裏25話 思い出の文化祭⑨ 放送部からのお願いヨ♡ ってオイ! マジで言ってんの!? (素) 高二 二学期
たっぷりと劇の余韻に浸ったことだし、そろそろ講堂から出よう。
湖宵と連れだって出口に向かうと、ビデオカメラ等の撮影機材を構えている生徒達が見えた。
彼等は放送部員。文化祭を見て回って映像記録を残しているのだ。
そしてその動画は当校公認動画としてWeb上にアップロードされる。
演劇部の力作公演もバッチリ録画されただろう。
観るのが今から楽しみだ。
ウチの学校の楽しさが外部の人達にも伝わったら良いな。
特に進路を決めかねている中学生達に。
オレと湖宵も行事の動画からこの高校の楽しさや活気を感じ取ったものだ。
大切な動画にオレみたいな花魁野郎が映り込んでしまってはいけない。隅っこを通りカメラを避けて出ていこう。
「お、おおおっ!? き、君! そこの花魁の格好をした君! どこのクラスの出し物なんだい、ソレ!? 良ければ話を聞かせてくれないかっ!?」
おっ? 避けるハズが逆に放送部の男子生徒に呼び止められてしまったぞ? 部員をまとめている所から察するに、彼は部長さんみたいだ。
う~む。請われて座敷に上がらないのは花魁の恥……か。良いでしょう。お付き合いしようか。
放送部員さん達に連れられて休憩ルームへとやって来た。
話をするお礼にと、放送部部長さんはオレと湖宵にコーヒーをおごってくれた。
「僕が放送部部長の音無です。付き合ってくれてありがとう」
「山田です」「鈴木です」「田中です」
ちなみに部長さん以外の三人の部員は皆女子だ。
オレと湖宵は自己紹介をした後、ウチのクラスの出し物である「おネエ · おニイ喫茶」の内容や今日の盛況っぷり、オレ達の大人気っぷりを語った。
「えっ!? それじゃあ繊月クンも女装した男子なのかい!? 容姿もだけれど、仕草や立ち居振舞いが完全に女性そのものにしか見えないのに!」
「うふふ♪ それはそうですよ。だってわたし、繊月 湖宵の心は歴とした女子なんですからね~! 高校を卒業後にはもちろんQ極TSして真の女の子♡ になりますよ!」
「何と! 君もQ極TS女子なのか! いや、失礼。僕の親戚にもQ極TS女子が居てね。驚いてしまったよ」
湖宵は以前ハデにカミングアウトしてから、学校内で自分がトランスジェンダーである事を隠さなくなった。
初めて打ち明けるときには驚かれる事が多いけれども、あからさまに拒絶される事はほぼ無かった。
やはり大人よりティー↑ンズの方が時代の変化に寛容なようだ。
「そしてぇ! わたしは三五♡ と婚約♡ もしていまぁぁす♡ ううん♡ 心はもう結ばれているから、実質的にもうわたし達は夫婦なのでぇぇす♡」
「「「キ、キャ~♡ そんなぁ♡ 男の子同士で夫婦だなんてぇ♡」」」
湖宵はオレの腕をぎゅっと抱き締めながら三人の女子部員達に向かって宣言する。
そこまで突っ込んだ情報、今言う必要ある? 牽制してんの? 湖宵ってば。
「ワチキ達の話はどうだったでアリンス? 良かったらウチのクラスも撮って欲しいでアリンス」
話が脱線しそうだったので軌道修正する。
「君達のクラスの企画は素晴らしいよ。是非記録に残したいね。……だがね、その前に我々はちょっと困った問題を抱えてしまっているのだよ」
「困った事、ですか?」
「ああ。実は放送部主催でミスコンのイベントを企画したのだがね。肝心の出場者の数が足りないのだよ」
へぇ~! 意外や意外! ミスコンとな! はぁ~!
身だしなみもカッチリで眼鏡もキリッと似合う、こんなに真面目そうな部長さんがねぇ~。オトコノコですなぁ~。ニヤニヤ。
「まあ待ちたまえ。これにはちゃんと理由があるのだ。我々の学校の行事の模様が動画としてWebで配信されているのは君達も知っているだろう?」
「ええ。ワチキ達も観たでアリンス」
「学校選びの参考にもしたよね」
「その動画なのだがね……真面目すぎる、だとか堅苦しい、だとかで不評でね。イマイチ視聴回数が振るわないのだ。先日、顧問にも十代の少年少女が視聴したくなるような動画を撮れと言われたんだ」
ええ~!? そんな事言われんの!? ちょっと顧問ちゃ~ん。少し無茶振りが過ぎるでしょう。普通に学祭中にカメラ回して歩くのも大変なのにさあ。
「そこで起死回生の一手、ミスコンの企画をしてみたという訳だ」
極端だなぁこの人。でも高校の学祭動画でミスコンを映すっていうのは、ちとキワどくないかね?
「ミスコンとは言っても当校の人気生徒の紹介、といった軽い内容で先生方からもキチンと承認を得ているよ。……それでも、なかなか出場しても良いと言ってくれる女生徒が見付からなくてね」
ハア、と溜め息を吐く部長さん。
その姿を見て放ってはおけなくなったのだろう。力になろうと湖宵が部長さんに優しく声を掛ける。
「出場者が足りないって事は少しは集まっているって事でしょう? 今は、何人くらい集まっているんですか?」
「ここに居る山田クン、鈴木クン、田中クンの三人だ」
「全員身内じゃんか! いやいや、確かに三人とも可愛いよ? でもそんなんだったら中止した方が良いと思いますよ?」
光の速さで湖宵が匙をブン投げる!
でもオレも同感だわ。盛り上がる要素が一ミリも無いもんな。
「で、でも、私達、部長のお役に立ちたい……」
「そうよ! 私達が部長を支えなきゃ!」
「部長、最近ずっと悩んでいて……私達に何かが出来るなら……」
「君達……ありがとう」
おやおや。部長さん、慕われてますな。モテモテじゃん。
仕方無い。健気な部員ちゃんの為にも知恵を絞ってみるか。
「エロ姉ぇに出場してもらうっていうのはどうでアリンス? ちぃちゃんと一緒に。これで二人追加でアリンスよ」
あの女なら100%出るだろ。むしろ是非出場させろと言って来てもおかしくない。
しかし部長さんはゆっくりと首を横に振り、重々しく口を開いた。
「僕が動画に求めているのは、香辛料さ。…………アレは猛毒の類いだよ、君」
そんなに深刻そうな表情で戒める様に言われたらグウの音も出ねぇんだが。
「で、でも見た目は美人だし。賑やかしの為に置いておいても良いのでは? でアリンス。何かやらかしても編集でカットすれば良いんだし……」
「アレはそんなに生易しい存在じゃないだろう? 黙っていても常に色香を散布してくるし。もし編集ミスで映ってはいけないものが映ってしまったら? と、考えてみたまえ。我が校の名声は地に墜ちてしまうだろうね」
「そ、そんな大袈裟な……」
「……高波クン。君は映像の恐ろしさを知らない。十年以上前の話だ。TV番組の生放送でとある芸能人が局部を露出してしまった。痛ましい事故だ。いや、事件だったのだろうか? ……いや、そこはまあ良い。現在、その芸能人は国民からの幅広い人気を集めている。しかし国民は心の底では」
「もう止めてくれ! 部長さん! わかったから! オレが悪かったから! 蒸し返してはいけない!」 (断固たる決意)
何てこった。触れてはならない話題に触れてまでエロ姉ぇを拒絶するとは。
やっぱりあの女を表舞台に上げるのは無謀か。
ヤツと絡みすぎて感覚が麻痺していたみたいだ。
う~ん。だとするとちぃちゃんにだけ声を掛けて出場してもらうとか? いや、ダメだな。エロ姉ぇだけをのけ者にしてしまうとまた泣かせてしまう。
じゃあもうオレの方で紹介出来る人は居ないな。
オレは高校での女友達が居ないからな。ハハハ。 (真顔)
「湖宵の女友達でミスコンに出ても良いって子、誰か居るでアリンス?」
「多分居ないでアリンス~」
「じゃあワチキ達は力になれないでアリンスね」
部長さんは良い人だし何とか力になりたかったんだけど。流石にミスコン関連ではね。
「いや、君達には是非折り入ってお願いしたい事があるんだ」
おや、何だろう? オレ達で力になれるのなら協力するのもやぶさかではない。
「高波クン、繊月クン。君達にミスコンに出場してもらいたいんだ」
「「えええぇぇ~っ!?」」




