18.竜国の王の決断
ペガシャール王国から遠く離れた華美な都で。
竜国の王は静かに、しかし憎々しげに報告を聞いていた。
「なるほど。ペガサスの王はそこまで脅威か。」
余のその呟きに、我が国の少将は慌ててかぶりを振ろうとした。どうも勘違いしているようだ。すべて判断するのは余である。竜の眼が一族とはいえ、奴がそこまで判断するものではない。
とはいえ……まあ、彼は若い。すべてを弁えるにはまだ青い、というだけだ。一応、慰めくらいは入れてやろう。
「よい。そなたの報告を聞いて、余自身が脅威と判断したまでのことよ。」
広間がざわめく。彼らは、ひどく狼狽えたかのように余の方を見ている。
「ペガサスの王は、適材適所。人材問題を抱えておろうに、アシャトとやらは誰にも力を与えていないのであろう?」
ディールとやらに『衛像』を与えたのは聞いた。しかし、それは単独の力。軍という場所において、単騎の力が優れていても勝敗とは別問題である。
「理由は、簡単よ。奴は髄より『ペガサスの王』であるからだ。強力と言わざるを得ん。」
ドラゴーニャ王国は、余が与えた像の責務に応じて配下が努力する。そこに適性は関係なく、与えられた仕事を完璧にこなし上げることのみを求められる。
しかし、ペガサスの王は違う。国の経営としては非常に正しいことに、それぞれの適正のみを見る。王が求められているのは、正しくそれを見抜く力である。
「エルフィール=エドラ=ケンタウロス=ペガサシアが奴の陣営にいたのであれば、本当に脅威よな……しかし、留まってくれるのであれば、離間策も取れるというもの。」
クックック、と余は忍び笑いを禁じ得ない。
「ゲリュンの要請は呑もう。しかし、将を派遣するのは惜しい。クリュール!」
少し遠い位置にいた男を呼んだ。敵は小規模の軍だという。アダットやレッドがどう兵を指揮するかは知らないが、ゲリュンがいるならそうそう無茶な運用もせぬであろう。
それに。どうせ奴らだけで兵隊など指揮出来まい。レッドはさておき、アダットなど運用のうの字も知っているかどうか。
「貴様に竜戦車部隊三大隊を貸し与える。力の解放も許可する。ドラゴーニャ王国にそなたありと名を轟かせてまいれ。」
「承知いたしました。移動は陸路でありましょうか?」
「ああ。此度は『跳像』は出さん。その威容を民草に魅せつけて参るのだ。」
「は、承知!!」
これで、今は十分であろう。『戦車将像』であれば容易には負けぬであろうし、死ぬことはあり得ぬだろう。
「仮に友軍が壊滅すれば、構わん、撤退しろ。行け!」
それだけ言うと、謁見の間から身を翻す。二百年ぶりの遊戯、余が皇帝になるのを阻める王がいることを、心底余は喜んだ。
200年の時を経て、その日、大陸ディーゼリアに六人の王が出揃った。彼らは非常に優秀で、全く一人も無能な王はいない。『王像』に選ばれるのだから当然である。
ドラゴーニャ王国は、は絶対唯一。王のもとに有能な家臣が集い、王の命令をただ待つのみ。その通りに、ペデット=グスト=ファブ=ドラゴニアンは動き始めた。
フェニクシア王国は、は七転八起。何度敗北しようが、王たる責務を忘れず果たすもの。そう。すでに蛮族に国土の三分の一を奪われ、レジスタンスが残りの三分の一を奪っていようと、力を得れば彼らとて時間をかけて国の再興が出来るのだ。
フェリト王国は、は信念踏襲。自らの力は、初代の王の遺志を継ぐ者のもの。どれだけ血が薄れようと、天下統一を為そうという彼だけが、その力を受け継げた。
ペガシャール王国は、適材適所。配下に役目を与え、正しき采配のもとで国を支える。運にも支えられて、色々なものが欠けていながらも、彼は王として舞台に立った。
グリフェレト王国はは勇往邁進。ありとあらゆる全てを抱え、それでも押し通す強さ。国土は無事でも、抱えた国債は減りやしない。どれだけ立派な政治を敷こうと、二百年の間に抱えたものは軽くはない。
ヒュデミクシア王国は弱肉強食。力こそすべてであるという在り方。彼はすでに、弱きいくつもを喰らいつくし、己の血肉と変えてしまった。
二百年。我々は、彼らが力を失うのを眺め、そして一番面白そうなタイミングで力を解き放った。彼らは、それだけの長きにわたっても、神の力を頼りにする。
今から、50年。これは、人が我々と決別するまでの、物語である。




