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悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました  作者: 永瀬さらさ
第二部

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23


「白百合姫に与えられる賞品が魔香!?」

「――っていう怪文書が、うちの新聞社宛に届いたんだよ。タレコミだ」


 息を切らしながら、警備隊に与えられた部屋で報告したのはジャスパーだ。学園祭中は新聞記者が出入りしても不自然ではないと、足を運んでくれた。

 他にもリュックやクォーツも研究室からこちらへ移動してきている。もちろんアイザックも、アヒルのかぶり物をとった生徒会メンバーも、皆にお茶を配るレイチェルもいた。すでにレイチェルにも、オーギュストに説明したのと同じ話を聞かせている。


「差出人は不明?」

「そうだ。魔香って単語がアタリすぎるだろ。えーと、アイリー……」

「アイリ」


 そっとリュックがジャスパーにささやき、ジャスパーはベレー帽をかぶり直しながら頷く。


「そうそう、アイリに知らせろって言わんばかりだろ。どうする?」


 ジャスパーに文書を渡された後ろで、アヒルのかぶりものをはずしたオーギュストがゼームスにささやく。


「アイリって知り合い多いよな。すごいなーこれが秘密組織ってやつか」

「お前は単純でいいな……」

「あれが懇意にしてるっていう新聞記者なのかねーどう思う、カイル」

「確かにただの新聞記者にしか見えないが……それよりアイリは何者なんだ、本当に」

「なあ、あいつらなんだ?」


 ひそひそ話に気づいたジャスパーがアイザックに尋ねた。アイザックは端的に答える。


「新しい下僕候補」

「……。まだ若いのに……頑張ろうな。何かあったらおじさんに相談してくれ」


 ジャスパーにぽんぽんと肩をたたかれたゼームス達がなんとも言えない顔をしている。


 ――白百合姫に与えられる賞品は魔香だ。


 それだけしか書いていない怪文書を確認したアイリーンは、まずウォルトに問いかけた。


「そっちにこういう情報はあった?」

「俺は聞いてないね。カイル、お前は?」

「俺もない。とにかく今すぐ内密に賞品を持ち出して確認すべきだ」

「無理だ」


 切って捨てたのは、さっさとアヒルの着ぐるみを脱ぎ捨てたゼームスだった。


「賞品はもう会場に運ばれているが、白百合姫が決まるまで中身は開けない決まりだ。こっそり確認しようにも見張りがいる。賞品は高価なものと決まっているからな。以前、盗もうとした学生がいたせいで、管理はかなり厳しい」

「正攻法で見せてもらうために説明するのも難しいしね……生徒会の要請でも駄目かな?」

「無理だろうな。白百合姫を決めるのは百合の貴婦人たちの管轄だ」


 オーギュストが両腕を組んで考えこんだ。


「うーん、じゃあ白百合姫に見せてもらって、魔香なら譲ってもらうってのは?」

「白百合姫の一番の候補はセレナ・ジルベールだろう。今から頼んでおくか?」


 カイルの言に、アイリーンは首を振った。


「それだと不確定だし後手だ。今、できることはないかな」

「あの……いいですか?」


 そう言ってレイチェルが恐る恐る手を上げた。

 警備隊という形で魔香の調査をすることになったため、レイチェルにはオーギュスト達にしたのと同じ説明をしてある。


「よくわかっていないかもしれませんが……白百合姫の賞品が欲しいんですよね、アイリ様」

「うん、そうだよ」

「なら……私、審査に出ましょうか? し、白百合姫になれるかはわかりませんが」


 ぽん、とアイリーンは思わず手を打った。


「それだ! そうだよレイチェル、頼める!?」

「は、はい。お役に立てるなら、頑張ります!」

「大丈夫かよ。舞台立った瞬間ぶっ倒れるんじゃねーの。社交能力とか低そうだろ」


 眉間にしわをよせたのはアイザックだ。だがアイリーンが苦言を呈する前に、レイチェルが声を上げた。


「で、できます! 私、伯爵令嬢ですよこれでも!」

「……他に適任いるんだけど……まあ、これはこれで仕方ないか」

「仕方ないってどういう意味ですか!? そ、それに適任って誰のこと――」

「レイチェルってセレナの対抗馬って言われてたよな。俺は大丈夫だと思う!」


 なっとオーギュストが周囲に同意を求めると、ウォルトが頷いた。


「セレナちゃんの次点での白百合姫候補はレイチェルちゃんだ。アリなんじゃないかな」

「俺にも特に異論はない」

「いざとなれば白百合姫になった人物に交渉すればいいだろう。私はどうでもいい」


 学園の現役生徒に言われてはアイザックも反論できないらしく、肩から息を吐き出した。


「なら、それでいいんじゃね。リュックは?」

「僕は生徒ではないので、判断はお任せします」

「……リュックに同じくだ」

「おじさんも。あ、でも支度とか大丈夫なのか、お嬢ちゃん」


 ジャスパーの言葉に、レイチェルが慌てた。


「そ、そうですね。ドレスとかお化粧の準備が……あっドレス、私、売ってしまって」

「大丈夫、まだ昼過ぎだ。夕方の舞踏会には間に合うよ。ドレスはジャスパー、ツテでいいの用意できるだろう。アクセサリーも、アイザックと二人で選んできて」

「えっ? ア、アイザックさんとですか……!?」

「なんで俺が。めんどくさい」

「流行には敏感だろう? それが君の本分だし、できないとは言わせない」


 アイザックはレイチェルがおろおろしているのを見て、舌打ちした。


「わあったよ。行くぞおっさん」


 ジャスパーはアイリーンとアイザックを交互に見てから、最後にレイチェルに親指を立ててみせた。


「まかせとけ、お嬢ちゃん」

「は、はい。でも……いいんでしょうか……その、ドレス……」

「いいんだよ。あ、化粧品はオベロン商会のものでいいかな」

「えっ……あ、あるんですか!? う、噂には聞いたことあるんですオベロン商会! でも皇都じゃないと手に入らないって……!」


 目をきらきらさせたレイチェルの助けになればいい。

 快く頷いたアイリーンの後ろで、リュックとクォーツが化粧品を持ってくるために立ち上がった。



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[良い点] 2の悪役令嬢で、本当は男子の前でしか良い子を演じれない悪い子かもしれないけれど、少なくともちゃんとやるべき事はしてる良い子だから、こういうの嬉しくなっちゃうね というか、リリアにしろ2のヒ…
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