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157.そして貴族殺しの傭兵団へ

 キツイな、と思った。

 敵が多い。六人の貴族を守る護衛は確かに少ない。だが、どう考えても質が高すぎた。

「ガァァァァ!」

踏み込んでくる剣士の一撃をいなす。隙をつこうとしてくる槍使いの攻撃を弾き飛ばす。前進、少し肥えた男の首を叩き切る。

「一人目ぇ!」

ようやくか、という思いが去来する。ズヤンが放つ魔術が、護衛のひとりを丸焼きにした。


 肉が焼けるにおいがする。それ以上に、血が燃えて蒸発し、鉄っぽい、しかし生き物の臭いが鼻を衝く。

「ふ、ぅ!」

14人で戦う相手ではない。そう思いつつも、二人の護衛を斬り捨てて、一人の貴族の喉笛を一突き。残りは四人。

「ヘイディス!何たる様か、今すぐこいつらを殺しつくせぇ!」

馬車の中で男が叫ぶ。それを受けて、筋骨隆々の一人の男の強さが増した。

 不味い、アレは他の男たちで対処できない……そう思って、わずかに下がる。

「逃がさなければ構いません、生存優先で戦ってください!」

ズヤンの叫び。それに頷きつつ、傭兵たちが再度周囲に展開する。ギャオランを囲む兵士たち、彼らを馬車ごと囲い込み、傭兵たちは機を伺った。


「あいつ……共倒れ狙いか!」

ヘイディスという男の剣は早く鋭い。そして、筋肉量が伊達でないと示すように、一撃一撃が重い。

 一人相手なら勝てる。他がいなければ勝てる。だが、他にも気を配りながら戦うとなると、負けないように立ち回ってしまい、結果として追い詰められていく。

 一人、二人と斬り殺した。槍の部分は、あまり使えない。確実に喉を仕留めない限り、骨肉に阻まれ武器を失う可能性がある。ひたすら槍斧の斧の部分で斬り殺し続けていた。

「強いな、本当に……我が名はヘイディス!ヘイディス=アレイオーン男爵!ボレッド=アーネルド伯爵家の武術教導の一族也!」

叫ぶ声が耳に入る。残念ながら、この時のギャオランに名乗りのシステムなどわからない。


 何か作法なのだろうとは思った。だが、どうでもよかった。

「貴族か。ならお前から死ね。」

護衛になど出来れば手をかけたくはない、という思いがあった。だが、そんなものは関係なかった。

 私兵の多くは役人である。農民が兵士になることも多いが、役人たちも当然兵士になる。貴族を護衛するような兵士であったり、貴族軍に調練を課すような指導者であったり……そういう輩は基本的に、役人か貴族で占められている。

 ギャオランはこの日、貴族の率いる兵士たちに遠慮はいらないことを知った。皆貴族だと思って虐殺してもいいことを知った。

「じゃあな。」

瞬撃。剣で受けたヘイディスが、剣に伝わる衝撃に戦慄する。

「う、おぉぉ!」

攻める。守りに入ればそう何度も耐えられないと、ヘイディスは悟った。最速で、最高効率で、とにかく相手に一撃入れるための連撃を繰り返す。


 周囲の兵士もそれに倣った。ギャオラン以外の傭兵たちを牽制しつつ、ギャオランを弑さんと踏み込んでいく。

「いたぞ、貴族だ。殺せぇぇぇぇ!」

地鳴りと地響き。どちらかと言えば不利になっていたギャオランたちを救う、馬蹄の響きが近づいてくる。

 一瞬、目の前の……ヘイディス=アレイオーンという男が呆ける。その隙を、ギャオランは決して見逃さず、一撃で喉笛を仕留めてしまった。

「う、あ。すま、ぬ。グラ、ディオ。ち、ち、は」

最後の言葉は、言い切れなかったらしい。彼がこと切れ倒れ込むのとほぼ同時。

 数多の盗賊たちが、ギャオランと戦う馬車の者たちに向けて突撃した。




 一方的な蹂躙劇だった。盗賊たちは数少ない貴族の護衛達を、数で圧殺するかのように蹂躙した。

 もちろん、ギャオランも暴れに暴れた。結果として、盗賊たちが来る前は10分余り戦い続けていたにもかかわらず勝てなかった貴族たちが、たったの5分で殲滅された。

「助かったぜぇ。ありがとよ。」

「……お前、最近噂の役人殺しの傭兵か。」

礼に対してぶっきらぼうな問い。ああん?と言わんばかりに顔を顰めつつ、「そうだ」とギャオランは返す。

「今はオルクス=アーネルド子爵に飼われていると聞いていたが……殺されかけていたようだな。」

「共倒れ狙いだろうぜぇ……今からあいつ殺してくらぁ。」

言い切る。そんなギャオランに、眩しいものを見る心地で目を細めながら盗賊の首領は言った。

「手を貸そう。生きたい俺たちを締めあげようとする貴族は、俺たちにとっても敵なんだ。」

この日、ギャオランはもう一つ大事なことを知った。


 贅を得るために、民からものを奪う貴族に対して。生きるために、民から食糧を奪うのが盗賊だという、あまりにも単純な事実を知った。

 全員が全員ではない。だが、盗賊になろうとするきっかけは、少なくとも今日この日を生きるためなのだとギャオランは知ったのだ。

 生きる。自分の力で生きる。


 自分の力で生きたくないから税を絞り、贅を尽くす貴族の生き方は気持ち悪かった。

 自分の力で生きたいから手を汚し、その日その日を生き抜いていく盗賊の生き方は素晴らしかった。

 それはどこまで行っても理想論で、どこまで行っても子供の考えだ。そして、自立して生きられる強者の思考でしかない。

 だが、ギャオランの生き方は恐らくそこで確定した。誰に雇われ誰を討つか、ギャオランはもう、騙してすら来る貴族の手を取るより、盗賊の手を取る方が何倍もましだと思った。


「いいぜ。遅れるなよ、盗賊ども。」

「ああ、もちろんだとも。お前の力を見せてくれ。」

盗賊が笑う。それを合図にギャオランたち傭兵は走り始めた。


 全ては憎き、オルクス=アーネルド子爵を討つために。


 たまったものではないのはサムソンである。共倒れを狙ったのは事実であった。ギャオランは強い。とてもとても強い。だが、まだ15歳の若造でもあった。

 だから、経験豊富な私兵を多く抱え、かつ教導の一族までがいるところに放り込めば、貴族の一人くらいは生き延びるだろうがギャオランは死ぬだろうと踏んでいた。盗賊の援護があるなど、想定外もいいところである。

「く、なんとかならぬのか、コラウ!」

「盗賊の数は……50くらいか。どうしようもありませんねぇ。」

諦めるようにコラウが吐き出す。己の死を悟った男のぼやきなど、宙に消えゆく霞のように儚い。ただ、どうしようもないという現実だけをサムソンの元に伝えてきた。

「……そう、か。」

最も信頼する右腕が諦めた以上、サムソンとて諦めるしかない。もしもアシャトがこの話を聞いていたなら、「惜しい人を失くした」と言っていたところだろう。……まあ年齢的に、『神定遊戯』が始まった頃には死んでいるか現役引退後の老人だっただろうが。


 椅子にどかりと腰掛ける。最後くらい、貴族らしく死のうと思った。

「毒。」

「はい。」

人の手にかかっては死なない。貴族に殺されるなら、戦場で戦死するならまだマシだった。が、平民ごときが己の命を絶つなど、サムソンのプライドが許さない。


 他の貴族たちにギャオランをけしかけ、殺しつくした男の思想ではない。だが、己を棚に上げて考えることが出来るのが人間というものだ。サムソンはどこまでも俗物で、凡人であったというだけにすぎず……

 ギャオランがその部屋に勇んで跳びいった時、サムソンは死んでいた。あまりにも呆気ない終わりだった。




 いつからだろうか。ギャオランは一大傭兵団を築き上げていた。

 彼が望んだわけではない。盗賊たちに雇われ、盗賊討伐に訪れた貴族の軍と戦い、その全てを追い返し、蹴散らし、殲滅する中で、いつの間にかギャオランについてくる男たちが増えていた。

「いいか、盗みはするな。貴族の所から飯を奪うのはいい。だが、農夫どもに手を出すな。その日を必死に凌いでいる人間たちの邪魔をするな。俺たちが殺すのは、土に塗れず、他の奴らから接収して生きている奴だけだ。」

そこに、綺麗汚いはなかった。貴族に、政治家にそんなものはないというのがギャオランの思想だった。

 人の集合体。それが国家というものだ。それを効率的に運営する方法が、統治方法というものだ。ギャオランにとって、王であろうが、貴族であろうが、根本的に変わりはない。


 ひどい話。ギャオランが望む、人が搾取されない社会というものがあるならば、それは全ての国家を失くし、人と人との群れを失くし、人から知性を奪い去って、けだものに戻る以外に方法はない。

 賄賂も不正も捏造も。人が知性をもって生き、人が欲をもって生きるというのなら……残念ながら、避ける方法はない。少なくとも、国家という形が存在する、人による統治というものが実在する間は、その為政者が欲に囚われるのを避ける手段はない。

 だから、殺す。上に立つものを悉く殺し、全ての人間を土いじりの時間に戻す。そうすれば、必ず腐敗が消え去ると……ギャオランはそう信じていた。


「てめぇ、そんな子供みてぇな思想してるのか。」

「悪いか。」

「いんにゃ。人の勝手だろうよ。だが……やっぱガキだわ。」

傭兵会議とやらに引っ張り出された。その席上で、“白冠将”とやらが言ったセリフに、わざわざギャオランは反抗しなかった。

 ガキなのは知っていた。子供の思想だとは知っていた。だが、貴族たちを認めることもまた、出来そうにはなかった。

「てめぇの二つ名は“黄餓鬼”だ、ギャオラン。俺様が言うんだ、逆らったりはしねぇよなぁ?」

「したら?」

「俺たち“百芸傭兵団”が、てめえの相手をしてやろう。」

ペレティ=ナイト=アミレーリアと名乗った男の後ろで、多くの人間がざわめいた。その総数は万を軽く超える。


 この時点で、ギャオランが率いている傭兵たちも千を超えていたし、一人一人の実力だけを見たならばギャオランたちの方が上だっただろう。

「やめておこう。死ぬ気はない。」

だが、粒一つ一つの視点で見れば話は別だった。数倍の人数差だけなら覆せる。しかし、数人……八人ほどだろう。ギャオランでも倒すのに時間がかかると思うほどの英傑がいた。二人は同時に戦ってもいい、しかし三人目がいれば負けると思えるほどの英傑が、八人いた。

 戦えば、負ける。それはギャオランをしてほとんど確定的な真実であり。

「まぁ、いい。てめぇ、盗賊以外に雇われる気はねぇのか?」

ペレティの問い。それに、ギャオランは答えなかった。答えるまでもなかった。


 それから25年間、ギャオランはいつの間にか『黄飢傭兵団』と呼ばれ始めた傭兵団を率い、盗賊にだけ雇われ、貴族殺しを請け負う傭兵団として活躍した。25年間の間、傭兵界において個人の武勇が最も優れた男はギャオラン一択であり、その実力がゆえに『黄飢傭兵団』は強さを求めるバカどもが集まる場所となった。


 それから25年後、ギャオランが41歳になった時。ペレティの息子、ビリュードが九段階格として名を馳せたことで、ギャオランは傭兵最強の座を追われ……。


 しかし、変わらないことが一つ。ギャオランの思想は、子供のころから何一つ変わっていなかった。

 不正を許さず、私腹を肥やすことを許さず。賄賂を許さず、人が人を統治することを許さず。


 どこまでも徹底的な、人間としての平等を求める姿勢は、どこからどう見たって“ガキ”だった。


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