プロローグ ダーキルの日記帳
本作は、オーバーラップ文庫より発売中の『ちょっぴりエッチで変態なお姫さまは好きですか?』本文を、出版社様の了承を得て掲載するものです。(小説家になろう規約に基づき、全文を掲載いたします)
すでに公開をしておりますWeb版の内容とは異なる部分がございますので、ご了承ください。
※注意 新魔王様へ
これはダーキルの日記です。ダーキルの恥ずかしい秘密が書かれていますので、絶対に読まないでください。
ダーキルの弱みを握って、エッチな悪巧みをしようだなんて考えてはいけませんからね。
万が一、日記の内容を読み上げられながらベッドで乱暴でもされたら、ダーキルはとても興奮耐えられそうにありません。
ダーキルは涙ながらに「やめてください、読まないでください」と新魔王様に懇願をして、乱れた衣服に構うことなく日記帳を取り返そうと抵抗いたしますが、あえなく返り討ちにあって純潔を奪われることになるでしょう。
そして興奮の冷めやらぬ新魔王様は「ダーキルよ、これからは俺に与えられた屈辱を日記に書き記し、己が不幸を永遠に呪い続けるがいい」と素敵な高笑いを上げられるのです。
ああ、なんという悲劇でしょう。
上品で可愛くてお姫様らしかったダーキルの日記が、恥辱にまみれた連載ポルノ小説になってしまいました。
そのうち新魔王様から「挿絵もつけたほうがいい」「マンガの方が読みやすいな」「声をつけてみたらどうだ」「いっそアニメ化を狙おう」なんて命令され、ダーキルは輝きを失った瞳で原稿に向かい続けることになるのです。
そんなことは決して許されませんので、絶対に日記をみちゃダメですからね。
いいですね、絶対ですよ。
さてさて、ダーキルも日記を書くのは初めてなので、何から書いていいのか迷うところです。
ペンを片手に夜空を見上げれば、魔界の赤い月が煌々と揺らめいていて、ダーキルが部屋に忍び込んでいることを知らない新魔王様の無防備な寝顔を照らしています。
こうして新魔王様の顔を見ていますと、ついエッチな悪戯をしたい欲望に駆られますが、今宵も妄想だけに留めておくことにいたしましょう。
いつか新魔王様がダーキルをレ〇プしてくださるその日まで、ダーキルはこの切ない気持ちを耐え忍んでいくのです。
そんな辛い日々の慰めになればと、ダーキルは日記を始めることにいたしました。
ここはやはり、新魔王様と初めて出会った日のことから記していくことにいたしましょう。
夜はまだまだ永いですからね。
あの頃のダーキルは、生きることに退屈していました。
暇つぶしにやることと言えば、自分の体のあちこちを撫でたり触ったりして、気持ちのよくなるところを探すことくらい。
おかげで一人エッチを極めつつあったダーキルでしたが、遊び終えたあとは尚のこと虚しくなるものです。
いわゆる聖女タイムというやつですね。
欲を持てない人生とは、なんと退屈なものでしょう。
『比類なき闇の宝石』と謳われ、数多くの神や悪魔たちから求婚され続けているダーキルには、望めば手に入らないものなどありません。
天まで達する金銀財宝でも、大地を埋め尽くす屍の山でも、可愛いダーキルが望みさえすればすぐに献上されることでしょう。
しかしダーキルは、そんなものには興味がありませんでした。
毎晩のように夜空を見上げながら、ただ「欲しいものが欲しい」と願っていたのです。
その日、魔王城は『ハイエンダール伯爵がダーキル姫を奪いにきた』と大騒ぎになっていました。
塔の頂上にある部屋の窓から見下ろすと、黒いマントの男が信じられない強さで魔物たちを倒しています。
ここへ到着するのも時間の問題でしょう。
ハイエンダールの慰み者になるのであれば、さっさと死んだほうがマシです。
二度と生き返ることのできない呪いの短剣で、ダーキルは自らの喉を搔き切ることにいたしました。
ただ、死体を晒すにしても魔族のお姫様としてのプライドは守りたいので、寝間着からお気に入りのドレスに着替えようとしていたのですが、一人ではなかなか着替えが進みません。
誰かに手伝ってもらおうにも、お付きの魔物まで戦いに出ていました。
さて、ハイエンダールの侵攻は想像以上に早く、ダーキルがドレスを相手に悪戦苦闘している間に、ついに部屋の扉が開かれてしまいました。
まだダーキルの着替えは済んでおらず、上半身は下着姿のままという恥ずかしい格好でしたが、今さら気を使う必要もないかなと開き直る気持ちもありました。
ダーキルは短剣を喉元に当てて、手に力を込めました。
しかし、そこに立っていたのはハイエンダールではなく、ダーキルと年端の変わらないように見える男の子だったのです。
男の子はダーキルの姿を見ると「ご、ごめん!」と赤面をして扉を閉めてしまいました。
ダーキルが呆気にとられ、しばらく無言で扉を見つめていると、コンコンと扉がノックされます。
「おい、もういいか」
「はいどうぞ」
「こほん。お前が噂のダーキル姫か……って、まだ着替え終わってないじゃん!」
勢いよく部屋に入ってきた男の子ですが、くるりと背中を向けてしまいました。
「お前、今『どうぞ』って言っただろ!」
「はい、ですから『どうぞご覧になってください』と」
「バカか、痴女か、変態か!」
その反応はダーキルにとって新鮮で、可愛らしいと言っては失礼なのかもしれませんが、なんともダーキルの悪戯心を的確にくすぐってくるのでした。
「申し訳ございません、一人ではドレスが着られなくて……もしよろしければ、ファスナーを閉めるのを手伝っていただけませんか」
「できるかアホ! これでも被っていろ!」
男の子のマントがばさりと飛んできて、ダーキルの頭をすっぽりと隠しました。
マントには返り血一つ付いていませんでしたが、戦っていたのはこの男の子に違いありません。
いったいこの方は何者で、どんな目的でダーキルの目の前に現れたのでしょう。興味がむくむくと湧いてきます。
尋ねてみますと、男の子は「ハイエンダールとかいうヤツと間違われて魔物に襲われた」といい、魔物が必死に守ろうとしていた『ダーキル姫』に興味を持って、ここまで来たのだと説明をしてくれました。
ダーキルは魔物たちの勘違いを、魔族を代表してお詫び申し上げました。
「それで、ダーキルをご覧になっていかがでしたか。貴方様のご期待に添えましたでしょうか」
「まあ、たしかに魔界の姫というだけはあるな。魔物たちが必死になって守ろうとするのもわかった気がする。それじゃあな」
踵を返して出て行こうとする男の子を、ダーキルは慌てて呼び止めます。
「もう行かれてしまうのですか。せめてお茶の一杯でも」
「城のことなら心配するな。俺の能力で全員を生き返らせてやる。人違いで襲われたのは腹立たしいが、そもそも魔物を倒しに来たわけではないからな」
その時でした。まだ息のあった魔王ムシュトワルが、最後の力で剣を投げつけてきたのです。
狙いは男の子ではなくダーキルでした。
ダーキルの父親である魔王ムシュトワルは、ハイエンダールにダーキルを渡すくらいなら殺してしまった方がいいと考えたのでしょう。
しかし剣はダーキルに刺さらず、ダーキルをかばった男の子の胸を深々と貫いていました。
銀色の刃先が、ダーキルの目の前で血を滴らせています。
「ぐっ……不死身の体でも、痛いものは痛いのか。油断して防御を解いてしまったせいだな……」
男の子が呟くと、胸に刺さっていた剣は砂になって落ち、後には傷一つありませんでした。
男の子が振り返った時には、魔王ムシュトワルは息絶えていました。
「しぶといやつだな。さすがは魔王といったところか……って、なにをする!」
ダーキルは男の子の手を取って、じっとその目を見つめます。
ダーキルも女の子ですから、こんなシチュエーションではときめきを感じずにはいられません。
「ダーキルを守ってくださって、ありがとうございました。お怪我はありませんか」
剣が刺さっていた男の子の胸元を、指先でそっと撫でますと、男の子に手を振り払われてしまいました。
このように邪険に扱われることも、ダーキルにとっては新鮮な感覚です。
ダーキルが手を差し出せば、誰もが跪いて接吻をするものだと思っていました。
「か、勘違いするんじゃない! さっきのは勝手に体が動いただけで、別にお前を守ろうとしたわけじゃないからな!」
「しかし命の恩人をこのまま帰してしまっては、魔族の姫としての股間……じゃなかった、沽券に関わります。せめて少しの間だけでも、ダーキルにおもてなしをさせて頂けませんでしょうか。どのようなお望みにもお応えいたします。なんでもいたしますから」
「望みなんて別に……いや、待てよ。この魔王城を拠点として、俺の野望を叶えるというのも悪くないか。魔王という称号は、俺にこそ相応しいものかもしれん」
欲望を燃え立たせる男の子の邪悪な微笑みに、ダーキルの胸はドキドキと高鳴っていました。
なんだかとても面白いことが始まるような、そんな予感がするのです。
「よし、決めたぞ。俺はこの世界で魔王となる。ダーキル姫とやら、お前には俺の野望を叶えるための下僕になってもらおうか」
「はい、よろこんで!」
その後、男の子に着替えを与えられたダーキルは、着替えが済み次第に魔王の間に降りてくるように命令をされました。
男の子が待つ広間へと向かう途中、ダーキルは興奮を抑えることが出来ませんでした。
もっと、あの男の子のことを知りたい。
いろいろなお話をしてみたい。
もしかしたら、ダーキルにも『欲しいもの』が出来たのかも知れない。
そんなことを考えながら、はやる気持ちを抑えて扉を開いたことを、今でも鮮明に思い出すことができるのです。




