優しいお家だ。

 昔から親しんできたオレが言うんだから間違いない。


 例えば権力を使ってアイツ等を国外追放! みたいな怖いことをするお家ではないと思う。


 その分、優秀なお手伝いさんの彩戸さんがしっかりキッチリ家の事をサポートしている、という印象だ。


 そんな彩戸さんが後はぜ~んぶ任せておいてね、なんて言っていたので一応は一安心……かな?


 でもオレも彩戸さんに付いていかなければいけなかったんじゃ? 昨日の事件について、当事者のオレの口から語る必要があると思うんだけど。


 いつも通りの軽~い感じだったけど気を遣ってもらっちゃったな。


 「彩戸さんに迷惑掛けちゃったかなぁ、オレ」


 「な、何で!? 三五はぜ~んぜん悪くなんて無いんだよっ!?」


 「うん。オレも自分のやった事が悪いことだなんて思ってないよ」


 それは断言できる。こよいを狙おうとしたヤツがオレに撃退され、その結果どんな目に遭おうがザマア見ろ、だ。例えヤツ等が死のうがオレには後悔など微塵もない。


 そう、オレには。


 「でも……」


 社会の全ての人が同じ様に思うとは限らない。暴力は暴力なのだから。


 彩戸さんから預かった道具を用いて振るった暴力でヤツ等に重大な後遺症が残ったら。優しい彩戸さんは傷付いたりはしないだろうか? もしそんな事になってしまったら……。


 「イヤッ! 三五、そんな顔しないでっ! 三五は悪くなんてないんだから! わたしを助けてくれた王子様なんだからぁ!」


 ハッとする。


 そうだ。

 助けられた本人の前でして良い顔じゃなかった。

 こよいの前では決して、自らの行いについて思い悩んではいけなかったんだ。


 「変な顔してごめんね、こよい。オレが悪かったね」


 「もうっ! 三五は悪くな~い~のっ! わかってくれるまでむぎゅぅ~ってしちゃう!」


 おおう! こよいがオレの腕をむぎゅ~っと抱き締めてくる! というか柔らか~いモノを押し当ててくる!? 恋人同士になってコミュニケーションがレベルアップしてる!? こ、これはヤバい!


 「こ、こよいっ! あの、そんなにしたらっ!」


 「うふふん♡ こよいってば柔らか~いでしょう? くふふふぅ♡ ん~♡ ちゅっ♡ ちゅっ♡」


 妖しい目付きになったこよいが絡み付いたオレの腕にちゅっちゅとフレンチ ・ キス。あっあ~! 興奮指数測定不能~っ! 鼻血出そう~っ!


 「こよい……っ。こよいぃ……っ」


 「うふ♡ 三五はぁ、悪くぅ、ないのぉ♡ わかったぁ? わかってくれないと、キスマーク残しちゃうよ? ハズカシ~よ? ん~ちゅっ♡ わかったぁ?」


 「わ、わ、わ、わか……」


 わか……ら、ないって言ったら、キスマークが残るくらいの濃厚なキスがしてもらえる!? 

 それならオレ、わからない! 全力でわからない!

 

 って、ハッ! よく見たら行き交う人々がオレ達をチラチラ見ている!? ヤベ、ここ病院からの帰り道だったわ! 昨日もイチャイチャし過ぎて悪いヤツ等からの監視の視線を見逃してしまったというのに、またやってしまったぁ!


 「こ、こよい。オレ、わかりました。だから、今は離れましょう?」

 「は、はい。ごめんなさい。ちょっと羽目を外し過ぎました」


 もう悪いヤツに絡まれるのは二度とゴメンだ。


 オレ達は早足でそそくさと、こよいの家まで帰ったのだった。

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