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第一話 勃たない新魔王の新たなる旅立ち

 突如として訪れた大賢者タイムのために、眠れない夜を過ごした新魔王。

 しかし朝を迎えても、大賢者タイムは抜けていなかった。


 新魔王は憂鬱な気分でいつもの制服に着替え、黒マントを羽織る。

 不調はさておき、魔王城に暮らしている女の子たちの朝食を準備しなければならない。

 早歩きで魔王の間の扉を開けると、広間の中央には大きな円卓が置かれていた。


「おはようございますだっちゃ、新魔王様」

 オーク族の姫・ドロシーが、テーブルに食器を並べながら笑顔を向ける。

「何をしているんだ、ドロシー」

「ダーキル様が、新魔王様がお疲れのようだ仰られたとよ。だから今朝は、みんなで朝ごはんを作ろうという話になったっちゃ。エルちゃんも手伝ってくれているとよ」

 ドロシーの後ろから、エルフの少女・エルがひょっこりと顔をだす。その瞳は相変わらずのレイプ目だが、最近はそれがチャームポイントであるように、新魔王は思っている。

「ぱぱ、おはお」

「おお、朝のご挨拶ができるようになったのか。えらいぞ、エル」

 新魔王はしゃがみこんで、エルの頭を撫でた。指に触れる、柔らかな金髪の手触りが心地よい。

「しぃの、おてつだいしてた。これ、ぱぱの」

 エルは大事そうに持っていた一本のスプーンを、新魔王に差し出す。

「ありがとうな、エル。お手伝いができてえらいぞー」

「えへへ」

「新魔王様は、そちらのお席に座って待っていて欲しいっちゃ。あとはみんなで準備するとよ」

 新魔王はドロシーに勧められるままに椅子に座った。隣の席に、エルがちょこんとお尻を乗せる。

 まもなくして、料理を持った少女たちがぞろぞろと魔王の間に入ってきた。

「お加減はいかがでしょう、新魔王様。お食事は召し上がれそうですか」

 ダーキルが新魔王の席に食事を置いた。

「ああ、問題ない。これをお前たちが作ったのか」

「勝手ながら、食堂の冷蔵庫にあった材料を使わせていただきました。新魔王様のお口に合うかはわかりませんが」

 新魔王も料理が得意ではあるが、スープやサラダの盛り付けを見ると、やはり女性ならではのセンスが感じられた。

「みんなでお食事って楽しいね! まあ、私は食べられないんだけれど」

 全身をボロ切れファッションで着飾ったゾンビ少女、ノーラが勢いよく椅子に座った。そんなノーラを、姉のミラーナが「お行儀よくしなさい」と小声でたしなめる。

 制服姿のゼッカは無言で席に着き、男の娘勇者のルトは「師匠、おはようございます!」とお辞儀をして椅子に座った。最後にダーキルが新魔王の隣に座る。これで魔王城に住んでいる全員が集まった。

 いただきますの合図で、静かに朝食が始まる。

「ん、うまいな」

 新魔王の言葉に、少女たちから安堵の笑みが溢れた。代わる代わるに、どの料理を誰が担当しただとか、何にこだわっただとかで話が盛り上がる。大賢者タイムで凹んでいる新魔王には、少女たちとの会話が救いに感じられた。

「新魔王様の具合が良くないって聞いていたっちゃけど、心配なさそうだっちゃね」

 ドロシーが言うと、ノーラは首を傾げた。

「でも、なんだかいつもの新魔王様らしくないっていう気もします。落ち着いているというか、大人びているというか」

 じーっと全員の視線が集まると、新魔王は思わずスプーンを持つ手を止めた。

「あ、いや、その……」

「ダーキルが代わりにご説明をいたします」

 訳見知りの顔で、ダーキルはこほんと小さく咳払いをする。

「新魔王様は、オナニーのやり過ぎによる反動で」

「だから違うっての!」

 新魔王はダーキルの頭をぺしりとはたいた。

 仕方ないので『大賢者タイム』について説明をする。

「誰にだってあるだろう、そういう考え事から抜け出せなくなってしまう時間帯が」

 たしかに、ありますね、と少女たちも頷く。

「それがちょっと長引いているというだけだ。じきに元に戻る……と思うんだが」

「じゃあ今の新魔王サマは、エッチなことにも悪いことにも興味を持てない状態というわけね」

 ゼッカの言葉に、ミラーナが心配そうな顔をする。

「別の世界からいらっしゃった新魔王様には、私たちでは計り知れない不安がお有りなのでしょう。私たちに出来ることがあれば、なんでも仰ってくださいね」

「師匠、元気を出してください! 誰にだってスランプはありますから!」

 新魔王は少女たちに励まされながら、尚更に気分が落ち込んでいった。

 こんなに良い子たちを、自分は無理矢理に誘拐して辱め、泣き叫ぶ姿を楽しもうと考えていたのだ。畜生にも劣る最低のクズである自分に、このような温かい食事を口にする権利はない。

「ああっ、新魔王様が大賢者様になってしまいました! お気をたしかに!」

 どよーんと暗い表情になった新魔王の体を、ダーキルがゆさゆさと揺さぶった。

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