遭難した先で、雨宿り
なろうラジオ大賞参加作品第五弾。
「おい、まだ直らないのか?」
雨が降ってる外を窓ガラス越しに眺めてると、そんな質問が聞こえてきた。
いったいなんだと思いつつ、そちらへ目を向けると……俺と同じく乗客である男性が、乗務員に怒りをぶつけんとしてる場面があった。
「も、もう少々お待ちください。現在修理中ですので」
応じた乗務員が落ち着いた声を男性にかける。
けど男性は、そう簡単に怒りを静めなかった。
怒鳴りこそしない。
でも圧を乗務員にかけ続けた。
気持ちは分かる。
俺も、そして他の乗客も……というか乗務員も同じ気持ちだから。
「ねえ、私たち帰れるのかな?」
隣の席に座る、俺の彼女が声をかけてきた。
と同時に俺の手に、指を、震わせながら絡ませてくる……彼女の不安がこれでもかと伝わってきた。
俺まで、より不安になりそうになる。
お互いの仕事の関係で、なかなか会えなかったけど……ようやく同じ日に休暇をとれて、それで今回のツアーに参加したのに、ちょっとした事故のせいで遭難し、さらに俺達が移動のために乗ってるこの乗り物が故障したから、なおさら不安だ。
「大丈夫だよ。この乗り物のバリア機能は壊れたっぽいけど頑丈だし。少なくとも俺達の命は保証してくれる。それに遭難した時のための食料もあるから」
「……うん、そうだn――」
『――乗客のみなさん、ただちに緊急用気密服の着用をお願いしますッ』
そして、彼女が安心しかけたその時……事態は急変した。
『当機の機能の一部は復旧いたしました。しかしいまだにバリア機能は復旧しない上、時代計算機によって判明したこの時代の雨は、とても危険で――』
「■■■■――――ッッッッ!!!!」
そして、乗務員がさらに情報を伝えんとした時。
俺達の知らない鳴き声、そして足音が聞こえて……パニックが起きた。
この時、俺達はようやく把握する。
俺達が乗ってる乗り物――タイムマシンの事故によって来てしまった時代が……俺達が生きてた時代から約二億三千万年前。つまりカーニアン多雨事象と呼ばれる現象が起きてた時代であると。
そして、この時代の雨といえば――。
※
西暦二XXX年。
人類は科学技術を発展させ、ついにはタイムトラベルという因果律に喧嘩を売る行為までをも可能にした。
そして人類はこの時……まだ本当の意味で分かっていなかった。
因果律に喧嘩を売る行為が、どれだけの対価と引き換えのものかを。
科学技術の発展と比べて。
それを駆使する自分達の精神がどれだけ幼いのかを。
一説によると、この時代の雨は酸性雨だそうで。




