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224.君臣問答(1)

 見下ろす先で、貴族の八割が俺に対して不満を訴えている。その情景自体は予想の内だった。

 反戦。そういえば非常に聞こえがいい。そして、彼らの主張は何一つ間違いではない。

「帝国という名称を取り下げ、王国と名乗れば、それだけでいい。それだけで現在『王国派』と便宜上呼ぶ一派は降伏し、無駄な流血なく国を統治できる。なぜ、そうしないのか。説明していただきたい。」

玉座に、今にも反乱を起こしそうな勢いで詰めかける貴族たち。その先頭に立って言葉を紡ぐ、コーネリウス。


 俺の、おそらく過去、未来を通じて一番の関門が、目の前にあった。




 全軍がディマルスに帰還したのは、国王アグーリオの宣言から二ヵ月後のことだった。

 各個人の報告書を提出させ、それぞれの将校貴族にねぎらいの言葉をかける。

 功労褒章の場は1週間後に設けるとして。エルフィール、ペテロ、デファールを俺の私室に呼び出した。

「で、陛下は皇帝を諦めるのですか?」

「まさか。俺は皇帝になる。むしろ、敵に『像』がいるときの戦争の練習にもなってちょうどいいだろう?」

ペテロの問いに即答する。デファールがわずかに口元を蠢かせた。笑うべきところか否か、迷っているのだろう。


 だが、と続ける。

「貴族たちは、陛下の目的はさておき、内戦を避けられるのなら『帝国』称を改めるべき、という意見で占められているようですな。」

「いやあ、それは、ダメだろ。な、エルフィ。」

帝国を目指す分には好きにしていいが、条件を達成していないにも関わらず『帝国』呼びするならそれなりの覚悟をしろよ。『審問像』の主張は、徹頭徹尾それだった。

 国王アグーリオのいう、「エルフィールの差し出し」は、ちゃっかりそれに乗っかって行われたこちらの無力化策に過ぎない。

 俺の軽い口調に、エルフィールはどっと疲れたような顔をしているように見える。何があったのか。何を思ったのか。問い詰めたいが、それは、後に回そう。


 曖昧な笑みでこちらを眺めているエルフィールの手に手を重ね一撫でする。慰めないとと思ったが、それくらいしか今は出来ない。

「今上はやはり帝国否定派だったな。」

「阻み立つだろうとは予測していましたが、まさか神の力込みになることまでは予想していませんでしたね。」

デファールの言葉に頷く。そうだ、今上が立ちはだかることは予想できていた。最後の敵がアグーリオになることは、予想できていたのだ。

 それが、神の力を持ち、「王国に称を改めろ」と来るとは。いや、理はある。理は、向こうにあるのだ。


「なんとしても帝国称を通さなければならない。」

「しかし、貴族どもは納得しませんよ。」

そんなことはわかりきっている。奴らは王国派だ。俺に『王像』の加護があると理解したゆえにこの場にとどまっているものの、もし俺の『像』が取り上げられる事態に至っていれば、おそらく一割ほども残らない。

「まあ、いい。それはいやでも問答することになるさ。それより、ディア。『審問像』について教えてくれ。」

「教えるって言われてもねぇ。そのままだよ。三国の侵略、あるいは併合……正式には、僕とそれ以外の二つの『王像』の不確保の状態で『皇帝』を名乗った場合に、詰問と覚悟を問うために降りる使者だよ。」

今まで一度も、先に帝国と名乗る国がないわけだ。神から詰問の使者が来る。それは、神の威と力を以て国を統治する『王像の王』たちと、その恩恵を受け取る貴族たちにとっては、神に己らが逆らってしまったように見える。


 そりゃあ、自分たちの権威が危うくなる橋を進んで渡る者はいないだろうよ。だが……

「未来に利息を押し付ける、というのは?」

「『審問像』は君たちの意思を問うだけで否定はしない。だけど、規則を違反して先に『帝国』を名乗ったんだ。実態として『帝国』になれなければ……次の『神定遊戯』の時一国だけ『像』の恩恵が半分以下になるくらいの不利益は、受け取れるよね?」

それは土台無理な話だ。「次」と述べている以上、その次は『王像』が降るのだろうが……その時までに、『像』を持つ他の六国が、どれだけペガシャールへ攻め込んでくるか。

 ペガシャールの国土は大幅に減るだろう。貴族は減り、民は減り、土地が減った結果食料技術もまた減り……ペガシャールは、次の『神定遊戯』が起きるまでに、六国と肩を並べることのできない小国に成り下がりかねない。

 今までの『王像』は、ここで、引き下がらざるを得なくなったのだろう。勝手に帝国を名乗ることは出来ても、後の保証が出来ないなら……それは、為政者としての責任問題に発展しかねないから。


「『審問像』の能力は?」

「さっきデファールも言ったけれどね、疑似的な『王像』権限だ。正式には、配下に対する最大3つの『像』授与権限。そして、配下の軍勢の能力の2倍化、最後に『敵『像』の固有、基本能力の全面無効化領域の作成、および敵の王像の領域の解除』。」

……最後の能力、俺、知らなかったんだが。

「言う必要がなかったんだよ、アシャト。敵に『像』がなければ意味がない上、君が戦場にいなければそれもそれで意味がないからね。」

いや、結構重要な情報な気がするぞ、それは。つまり俺は、敵の『王像』と戦場で相対するとき、俺もいなければならないということじゃないのか。


 互いが互いの『像』の効果を打ち消しあわないと、敵は『像』の力込みなのにこちらは無し、ということになりかねない。

「ちなみにだけれど、無効化領域の作成の方は時間制限がある。一週間に一度、六時間が限度だ。そして……『妃像』と『継嗣像』も同じ権限を持っているけれど、使用時間は半分になる。」

ああ、そう……いや待て、つまり、

「他国の『王像』と戦うとき、俺と子が同じ戦場で戦えば、敵『王像』と状況を作れる、ということだな?」

「そういうことになるね、エルフィ。でも、過去それが行われた例はない。そもそも『王像』が出張る戦争をする国は……半分くらいあるけど、同時に複数と戦争をすることはないし……。」

『妃像』が戦場に出ることは、もっとない。言わんとすることは、全員が理解できた。俺が『帝国』化を推進できる一番の理由はそこにあるし、逆に言えば彼女を抑えられれば中々に厳しい。


「ちなみに、『無効化領域』を解除する方は、『妃像』と『継嗣像』には?」

「ないよ。それは王同士に許された特権だ。」

ああ、そう。だがまあ、どちらも似たようなものだろう。

 『像』頼りの戦争をする側にとっては、『像』無効化領域はつらいから、解除を優先するだろうし……互いに『像』がないという条件なら自軍が勝てると判断するなら、『無効化領域』発動と維持を優先するだろう。あくまで戦略上の一手に過ぎまい。

「さて。どうやって貴族を黙らせようか?」

「残る期限は二ヵ月。……陛下とエルフィール様には申し訳ありませんが、確実な方法は、おそらく一つしかありますまいな。」

ペテロが、躊躇うように口に乗せる。決して俺たちの方を見ようとしない。……ああ、なるほど。その手なら確かに、否が応でも貴族たちは頷かざるを得なくなる。


 国王の宣言。貴族たちの望み。俺が『帝国化』を推進し続けるためには、エルフィールが二番目の権力者として居座ってくれなくては都合が悪い。

 アグーリオはそこを突いた。エルフィールを権力の座から引きずりおろせと。ああ、確かに。彼女が権力を担っている状況でなければ、俺は『皇帝』を目指せない。


 エルフィールに『妃像』を与えた。それでも、彼女が俺と会わなければ、彼女が権力を握ることはない。

 非常に、簡単だ。エルフィールが俺と並ぶ権力者であるために、非常に単純明快な方法が、ただ一つだけ、ある。

「……嘘だろ。」

俺に遅れて、エルフィが気づいた。こういう話になると男はなぁ。

「エルフィ。簡単だ。すごく、簡単だ。……期限までに、お前が、俺の子を孕めばいい。男か女かわからなくとも……お前から、俺の『継嗣』が生まれる可能性が高いという宣伝だけで、お前の権力は確定する。」

そうだ。子を産まない妃なら、妃としての価値は大暴落だが。逆に、次代の王の母というのは、国の中でも王に継ぐ権力を持つものとして、一定以上の保証がある。


 男が女に絶対に勝つことが出来ない点。女がほとんど必ず持ち合わせる、絶対に男に勝てる点。

 子供を、次代を担う者をその胎から産み落とす。

 ああ、それさえ見せることが出来るなら。貴族たちは、納得せずとも、従うしかなくなるだろう。


「では、それまでは。」

「それを狙っているということを伏せて、政務を続けるしかないな。とりあえず……貴族どもをなるだけ納得させられないか、対話の場だけは設けよう。」

ついでに不満を吐き出させ、俺の意見を聞かせてやる。面倒だが、どうせ、一度は通る道だ。


「俺の意志は?」

「エルフィ、ダメか?」

「……ずるいぞ、お前。」

悪い。だが……どうせ、それが一番、確実だ。




 そういう過程を経て、今こうして、議論の場を設けている。

 功労褒章の話はすでに終えた。

 ホーネリス侵略軍の功一等はデファール、次点でコーネリウス、その次にペディアとした。……リーナが己の功をすべて「旦那様のものですわ」なんていうものだから、そうせざるを得なくなった。本当ならジョンかニーナの予定だったのだが……罠解除まで含めると流石になぁ。

 ディアエドラ侵略軍の功一等はエルフィ、次点でバゼル、最後にレオナである。……が、レオナは無視したので、名前だけ読み上げたうえでグリッチを褒賞した。無関心は面倒だ。


 ついでにたった一騎で20万の軍を足止めしたディールも感謝と金一封を放り込んだが……まあ、こいつが金に興味もあるはずがなし。


 その後で、コーネリウスが問うたのだ。

 あのアグーリオ陛下の言葉に対し、アシャト陛下はいかなる返答をするつもりなのですか、と。




 問いに対する答えなど明白である。エルフィールがあの日、あのフィシオの木の傍で言った時点で、俺は最初から帝国を目指すのを決めている。

「『帝国』称を改めるつもりはない。俺の代で、二国を統一し、ペガシャールは王国から帝国に至る。その覚悟を示すこの名称を、失敗した未来で罪を問われるとしても、改める気はない。……何より、失敗するつもりもない。」

その言葉に、貴族たちがどよめく。俺の覚悟を聞いて、受け止める気のない貴族たちが、キッと俺を睨めつける。

「なぜですか!陛下が帝国を目指す。その心意気は理解しましょう。その目標を叶えたいと、そう告げる言葉は耳に届きました。」

耳に届いた、ね。脳に届いていないと。心意気は理解する、ね。価値も意義も理解しないと。


 一つ大きな息を吸って、一息に駆け抜けるように、彼は叫ぶ。

「帝国という名称を取り下げ、王国と名乗れば、それだけでいい。それだけで現在『王国派』と便宜上呼ぶ一派は降伏し、無駄な流血なく国を統治できる。なぜ、そうしないのか。説明していただきたい!」


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