表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/264

17.現れた外敵

 駆けに、駆けた。途中脱落したものはフィシオ砦に入ること、という命令をかけたうえで、アシャトたちは全力で駆け抜けた。

 アルス=ペガサス公爵公子が勝てないのは目に見えていたから、生存者を一人でも多く救うために走る。

「生き残れよ、オベール……。」

彼ほどの人材を簡単に斬り捨てるわけにもいかない。彼は立派な『ペガサスの近衛兵像』候補の一人だ。


 王として力を与える部下は、もうそれなりの人数候補として上がりつつある。すでに『近衛兵像』の力を得ているディールをはじめとして、アメリア、クリスは『ペガサスの騎兵隊像』として、エリアスは『ペガサスの防衛砦像』として、ペディアは『ペガサスの連隊長像』としての力を与えようと決めていた。

「近衛兵像は合計六人。ディールほどの人材はそういないからね、まだ数の多いオベールクラスの人を何人か近衛兵にした方がいいよ。」

心を読んで、走りながらディアが言う。器用な奴だ。


 そもそも七段階格の武技を修めたものはそう多くはないはずなのだ。ディールやエルフィールのような規格外が身近にいるからその性能が劣って見えるが、一騎当千と言うにふさわしい猛者たちであることにかわりはない。

「陣が見えるぞ!」

先頭を走っていたエルフィが叫ぶ。同時に、戦場独特の騒乱の音が聞こえてきていた。打ち合う鋼と鋼、撒き散らされる血の匂い。雄たけび、怒号。

「全軍!一分で陣形を整えろ!」

走りながらペディアが叫ぶ。その声に反応して、兵士たちが自分の持ち場に付き始めている。


 流石、早い。陣を整える余裕があまりない時はどういう並び方をするのか、事前に周知していたからこそできる芸当だ。少ない時間で、よくぞここまで。

 同時に、何人かが目と鼻の先の陣の中から転がり出てくる。その戦いは、どう考えても技量で勝る貴族たちが圧倒されているというものだ。

「……どういうことだ?まあいい、突撃!」

その異常に一瞬目を丸くしつつも、ペディアが叫んだ。エルフィールは何を思ったか、先陣を切って突撃していく。


 俺たちも後に続き、乱戦に突入した。

「どういうことだ?」

ソウカク山の賊と一合打ち合う。同時に、その膂力で剣が一瞬押し返されかけ、俺は焦りを覚えた。


 ペディア、アメリア、アテリオ。彼らもみな、どうしてかよくわからないその光景に驚いている。

「うおおおおお!」

とんでもない雄叫びが聞こえて、目がそちらに寄せられる。そこには、愛馬を駆って賊と戦うディールがいて

「嘘だろ、強すぎるだろうが……。」

ディールは一人で賊たちを蹴散らしていた。俺たちが、一人ひとり相手するような賊を、五人近く相手どって一方的に蹂躙している。

「全軍!援軍と合流!彼らに合わせろ!」

先日聞いたオベールの声がして、俺たちはそちらを見た。オベールも、その大斧で兵士たちを次々と切り伏せ続けている。


 しかし、その姿は痛々しい。鎧やその下の衣は血と泥にまみれ、斧の血糊は拭く余裕もないようで、切れ味が落ちているのに力技で頸を刎ね続けているから本人の疲労もすさまじい。

 熊とまで思えたはずの存在感が、最後の力を振り絞る猛獣がごとく。輝きが、明らかに変質している。どれほど死に物狂いで戦ったのか。

「ほう。」

敵指揮官がポツリと、その戦場を見て面白そうに唇をゆがめる。ディールを見て、ペディアを見て、俺を見て、最後にエルフィールを見て目を見開く。


 話が変わったな、というように。なるほど、この場で警戒するのはエルフィか。そうだろうな、彼女の持つ魅力は、この場の誰よりも輝いている。

「見つけたぞ、敵将!ドラゴーニャ王国の『将軍』がどうしてここにいる!」

そのエルフィールが槍を振り回し、周りの雑魚を蹴散らしながら彼の元へと走っていく。ディールに勝るとも劣らない蹂躙劇。


 しかし、彼女の活躍よりも重要な言葉が今あったように思う。ドラゴ―ニャ王国の将?盗賊を率いているのが?

 盗賊らしからぬ膂力の意味は分かった。オベールが圧倒的劣勢になるのにも頷ける。敵は『像』を使ったのだろう。それも、『将軍』。……配下全軍の身体能力を半日ほど、1.6倍まで引き上げる、神の力を使っているのだ。


 だからこそ。エルフィの言葉がより異質さを見せている。なぜ、どうやって、いつ来たのか。まだ、『神定遊戯』が始まって、半月経っていない。『像』が与えられたところで、ドラゴ―ニャ王国からここにくるまで、三ヵ月以上はどうやってもかかる。

「私がここに連れてきました。」

無機質な声が、エルフィの背中から響いた。誰もいなかったはずのそこに、ナイフを持った少女が座り、その背に刃を突き立てようとしている。

「“這う電流”」

エルフィがあらかじめ体につけていた魔術陣に魔力を通し、少女の体に電流を奔らせる。それを受けて、少女は落馬する前に姿を消した。……随分とまあ、用意周到なことだ。


 邪魔を排した彼女は、そのまま敵将……『将軍』の元まで駆ける。

 突き出す槍は神速。正面から相対して回避できる者など、そうはいないはずなのだが。

 しかし彼はその突きを見切れたのか、サッと槍でいなしてしまう。

「お前、何の力も得ていないのか、本当に?」

しかし、その動きは予想以上に早いものであったらしい。さらに、いなされてもすぐに姿勢を立て直し次の攻撃に移ったエルフィを見て、驚愕したかのように声をあげた。

 ああ、『像』の恩恵か。『像』による身体能力の向上は、別に筋力や体力、魔力量の向上だけに留まらない。動体視力や聴覚、触覚に至るまで。ある程度の向上が見込まれている。


 しかし、エルフィの……槍術八段階格の彼女に対して、「力を得ていない」とはどう考えてもおかしな表現だ。つまりは、「普通ではない力を得ている」可能性を考えていたという事。……『神定遊戯』の影響を考慮されていた、という意味合いに他ならない。

「名を聞こう、ドラゴーニャ王国の客人。」

俺は彼に声をかけた。オベールの率いている部隊は、その質を見る限り、盗賊団ごときに後れを取るほど弱くはない。だからこそ、彼らの敗北の原因は、彼らにあるとしか考えられない。

「初めまして。ドラゴーニャ王国軍少将、『ドラゴンの将軍像』の力を賜りし者、ソリュン=ベネット=ラゴンという者だ。」

「ドラゴーニャ王国軍少佐、『ドラゴンの跳躍兵像』ピオネ=エネス=リヴァス。」

やはりか。エルフィが予想していた以上、ほぼ確実だとは思っていたが。『像』がこんなところに出向いてくるか。しかも、『跳躍』まで使って。


 これは、明らかに不味い。振り返ると、兵士たちには激しい動揺が見られた。そうだろうよ。もうこの時代、神の威は忘れられて久しい。それでも、信仰と恐怖まで忘れられたわけではない。……身近でなくなった分、むしろ心の支えにする者すらいるのだ。

「嘘、だろ?ドラゴーニャ王国だって?」

「『将像』って、あれだろ?軍の身体能力をあげるっていう?」

「か、勝てるわけがねぇよ。」

だからこそ。相手が神の威を持っていることに怯える者が増える。士気が落ちる、練度も低い盗賊集団ごときに遅れをとる。


 一手だけ。この状況を何とかする方法は、一手しかない。俺はまだ、『ペガサスの王像』ディアのことを明かしていない。この軍はまだあくまでアファール=ユニク義勇軍であって、ペガシャール王国軍ではない。

 兵士たちの動揺は、そのまま士気に直結する。そして、盗賊ごときに壊滅させられるようでは、これからの俺の覇道が見えなくなる。ましてその中に『王像の王』がいたとなれば。

 こいつに戦のことはわからない、そう思われると……帝国化に著しい支障が出る。

「ディール!」

「おう!!」

俺の叫びに、ディールが応える。俺の横まで駆けてきた彼に、俺は命令することを決意する。


 眠りの時期は、早すぎるものの、終わった。終わってしまった。雌伏の時期では、そう長くいることは叶わなかった。

「兵士の士気を持ちなおす方法がそれしかないとはいえ、早すぎたな。」

「言うな、エルフィ。仕方がない。戦いにはしなきゃいけないからな。」

隣まで歩いてきたエルフィと見つめあい、軽く微笑み合う。義勇軍の兵士たちは、何が出るのかと戦々恐々とこちらを窺っている。


 気付けば戦場は静寂に満ちていた。兵士たちも、ディールも、アメリアも、ヒトカク山の捕虜たちも。静かに俺の方を眺めている。

「『ペガサスの王像』ディアに選ばれた余、アシャト=エドラ=スレイプニル=ペガサシアが命じる!」

オベールの目が大きくなった。何も伝えられていなかった彼には寝耳に水な話である。

「ディールよ!『ペガサスの近衛兵像』の力を解放し、余に仇なす敵を討て!」

今まで使うことを控えさせてきた、『ペガサスの近衛兵像』としての力。それを解放するように命令して、ディールは。

「“我は『ペガサスの衛像』に選ばれし者なり”!」

同時、とんでもない光と共にその体に白銀の鎧が装着される。その筋肉質な体と相まって、いかにも歴戦の騎士を伺わせる見事な姿となっている。……『近衛兵』に与えられる固有能力が一、“王の守人”。


 神々しさを全身に宿した白銀の男。この場にいるほとんどすべてが腰を抜かす。貴族だろうが盗賊だろうが、誰一人関係なくペガシャールの民である。『ペガサスの王像』の意味を知らぬものは、いない。

 動いたのは、ディールからだった。いや、技量差の問題で……あちらは動くことが出来なかった。

 ドラゴーニャ王国の将軍とアシャト専属の近衛兵は、力を解放した状態で互いにその槍を放ちあう。それは、人外の力を宿した者、神の力を借り受けた者同士の争い。


 しかし、その戦いは、もう一人の力を宿した者の手によっていとも簡単に止められた。

「やめる。ラゴン将軍。……直接戦えば、『像』のない彼にも勝てまい?」

ふっと彼の背後に現れた彼女が、その背に手を触れた瞬間に、ディール達より離れたところに跳んだ。

「私たちの役割は、勝つことじゃない。ペガサスの王の力量を見ること。」

「しかし、まだ見足りないのではないか?」

誰に俺が王であると教えられた。喉元まで出かかったそのセリフを、グッと堪える。

「もう十分。『将像』の力を与えられた部隊と戦える指揮官。エルフィールという規格外。それに匹敵する武力の持ち主。アファール=ユニク子爵の支援。」


少女は淡々と、今の俺の状況を、そのピースを明かしていく。

「それだけの力を、『裸』の王様が持っている。脅威。」

「ならば、ここで討った方がよいのでは?」

「無理。『将像』の身体強化は1.5倍。一騎打ちなら、相性が悪い。」

軍で打ち払うという思考は、そもそも出なかった。俺も、彼らも気付いているのだ。特に精兵ではない盗賊たちでは、数で勝ったところで俺達には勝てないということに。


 『将像』の性能は、その配下の部隊の基礎能力の上昇。『連像』『大像』『騎像』『車像』他あらゆる指揮官系の『像』たちに共通する能力であるが、その倍率は『将像』が一番高い。

 将は個人の戦闘能力より、軍の統率能力を求められる。それがゆえに、ディア曰く「個人身体能力倍率1.5倍、配下身体能力1.6倍」が基礎らしい。 しかし、いくら身体能力が高くともそこ技術が伴わなければ意味がなく。

「なら、帰るか。」

「ん、跳ぶ。」

気付けば、ドラゴーニャ王国の二人組はその地から去っていた。俺という「ペガシャール王国の王」の素質をしっかりと見極めて。


 それと同時に、俺は表舞台に引っ張り出されてしまった。まだ早すぎたというのに。まだ力も人手も、名声すらも足りていないこの状況で。

 これから、ペガシャール王国の王として、堂々と宣言し、戦っていくことを……。


 ソウカク山の盗賊は、ドラゴーニャ王国の将たちが去った瞬間に降伏した。リーダーがおらず、そもそも敵は正式な『王像』に選ばれた王。

 勝てる道理がないと、判断してしまったのだ。

「これより、フィシオ砦に撤退する!」

アシャトの宣言とともに、兵士たちは撤退を始める。

 アファール=ユニク義勇軍改めペガシャール王国王像軍。フィシオ砦に入っている兵士を含めて、総兵士数は降伏した盗賊たちも合わせ、4000を超えないほど。

 あまりに頼りない門出に、それでもアシャトは、やっていこうという覚悟を作り上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ